映画館は作り手の“情熱”をどう伝える? 『TOO YOUNG TO DIE!』極上音響上映の意義

“作り手と劇場の距離”

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第5回は“作り手と劇場の距離”について。

 春に公開予定だったものの延期になり、6月25日(土)に仕切り直しで公開になる宮藤官九郎監督最新作『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』。立川シネマシティではベテラン音響家に調整を依頼し、本作に最適な音響でお贈りする【極上音響上映】にて公開されることが大々的に公式より発表になりました。

 ひょんなことで地獄に落ちてしまった男子高校生が「キスもせずにこのまま死んでたまるか」と、なんとかして生き返ろうとする、宮藤官九郎監督らしいぶっ飛んだコメディです。

 ロックバンドを組んでいる鬼たちが登場して暴れまくるので、配給会社様よりぜひ【極音】で、とオファーをいただき、宮藤監督からもコメントをいただきました。ミュージカルに近いほど音楽がふんだんに流れる作品ですので、音量もたっぷり上げ、台詞が聞きづらくならないギリギリの線をついた音楽的なサウンドになりました。

 今回はスケジュール等の都合で監督や音響チームの方に立ち会っていただくことは叶いませんでしたが「作り手が聴かせたい理想の音」をシネマシティの細やかに調整が可能なサウンドシステムを使って鳴らしていただくことこそ、僕の野望のひとつ。

 例えばミュージシャンとライブハウスは、直接つながります。まさにその場所でプレイするわけですから当たり前ですが、そのハコの特性を踏まえて、音も演出も調整していくわけです。

 そのことで、より“その場だけ感”は高まり、公演1回1回がそれ1回限りのものになります。同じツアーで、同じセットリストのライブだとしても、ハコが変われば同じモノにはなりません。そこに面白さがあります。

 映画の制作者と劇場は、ミニシアターの場合は距離がかなり近いことも多いですが、シネコンの場合は間に配給会社を挟むこともあって、まず直接つながることは珍しいです。

 全国津々浦々の劇場で上映している作品になれば、どこか1館だけを特別に取り上げることもなかなか難しいことです(作品舞台の土地にある劇場が特別に扱われることなどはままありますが)。

 僕の企画で、初めて作り手の方に音響調整に立ち会っていただけたのは『鉄男 THE BULLET MAN』でした。

 大好きな塚本晋也監督の新作、それも「鉄男」シリーズ最新作が公開されると知って、何が何でもこれは上映させていただきたいとお願いしました。そして「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」で大きな成功を収めていた音響調整を行って上映するスタイルをぜひ今作でも行わせていただきたい。出来たら調整に立ち会っていただきたい、と。

 プロデューサーの方が大変乗り気になってくださり、こちらもサウンド・スペース・コンポーザー井出祐昭さん、サウンド・システム・デザイナー増旭さんという超強力な音響家の方にお願いし、塚本監督立ち会いのもと、音響調整を行いました。

 「もっと気配だけで恐ろしさを感じる、お化け屋敷のような音に」という塚本監督のリクエストを聞いて、僕の狙いは間違っていなかったと確信しました。やはり音響家の方はプロですので当然“良い音”に調整します。迫力は出そうとするものの、“映画”の枠の中で、極端ではないものに仕上がっていきます。

 でも、この作品はそういうものではない、と。監督がおっしゃるのだから、何であれそれこそが正解です。それこそが作品の「魂」です。これは作り手以外の人間には決してわかり得ないものです。

 出来上がった音は、比喩ではなく物理的に心臓が締めつけられるほどヴァイオレントな音でした。お客様の中にはこの時の『鉄男 THE BULLET MAN』が今なお忘れられない、とおっしゃってくださる方もいます。まだこの時は【極音】【極爆】の名称は生まれておらず、その音はこう名付けられました“BULLET SOUND”。

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