宇多田ヒカル、チャットモンチー、NEWS……キャリアの重要地点に辿り着いたアーティストの新作

 デビュー20周年を迎えた宇多田ヒカル、2018年7月をもって“完結”することを発表しているチャットモンチー、今年結成15周年のNEWSなど、キャリアの重要地点に辿り着いたアーティストの新作をピックアップ。大きなターニングポイントで彼女たち(彼ら)は一体、何を歌ったのか? ぜひ、歌詞に注目して聴いてほしいと思う。

宇多田ヒカル『初恋』

 ’00年代以降の日本の音楽シーンに多大な影響を与えたデビュー作『First Love』(1999年)から約20年。宇多田ヒカルは『初恋』でもう一度“初めての恋”と正面から対峙し、人を愛することの衝動と快楽、恋愛という行為にともなう切なさ、儚さを美しく描いてみせた。もっともインパクトを受けたのは、すでに多くのリスナーに共有されている表題曲「初恋」。善悪、常識を超えたところで生まれる“すべてを捧げたい”という強い思いが映し出されたようなこの曲は、彼女の音楽のさらなる深化を伝えている。言葉だけではなく、世界基準のトラックメイク、クラシカルな手触りのストリングスアレンジ、ブレスまでが音楽的に聴こえるボーカルを含め、2018年を代表する作品であることは間違いない。

宇多田ヒカル 『初恋』(Short Version)
チャットモンチー『誕生』(通常盤)

 橋本絵莉子、福岡晃子は最後のアルバムに『誕生』というタイトルを与えた。ほぼ全曲を打ち込みで構成した本作はたしかに“新しいチャットモンチー”を感じさせるし、ふたりの“これから”を示唆しているようにも思える。どんな事態に見舞われても、現状を追認するような真似はせず、いつも自らのビジョンに向かって進んできたチャットモンチーは、ラストアルバムにおいても“先”を見ていたのだろう。平易な言葉で普遍を描き出す歌詞も本作のポイントだが、特に文筆家・作詞家として活動している高橋久美子が作詞を担当した「砂鉄」は絶品。〈好きでも嫌いでも 好きさ/会っても会わなくても 忘れない〉というラインに胸を打たれないリスナーはいないだろう。

チャットモンチー 『たったさっきから3000年までの話』
清水翔太『WHITE』

 彼自身の内面から生み出されたリアルで内省的な言葉、そして、ボーカルの豊かな響きを活かしたトラックメイク。ヒットチューン「Good Life」「Friday」を含む本作『WHITE』によって清水翔太は、シンガーソングライター/トラックメイカーとして確固たるアイデンティティを手に入れた。フランク・オーシャン、The Weekndなどにも通じる洗練されたサウンドも素晴らしいが、本作のセントラルドグマはやはり、拭いようがない寂しさ、やるせなさ。それをもっとも強く反映しているのはアーティストの孤独をテーマにした「alone feat.SALU」だろう。みんなで一緒に盛り上がるのではなく、自らの孤独と向き合いながらじっくりと堪能したい充実作だ。

清水翔太 『alone feat.SALU』Music Video

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