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市川崑『犬神家の一族』からの脱却ーー長谷川博己、池松壮亮らによる新たな金田一耕助像

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テレビをつければ、金田一耕助がいる

 先ごろNHK BSプレミアムで放送された「スーパープレミアム 『獄門島』」と「シリーズ横溝正史短編集 金田一耕助登場!『黒欄姫』『殺人鬼』『百日紅の下にて』」が好評だ。おなじみの探偵・金田一耕助が活躍する横溝正史の原作から、代表的な長編と短編を映像化したもので、『獄門島』では長谷川博己、「シリーズ横溝正史短編集」では池松壮亮が金田一を演じている。

 この番組に合わせて、BSプレミアムでは映画の金田一ものから、渥美清が金田一を演じた『八つ墓村』(77年)、石坂浩二の『犬神家の一族』(76年)、『悪魔の手毬唄』(77年)、『獄門島』(77年)を放送し、それとは別にフジテレビの「SMAPグラフィティ」では稲垣吾郎のドラマ版『八つ墓村』(04年)が再放送されたので、わずか半月ばかりの間に5人もの金田一と対面することになった。

 これまで金田一を演じた俳優は、片岡千恵蔵、高倉健、中尾彬、古谷一行、西田敏行、鹿賀丈史、中井貴一、片岡鶴太郎、役所広司、豊川悦司、上川隆也、稲垣吾郎ほか、映画・テレビだけでも25人前後にのぼるが、ここに新たに長谷川・池松が加わったことになる。

神格化された『犬神家の一族』

 1976〜79年にかけて角川映画と東宝で映画化された市川崑監督による金田一シリーズ(『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』『獄門島』『女王蜂』『病院坂の首縊りの家』)の石坂浩二は、柔らかな物腰と、説得力のある語り口による謎解きで、原作ファンだけでなく、多くの観客から今もなお支持される決定版とも言うべき金田一である。映画自体も光と影を基調にした映像と鮮烈な殺人シーン、凝りに凝った編集で描く市川崑の遊び心あふれた作りが素晴らしく、シリーズを通して高い完成度をほこった。

 それ以前の金田一と言えば、片岡千恵蔵である。1947〜56年にかけて全6作(『三本指の男』『獄門島』『八つ墓村』『悪魔が来りて笛を吹く』『犬神家の謎 悪魔は踊る』『三つ首塔』)が製作されたが、原作の羽織袴姿で雀の巣のようなモジャモジャ頭ではなく、洋装にソフト帽で変装を得意とする華麗なる名探偵だった。このイメージが最初に定着してしまったために、以降30年にわたってスーツ姿の金田一が定番化し、時には高倉健の金田一のように、オープンカーでひなびた村に颯爽とやって来て、警視庁嘱託だと誇示しながらゴーマン探偵ぶりを見せたこともあったが、これは千恵蔵スタイルが肥大化して踏襲された結果とも言える。

 時代の流れと共に中尾彬のジーンズ金田一というのもあったが、原作と同じ設定で登場するのは石坂=金田一まで待たねばならなかった。そう、角川映画第1作となった『犬神家の一族』こそは、従来の金田一のイメージを覆す画期的なリブートだった。これ以降、原作通りの昭和20年代を舞台にした着物姿の金田一がスタンダードになったことからも、その効力がいかに絶大だったかうかがい知れるだろう。

 しかし、それから40年が経過し、その間に製作された数多くの映画・テレビの金田一が石坂版の影響から逃れられない現状を前にすると喜んでもいられない。例えば片岡鶴太郎が金田一を演じたシリーズ(1990〜1998年)では、相棒となる警部役に石坂版で同じく迷警部役だった加藤武が登場し、おなじみの決めゼリフ「よしっ、わかった!」まで連発する。稲垣吾郎の金田一シリーズ(2004〜2009年)の1作目となる『犬神家の一族』(04年)は、映像からして石坂版が踏襲されている。以前、同作の監督を務めた星護氏に取材した際に尋ねると、「テレビの仕事は、急に話がきていきなり来月に撮れという世界ですので、『犬神家』のときはイメージをまとめる時間が無かったんです。(略)そのときに市川崑版を改めて観てしまったんですね。これが悪かった(笑)。やっぱり大傑作だと思いました。これは正直に言いますが、素晴らしすぎたので、敬意ある引用というかマネして撮っちゃったところがありました」(『映画秘宝EX 金田一耕助映像読本』洋泉社)という答えが返ってきた。

 また、ミュージックビデオを先取りしたような映像感覚にあふれた市川崑の金田一シリーズの洗礼を中高生の頃に受けた世代が監督になったことも、『犬神家』の神格化に拍車がかかった理由だろう。中学2年の時に観た岩井俊二は『教本・犬神家の一族』と題したテキストで、「僕は映画学校で映画の教育を受けたことはないが、ありがたいことに市川崑のこうした高度な技術は、無防備に世間に出回っていた。僕はそれを観て研究し、自分で撮って試してそれを身につけた」(『別冊太陽 監督 市川崑』平凡社)と率直に記している。

 岩井や庵野秀明の作品にはその影響が刻印されているが、彼らは〈教本〉をもとに時間をかけて自らのスタイルを築いたが、前述したような短期間で〈教本〉をもとにドロナワ式に撮るテレビドラマでは、複製品に近い作品が登場するようになってしまう。タイトルの知名度が高いという理由で『八つ墓村』『犬神家の一族』ばかりを何度も映像化する悪循環と共に、画一化された金田一が量産されていくというわけだ。

 そうした弊害は、やがて〈教本〉を撮った市川崑にまで及ぶようになった。2006年に『犬神家の一族』が30年ぶりに再映画化されることになったが、監督と金田一役は市川崑と石坂浩二そのままに、脚本も前作のものを使用し、それどころかカット割りにいたるまで忠実に再現する凝りようで、わずかな違いを除けば、76年版『犬神家』の奇妙なレプリカとでもいうような作品が生まれた。ある種の実験作品としては意義深いものになったものの、ここまで倒錯した事態になると、そろそろジェームズ・ボンドやバットマンのように、おなじみのヒーローを斬新な視点かつ原作へのリスペクトを忘れずに甦らせる再起動を試みなければ、いずれ見向きもされなくなるのは目に見えていた。
 

     
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