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『カルテット』すずめが見た“夢”は何を意味する? 全篇に通じるテーマを深読み

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 『カルテット』がいよいよ終幕を迎えようとしている。先週放送の第8話は、あまりにも美しすぎる、すずめ(満島ひかり)の真っ白な夢の話だった。『カルテット』は、全篇を通して「夢」がテーマであると言えるかもしれない。第1話の夢の沼に沈んだアーティスト・ベンジャミン瀧田(イッセー尾形)が追いかけたベレー帽の赤から始まり、「カルテットドーナツホール」の4人は、アーティストとしての届かぬ夢を追い、片思いという夢を見る。

 彼らの周りには、決して姿を見せない猫がいる。第2話ですずめが自分の秘密をごまかすために咄嗟に言う台詞「猫があぐらをかいていたんで」、第8話でのすずめの「私の好きはそのへんにゴロゴロして、寝っころがってる」、そして、真紀(松たか子)が夫(宮藤官九郎)からもらった文庫本に挟まれた、2人で書いた2匹の猫のらくがき。猫の絵は、文庫本とともに、真紀が夫と別れた後に燃やされてしまった。「好き」という名の猫は、もしかしたらいつも『カルテット』の世界のどこかに佇んでいるのかもしれない。

 すずめの別府(松田龍平)に対する片思いの切なさは、夢と現実、すずめと別府の間の認識の違いにある。

 すずめは、第8話において2度夢を見る。夢と現実は、過去とその後の展開においてリンクしているが、少し違う。夢には、すずめの「こうだったらいいのに」という思いが込められているのだ。現実世界の別府が、夢の世界と同じように麺を茹でている別府でも、ナポリタンとそば、粉チーズとわさび、すずめの白い服とベージュの服と、ちょっとずつ違う。

 ここで、別府の回だった第2話のコンビニのシーンを振り返りたい。第7話で真紀がすずめに「抱かれたいの……」と1年ぶりに再会した夫への思いを吐露した場所で、すずめも別府に小さな告白をしているのである。2話の冒頭で、もたいまさこ演じる真紀の義母が、すずめに「右手で興味をひきつけて、左手でだます」手品師の手法を語る。そしてすずめは別府による見当違いの「家森さんのこと好きでしょ」という言葉を肯定する一方で、別府が右手に持ったラブラブストロベリーアイスではなく、左手に持ったロックンロールナッツアイスを、「左手」と言いながらそっとつつくのだ。つまり、右手ではなく左手、家森ではなく別府という意味で。

 そばを食べながらの別府とすずめの会話は、その認識の違いが表れている。2人は、初めて出会ってから今までを振り返る。初めて会った日のナポリタン(つまりすずめにとっては恋のきっかけ)までは2人とも認識が一緒だ。だが、別府が次に思い出すのは、すずめの突然のキスのことで、すずめが「ロックンロールナッツ食べましたよね」と言わない限りそのことを思い出さない。すずめにとっては恋のきっかけ→告白→キスという順当な過程を辿ったはずなのに、その回りくどい告白に気づいていない別府は、恋のきっかけ→キスという唐突なものでしかない。

 別府と真紀のコンサートデートをアシストしたすずめが、コンサートの上演時間に見る2度目の夢は、ナポリタン→コンサートデート→ロックンロールナッツというふうに現実と順番が変わり、コンサートに行くのは真紀ではなくすずめに変わっている。恋のきっかけ→デート→告白という、すずめにとってそうあるべきだった正しい順番を、夢は示しているのだ。真紀は結婚生活を終わりから始まりに向けて巻き戻すように、おでんを食べ、互いの結婚指輪を外しあい、離婚届を2人で提出し、抱擁ではなく握手で別れることで自分の片思いにけじめをつけた。すずめは、時間を巻き戻すのではなく、夢の中で修正するという形で自分の片思いを完結させるしかなかった。

 コンサート会場の看板に書かれた「夢」という大きな文字が切ない。それはすずめにとっての「夢」だけでなく、別府にとっても片思いの「夢」だからだ。いい感じだったはずのコンサートの後、結局別府は真紀に、家森(高橋一生)が言うところの「SAJ三段活用」で完全に振られてしまう。「好き」-「ありがとう」-「冗談です」と。得意のシミュレーションでごまかしながらすずめが好きだと言った家森もまた、同様だ。

     
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