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ジブリ高畑勲監督、世界で評価される理由は? 宮崎駿監督との比較から作家性を探る

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 「彼の通ったあとは、ぺんぺん草も生えないですからね」
 
当時、『おもひでぽろぽろ』のプロデューサーを務めていた宮崎駿が、苦笑いしながらそう表現したのは、同作の監督を務めた、日本アニメーション界の重鎮、高畑勲のことである。

 完璧主義者で理想の高い高畑監督の異常なこだわりは、用意された時間と労働力を、限界を超えて費し、スタジオジブリをはじめとする製作環境の屋台骨を軋ませながら、今までに規格外の名作を生み出してきた。最近になって、そのジブリも、高畑・宮崎両監督が、長編作品からの引退を示唆すると、当時製作中だった『思い出のマーニー』を最後に、早々に作品の製作がストップしてしまった。それほどまでに、このスタジオは、「両監督のためのもの」であったという事実が分かる出来事だ。しかし、それも無理はないと思わせるのは、ジブリのみならず、現在の日本の若手・中堅アニメーション監督と比べても、その演出の力量に、あまりに歴然とした差があると感じさせるからだ。

 『かぐや姫の物語』では、惜しくもアカデミー賞の受賞を逃した高畑勲監督だが、この度「アニメ界のアカデミー賞」とも呼ばれるアニー賞で、アニメ界の功労者に贈られる「ウィンザー・マッケイ賞」を受賞した。過去にウォルト・ディズニーやフレデリック・バック、そして川本喜八郎、手塚治虫、宮崎駿、大友克洋など日本人クリエイターにも同賞が贈られているが、高畑監督の作品が世界に与えた功績を思うと、むしろ受賞は遅すぎるといえるかもしれない。今回は、世界が評価する高畑作品のすごさはどこにあるのか、宮崎駿監督との比較も交えながら考えていきたい。


 東映動画時代、監督として頭角を現し始めた高畑勲は、右腕として宮崎駿を見出し、その後数十年、お互いの作品に協力し、また競い合いながら関係を続けてきた。それまでミリタリーや、東映動画『白蛇伝』などのアニメ美少女に夢中だった宮崎が、東大仏文科出身である高畑の、インテリジェンスや思想、文化的な豊かさや高尚さに傾倒し、憧れていったのは想像に難くない。宮崎は、高畑監督のために身を粉にして作品のレイアウトなどを担当し、作品の質を大幅に向上させた。宮崎は後に、「青春を全て高畑に捧げた」と語る。

 主に日本のTVアニメで使われた、数枚の動画を繰り返すことで簡略化を図る「リミテッド・アニメーション」に対抗し、本来のリッチな動きに立ち戻る「フル・アニメーション」にこだわることで、繰り返しの鑑賞にも堪える、高い質を持った作品が、高畑らを中心とした、熱意を持つ優秀なスタッフによって作られていく。だが宮崎駿は、高畑監督の静的な作風に次第に不満を感じ、冒険娯楽活劇を自分で監督することに熱意を燃やし、その後、絶大な人気を集めていく。また高畑も、「それとは違うものを作りたい、作らざるを得ない」と、さらに自分の作風を深化させ、同じスタジオの中にいながら、二人の道は分かれてゆくことになる。

 自分で絵コンテを描き、自らが陣頭に立つ「闘将」である宮崎駿と比べ、高畑勲は、自分で作画をしない。彼は、「ディズニーは、すでに無声映画時代から絵を描いていません。あとの半生は、アンサンブルを作り出すことに徹していました」と言っている。ここから、「日本のディズニー」の役割を目指し、自分が日本アニメーションの道を切り拓こうという、高畑監督の強い意志を感じるのである。その達成のためには、独自のアニメ表現を模索することが何より必要だった。

 そのひとつが、「日常表現」へのこだわりだ。宮崎駿が、高畑監督の最高傑作だと言う、TVアニメ「アルプスの少女ハイジ」では、地味な生活の描写を、リアリティを持って丁寧に描きあげることで、「生活を通して人間の本質や美を描き得る」ことを証明した。その後、プロデューサーとなった宮崎の資産を投じさせて撮った実写ドキュメンタリー『柳川堀割物語』は、日本に残る、古い水路や水門の仕組みや歴史、そこでの生活について執拗に追った、ただただ研究的な作品である。こんな作品を作ってしまう、病的なまでに他の追随を許さない「生活への探究心」が、凄まじい「静的な熱」を、以後の演出作品にも与えていく。

 もうひとつは、アニメーションによる映像表現への実験的取り組みである。代表的なのは、『ホーホケキョ となりの山田くん』で試みられた、従来のペッタリした色の動画とは異なった、「紙に描いた絵が、塗った色がそのまま動き出す」ように見えるという、画期的な表現方法だ。それは監督が研究する、カナダのアニメーション作家フレデリック・バックの作品をはじめ、ロシアや中国のアニメーションの技術を発展させた、非ディズニー的な映像へのアプローチでもある。世界的にCGによる実写的な3D表現が主流になりつつあるなかで、CG技術を使い、手描きの味を活かすという独自性と意義は、日本よりも、むしろ海外で評価され、「山田くん」は、MoMA(ニューヨーク近代美術館)に永久収蔵されることにもなった。

     
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