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成馬零一の直球ドラマ評論『とと姉ちゃん』十四週目

『とと姉ちゃん』いよいよ出版社立ち上げへーー弱肉強食の戦後社会で女たちはどう戦う?

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 苦しかった戦争が終わり、いよいよ小橋常子(高畑充希)が出版社を立ち上げる『とと姉ちゃん』第十四週。

 まず圧倒されるのが、闇市の豪華なビジュアルだろう。スタジオにセットを作り大量のエキストラを動員して作られた闇市の映像は、臨場感たっぷり。繊維の街・浜松、木材問屋の街・深川と、『とと姉ちゃん』は町の広がりを描くことに力を注いできたが、それらと較べても闇市の描写は圧巻の一言だ。

 そんな闇市を通して描かれる新しい物語は、一見すると戦争から解放され、新しいスタートという明るいイメージだが、その裏側にある弱肉強食の世界に放り出された残酷さも容赦なく描かれている。戦争が終わったからといって常子たちの暮らしがラクになるわけでもなく、むしろ男たちが戦場から帰ってきたことで、女たちの仕事がなくなり、就職難にあえいでいるという理不尽な状況が描かれる。その影響を一番受けたのが無職となってしまった次女の鞠子(相楽樹)だ。せっかく戦争が終わって自由に生きられる時代になったのに、下手をすれば戦時中以上に食べていくのが困難な時代が訪れてしまったのだ。

 そんな中、小橋家に常子の親友の中田綾(阿部純子)が9年ぶりに訪ねてくる。夫が満州で戦死し空襲で家が焼け父を戦争で亡くしたという綾に対して、浴衣の余りを分け与えた常子は、綾がどこに住んでいるのかを尋ねる。後日、常子が赤ん坊のおむつになる布を届けに行くと、そこには大家に怒鳴られて土下座をする綾たちの姿があった。学生時代に自分をかばってくれた綾に対して少しでも恩返しをしたいと思った常子だったが、綾にとって、今の貧しい暮らしにあえぐ姿は親友の常子にもっとも見られたくない姿だった。もちろん、先に訪ねてきたのは綾の方である。おそらく、そんな常子に見栄を張ることすらできないくらい生活に困っていたのだろう。かつての綾なら突き返していただろうおむつ用の布も、赤ん坊のために遠慮がちに受け取るのだが、その姿が実に痛々しい。

 綾は母に席を外してもらい常子と向き合う。お互いに中々話そうとしない息苦しい沈黙の後、綾は自分の苦しい境遇を常子に告白する。
そしてそんな苦しい境遇の中、今も手放さずに持っていた平塚らいてうの「青鞜」を常子に見せて「これが唯一の心の拠り所」だと言う。

 綾の姿を見た常子は、会社を辞めて出版社を立ち上げる決意をする。退職理由について常子はこう答える。

「理由は二つあります。まず一つはお金です」

「時代が目まぐるしく変わっていく中、母と妹の食はなく、私一人の稼ぎで食べていくのは苦しくみんなを守れません。そして二つ目は本を作りたいからです」

 常子が作りたい雑誌とは「女の人の役に立つ雑誌」だった。

「戦争が終わった今、たくましく前を向いて必死で生きている人がいる一方で、戦争に翻弄されて苦しんでいる女の人が日本にはまだ数多くいらっしゃると思うんです。物がないお金がない。どうやって生きていけばいいのかわからない。こんな状況で戦争によって酷い目にあった女の人の手助けをしたいんです」

 また、常子が出版社を立ち上げたのは、叔父の鉄郎(向井理)の後押しがきっかけだった。欲に目がくらんでは商売に失敗してばかりのトラブルメイカーだった鉄郎だが、明日どうなるかわからない戦後の混乱期になると、むしろ彼のバイタリティが小橋家の支えとなる。「このご時世、すでに失敗してるようなものじゃないですか。黙って配給を待っていたら餓死してしまうような世の中ですよ」と常子は言うが、失敗続きの人生だったからこそ、鉄郎の強さがここで際立つのだ。

      

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