波瑠と東出昌大、離婚してそれぞれの未来へーー『あなそれ』最終回が示した、W不倫の結末

『あなそれ』最終回が示した、W不倫の結末

 「いろんな夫婦がいるのね」仲里依紗演じる有島麗華が放ったセリフが、火曜ドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系)が最終回で示した、ひとつの答えのような気がした。

 不倫の末に、離婚する夫婦もいれば、やり直す夫婦もいる。「もったいない」、「そういうヤツは、また不倫を繰り返すよ」……他人事ならばなんとでも言える。傍から見れば幸せそうな夫婦も、問題を抱えていそうな夫婦も、きっとそれぞれが課題と向き合って夫婦を続けているのだろう。ふとしたきっかけで絆が深まったり、掛け違えたボタンがもつれてどうしようもなくなったり、「こういうのには正解がない」のだ。

 W不倫のあげく妊娠疑惑と暴走を続けてきた主人公の美都(波瑠)は、夫の涼太(東出昌大)と、紆余曲折の末に離婚した。狂気じみた行動に出るほど涼太は、美都に固執していた。提出されない離婚届、片付けない結婚式の写真、そして最後の食事。もしや涼太は自分と離婚したら生きていけないのでは?と、考える美都は、死ぬくらいならよりを戻そうと提案する。どこまでもお花畑な思考回路の美都を、以前は愛でていた涼太も「みっちゃんらしい。自分を肯定することに関しては天才的……今僕にとってみっちゃんのことは、それほど」と、言い放った。そして、同情で復縁を申し出た美都に「僕でも1番好きな人と結婚できたのに、かわいそう」と同情で返す。お互いに情けをかけてはいるが、そこには相手への尊敬の念がない。それを美都は「やさしい暴力」だと言った。きっと、涼太にとってはこのシーンは必要な作業だったのだ。「あのころ好きだった人は、もうこの世にはいない幻」とは、美都の親友である香子(大政絢)の言葉。もう自分が愛した妻は、この世にいないのだと、心の中で美都を殺すほどの言葉をかけなければ、前に進めなかったのだろう。

 一方、有島(鈴木伸之)も、かつての妻を失った。自分の不倫によって、麗華の心を殺してしまったのだ。家を出た麗華を思いながら、お香に火をつける。誰もいないマイホームに、いつもと変わらぬ香りが立ち上る。幻となってしまった幸せなころの家族を思い起こす。その作業は、まるで故人を思う線香のようだ。「一生許さない」夫と美都によって殺された麗華の心は、どんなに時間が経っても元通りなどならない。それでも有島と夫婦を続けることにした麗華。二度と有島が不倫をしない保証などない。謝罪の仕方も納得しているわけではない。それでも、パートナーとしてやっていく覚悟を決めたのだ。結婚とは未来の愛を信じること。信じられるうちは、努力を続けられる。そうして、麗華もまた自分を傷つけた有島と美都を心の中で殺したのだろう。自分が前に進むために……。不倫が罪深い行為とされるのは、もしかしたら心の中で殺人が行われるからなのかもしれない。誰かの心が殺される。また、相手の家族の存在がいなければと願ってしまう。そんな物騒な思いを抱くきっかけになる。不倫に手を出すには、「一生許されない」という十字架を背負う覚悟を、自分に問わなくてはならないのだ。

 ドラマの終盤、興味深かったのは、正反対に見える美都と麗華にあった共通点。自分の母親に「お母さんのようにはなりたくない」と言う。自分が知っている最も身近な夫婦像は、両親だ。「お天道様が見ている」という母親の口癖にこだわっていた涼太も、また然り。親は子に笑っていてほしいと願い、自分の失敗を繰り返してほしくないがために、あれこれと教訓を伝える。子は親より幸せになろうと、知らず知らず親の教えに縛られていく。親や世間の誰かが示す“正しい幸せ“の形に囚われ過ぎると、自分の幸せが見えなくなってしまうものなのかもしれない。隣の夫婦と自分たちを比べて劣等感に苛まれたり、SNSで幸せアピールをしたりせずとも、自分なりの正解を見つければいいのだ。未婚であっても、バツがあっても、何歳になっても、セクシャルマイノリティであっても……それぞれの幸せの形が見つかることを願うエンディングのように感じた。

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