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『オズの魔法使い』を危険な“大人向けドラマ”に 『エメラルドシティ』異才ターセム・シンの作家性

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 アメリカで生まれた初のおとぎ話といわれる児童文学『オズの魔法使い』。竜巻に巻き込まれ、不思議なオズの国まで飛ばされてしまった少女ドロシーと犬のトトが、カンザス州の我が家へ帰るため、頭がからっぽのカカシ、心のないブリキの木こり、臆病なライオンを仲間にして、強大な力を持つ魔法使いが住むという、エメラルドシティへと続く黄色いレンガの道を旅していく。

 この誰もが一度は聞いたことのある有名な物語を、現代の「大人向けドラマ」として、映画界の異才であるターセム・シン監督が大胆な映像で甦らせたのが、本作『エメラルドシティ』(全10話)だ。ターセム・シンといえば、強烈な色彩あふれるアーティスティックな美的センスで、圧倒的なヴィジュアルを作りだす映像作家である。彼の手によって、この有名なおとぎ話はどのように変貌したのか。Huluによる配信が始まって、まだまだ謎に包まれた本作。ここでは作品の特徴を見ながら、本作の見どころと、ターセム・シン監督の作家性について、できるだけ深く考察していきたい。

最も危険な『オズの魔法使い』

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 1900年に発表された、ライマン・フランク・ボームによる児童文学『オズの魔法使い』は、何度も実写映画化されており、ボーム自身が製作した初期の自主映画を合わせると、今までに10作ほど作られている。なかでも最も有名なのは、当時珍しかったテクニカラーを駆使した鮮やかな色彩が話題となり、劇中歌「Somewhere Over The Rainbow / 虹の彼方へ」などの名曲が印象深い、ヴィクター・フレミング監督、ジュディ・ガーランド主演のミュージカル映画『オズの魔法使』(1939)である。この作品を経て、アメリカ人の意識の中に、『オズの魔法使い』という物語は、さらに広く知れ渡り、深く理解され、一種の神格化された存在に成長していったといえるだろう。

 決定版といえる1939年版が公開された後、ダイアナ・ロスが主人公ドロシー、マイケル・ジャクソンが歌って踊るカカシを演じるなど、登場人物がアフリカ系の人種に置き換えられた、ブロードウェイ・ミュージカルの映画化作品『ウィズ』(1978)、ドロシーの冒険のその後の物語を描いたディズニーの実写映画『オズ』(1985)、サム・ライミ監督による、同じくディズニー製作のオズを主人公とした『オズ はじまりの戦い』(2013)など、変化を加え新味を取り入れた『オズの魔法使い』が作られている。

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 今回、ドラマとして作られた『エメラルドシティ』の大きな特徴は、もともとのファンタジックな要素に加え、大人向けな残酷さや過激さが追加されているという点である。その意味では、やはり大人向けのファンタジー作品として大ヒットを果たした『ゲーム・オブ・スローンズ』からの影響も感じるところだ。本作は主人公ドロシーを、病院に勤務する大人の女性として設定を変更し、登場人物が命を奪われる直接的な表現や、都市に巣食う売春組織の実態など、原作にはあり得なかった危険な世界を描いていく。

 原作が有名だからこそ、新解釈された意外な設定を楽しむことができる。原作のカカシを、路上で磔(はりつけ)にされ記憶を失った男として登場させ、ドロシーと親密な関係になっていくなど、本作では恋愛の要素も登場する。最高なのは、エメラルドシティに続くという「黄色いレンガの道」の描き方だ。この道の色が黄色いのは、ケシの花粉がばら撒かれているからであり、そこを長く歩くと、空気中に舞うアヘンの効果によって異常な状態に陥ってしまうというのだ。このように児童文学を邪悪な方向に解釈するという一種の背徳感が、本作の大きな魅力となっている。

現代的な世界、現代的なドロシー

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 『オズの魔法使い』のドロシーといえば、おさげ髪でブルーのドレスを着た可憐な少女をイメージする。だが、本作のドロシーは、革のジャケットを着た、バリバリ働く20歳の女性だ。さらに、連れている愛犬・トトは小型犬から大型の警察犬になっており、かなり硬質なイメージへと変貌している。

 ドロシーを演じる主演のアドリア・アルホナ(『パシフィック・リム』続編にも出演予定)が、プエルトリコ出身のヒスパニックだというのも、今までの映像化作品にないユニークな点である。アルホナは女優になるために、ニューヨークでレストランなどアルバイトをしながらオーディションを受け続けていた、芯の強さが見た目にも表れている、実際にバイタリティあふれる女性であり、「現代」のドロシーにふさわしいように思える。危険なオズの国で生き延びるためには、ドロシーも清楚なままではいられない。彼女は身を守るために、ときに嘘をつき、自らの手を汚さなければならない。ドロシーや他のキャラクターを含め、善と悪の境界がハッキリと分かれていないように見えるのも、本作の面白いところだ。

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 現代的になっているのは、キャラクターの描写だけではない。物語の舞台ともなるエメラルドシティの美術は、原作の雰囲気に近いファンタジックな可愛さに、スチーム・パンク風のテクノロジーや、東洋趣味などが加えられることで、複雑で混沌としたものとなっており、そこにはアメリカ社会の実相が反映されているように見える。撮影では、俳優たちが細部まで意匠が凝らされたセットの完成度を絶賛している。

 ターセム・シン監督の作品といえば、俳優たちが着る服装も、その価値を左右する重要な要素となる。今回は『スター・ウォーズ』エピソード1〜3(新三部作)も担当した、トリシャ・ビガーが衣装を手がけている。ナタリー・ポートマンが演じたアミダラ女王の衣装が印象深い『スター・ウォーズ』新三部作では、銀河の広大な世界観にリアリティを与えるため、世界の各地域の民族衣装のニュアンスが用いられ、とくにアジア圏の要素が効果的に使用されていた。コンセプトが近い今回のマッチングは的確だといえるだろう。

      

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