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松江哲明の“いま語りたい”一本 第19回

松江哲明の『イップ・マン 継承』評:古き良きカンフー映画の魅力が詰まった、安心のシリーズ

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 本作でシリーズ3作目となる『イップ・マン』ですが、僕は今回の『イップ・マン 継承』(以下、3)が一番好きです。映画単体の完成度で言えば『イップ・マン 序章』(以下、1)『イップ・マン 葉門』(以下、2)の方が上だと思いますが、3はシリーズものとしての安心感があるというか、とにかく“ちょうどいい”。変な言い方かもしれませんが、あえてスケールダウンさせて、世界観を小さくしたのが良かったと思います。1は日本軍との戦い、2では終戦直後、混乱したイギリス占領下での異種格闘技戦がメインでしたが、今回は街のチンピラとのいざこざ、奥さんが病気、同じ詠春拳使いの達人の出現……子供の時の自分が観ても分かるぐらいのシンプルな物語です。3はそこがいいんです。シリーズをあえて振り出しに戻したんでしょうね。きっとこれからも続けるために。もちろん、敵をバッタバタと倒していくイップ・マンの姿を見て、子供は憧れるし、大人は子供に戻ることができる。そんな娯楽作としてのツボは今回も健在です。

 そして、なんといってもイップ・マンを演じたドニー・イェンの格好良さ。彼の一番のアタリ役は間違いなくこの“イップ・マン”だと思います。デビュー当時の彼は、ナルシスト全開の「俺、格好いいぜ」的なアクションで、だんだんスティーヴン・セガールっぽくなっていました(笑)。とはいえ、彼のように代役していることが丸わかりではなく、どの作品でも圧倒的なアクションを披露していて見応えがあるのですが、あまりに強すぎて映画のバランスを崩している時もあるんです。でも、イップ・マンというキャラクターは、ものすごく強いのに無闇に力を誇示しない、しかし、奥さんには絶対敵わない家族を大事にする男です。「能ある鷹は爪を隠す」キャラなんですね。ドニー・イェンがそういう男を演じるのは新鮮でした。1では日中戦争下における広東省仏山、2と3ではイギリス統治下における香港と、外国の影響が色濃くある中で生きる中国人の姿を、理想的な形で具現化したのがイップ・マンだと思います。それがドニー・イェンの本質的な強さと見事に合致しました。

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 3のストーリーは背伸びをしていなくてちょうどいい感じなんですが、一方でアクションは今回も凄いです。特別ゲスト枠でマイク・タイソンが出演するのもよかったですね。世界中の人々が、マイク・タイソンが実際に「強い」ことは知っていますが、それをただリアルに描くのではなく、フィクションとして見せ場を作っていました。あえて決着をつけずに、ゲストとしてしっかり立てるのもお見事(笑)。そして何より敵役・マックス・チャンが素晴らしかった。

 もともと彼はドニー・イェンのスタントマンをやっていた人です。僕が彼を最初に認識したのが『グランド・マスター』。その後の『ドラゴン×マッハ!』もすごかった。あの作品のクライマックスは近年では最高の格闘アクションだったと思います。『パシフィック・リム:アップライジング(原題)』への出演も決まっている、期待の俳優ですね。本作で演じたチョンは、息子との生活費のために、自分の力を誇示し、“詠春拳”の正統をめぐってイップ・マンに闘いを挑むという役どころ。

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 ふたりの闘いは、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』にも出演し、今や世界的アクションスターとなっているドニー・イェンと、これから世界的スターになるであろうマックス・チャンという構図と、リンクして見えるのが面白い。それはシリーズを重ねているからこそできることです。

 本作では、アクション監督が前作までのサモ・ハンからユエン・ウーピンに変更されました。メイン監督ウィルソン・イップはそのままに、アクション監督を変えていくのは、毎作品ごとに何を見せるかが明確に定まっているからだと思います。ウィルソン・イップ監督は、ドラマとアクションシーンのバランスがとても上手い。彼の初期作『OVER SUMMER』でもそれは表現されていて、どこか『男はつらいよ』のような下町人情コメディ風味が感じられる刑事アクションでした。当たり前と言えばそうなんですが、“アクション”が最優先されがちな香港映画の中で、アクションシーンがドラマの一部として機能しているのは、ウィルソン・イップ監督の手腕の賜物です。今回もストーリーの軸に「家族」があるから、観ていて共感が出来るんだと思います。ドニー・イェンも、マックス・チャンも、悪役のマイク・タイソンでさえ、家族を抱えて戦っているんです。映画監督って、「俺はこういうふうにやりたいんだ! だからみんなついてこい」というタイプと、各スタッフの長所を引き出してそれをまとめるタイプと二種類に分かれるんですが、彼は後者だと思います。

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 最近の中国映画には不満がありました。“国内”を意識している映画が多すぎで、僕らが知らないスターの見せ場が延々と続き、話が破綻していたり、CGの使い方も二番煎じで、ハリウッドの真似事で終わってしまっている印象を受けました。でも、本作には古き良きカンフー映画の魅力が存分に詰まっています。

 例えば、ジェット・リー主演の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズ。決して、右肩上がりの面白さとは言えないんですが、お馴染みのキャラクターが増えていって、見ていて安心できるホーム感があるんです。日本映画で言えば、『男はつらいよ』とか、『釣りバカ日誌』、『トラック野郎』とも通じる部分があります。例えば『エイリアン』シリーズは、毎回作風をぶっ壊していく真逆の形で、それはそれで面白いですけれど、変わらないシリーズの良さもあると思うんです。

      

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