>  >  > 『おそ松さん』ブレイクの理由を徹底分析

『おそ松さん』はTVアニメ復活の“のろし”となるか? 社会現象となった理由を徹底解剖

関連タグ
おそ松さん
アニメ
小野寺系
赤塚不二夫
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 TVアニメ界に「社会現象」と呼ぶことのできるギャグ作品が、久しぶりに現れた。赤塚不二夫の出世作となった、六つ子を主人公とした漫画「おそ松くん」三度目のアニメ化作品「おそ松さん」である。深夜アニメにも関わらず、女性ファンを中心にターゲット層を大きくはみ出し幅広い年代に認知され、現在も支持を拡大し続けている。なぜこのような昭和の香り漂う題材の作品が、短期間で爆発的な人気を得ることができたのだろうか。ここでは、その理由を徹底的に解明していきたい。

お蔵入りとなった第1話「復活!おそ松くん」の衝撃

 新しくアニメ化が決定したことで、おそ松をはじめとする作中のキャラクターが、現代の視聴者に受け入れられるよう試行錯誤するというメタ的な展開が第1話の内容だ。六つ子やイヤミ、デカパン、ダヨーンなどといった往年の登場人物が、「ガチョーン」「お呼びでない」「シェー!」など昭和ギャグをかまして笑いを取ろうとする。比較的冷静なチョロ松は「こんな昭和ヅラをしたメンバーのギャグで、いまさら人気出るわけないよ」と、絶望的な状況に頭を抱える。この一連のシーンの面白さは、製作者の葛藤をそのまま作中のキャラクターにしゃべらせているところだろう。しかし、おそ松には秘策があった。平成以降の有名漫画・アニメをコピーすることで、人気を挽回しようというのである。彼ら六つ子は自分らの絵柄を「萌えキャラ」に刷新し、学園アイドルとなってイケメンの魅力を前面に押し出そうとする暴挙に出る。

 本作は、女性のアニメファンに人気があるイケボ(イケメンボイス)声優を六つ子に配役したことから、女子向け作品としてヒットさせようという仕掛けを施しているのは明白だ。だがこのエピソードでは、女子を喜ばせるような類型的な要素を誇張してギャグにしてしまうという過激な悪趣味さを見せる。その裏に感じるのは、現在のアイドルやアニメ作品の露骨なビジネスに対しての批判精神だ。この回は事情によりソフトに収録されず、お蔵入りとなってしまったが、本作はこの第1話において、現在のアニメを分析し、外から客観視するという「批評性」を獲得したといえる。そして、このファンから距離をとった批評性こそが、現在のTVアニメ界に最も必要なものだと感じるのである。

TVアニメの面白さを復活させる、視聴者との「適切な距離感」

 日本は現在、アニメ文化が隆盛しているイメージがあるが、かつて毎日のようにアニメがゴールデンタイムを席巻していた時期から、ここ十数年は、少子化による視聴率の低迷、高額な番組提供料などの問題から、ごく一部の大人気作品や長寿シリーズを例外として、深夜の放送枠向けの作品が多く作られるようになってきた。それはアニメ存亡の活路を求めた大移動であったが、そこでターゲットとなる視聴者を変更した影響は、作品の表面だけでなく本質部分をも変化させてゆく。

 時間が経つにつれ次第にファンだけに通用するような独特なコードが生まれ、製作側もそのようなコードを踏まえた作品を提供し、作品が閉塞的価値観の内部でコピーし合い消費されていくことで、まとまったお金を落としてくれるコアなファンを生み出していく一方、万人に受け入られる普遍性は、全体的な傾向として希薄になっていった。そして、アニメを「見る人」と「見ない人」にはっきり分かれるという現在の二極化が進む状況を生んだといえる。

 そのような蛸壺(たこつぼ)的状況への危機意識の高い制作者も少なくない。例えば国内外の実写映画監督を招聘したり、ファッションブランドに衣装デザインをさせたりなど、アニメ畑の外からの力を積極的に取り入れるという試みも見られた。近年では「魔法少女まどか マギカ」や「TIGER & BUNNY」のような、もともと異業種であった脚本家による作品が、一般層から敬遠される最近のアニメのマイナスイメージである、セクシャルな表現や過度な商業主義を逆手にとって、批評的な視点を加えている。

 「おそ松さん」の藤田陽一監督が演出を手がけていた「銀魂」では、お笑い芸人を志望していた、バラエティー番組・放送作家の松原秀が脚本陣に加わったことで、作品に新しい風が吹き込まれている。そして「おそ松さん」では、彼がシリーズ構成を務め脚本の中核を担うことで、その色が強まる。第15話では、新しいおでんを作ろうと思い悩むチビ太の下に現れた「花の精」が「おでんのことしか知らない人が、おでんを作っても、それはただの縮小再生産」とアドバイスする。この問題について、脚本家の側も非常に自覚的なのである。

 本作では深夜アニメの規制の弱さを利用することで、社会批判や下ネタを含んだギャグが、「銀魂」からさらに過激になっている。とくに、多くのアニメ作品が避けがちである「ニート」や「非モテ童貞」、「痛い自意識」など、視聴者の多くが直面するであろう若者にとっての一般的で等身大の課題が、分析的にギャグとして描かれていく。現実と太く接続された作品世界で、それらが正面から批評され笑いの対象になるということは、馴れ合い慰め合うことで安心を与えがちであるアニメが、アニメファンと適切な距離をとったことを意味する。その距離感こそが「おそ松さん」が幅広い層にリーチすることができた大きな要因だと考えられる。

     
  • 1
  •  
最新作品レビューもっと見る

表示切替:スマートフォン版 | パソコン版