ドラムに歌にダンスに……大橋彩香がワンマンで見せたエンタメ性の“進化”

大橋彩香が見せたエンタメ性の“進化”

 声優アーティストの大橋彩香が、5月27日に神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールでワンマンライブ『大橋彩香 Special Live 2018 〜 PROGRESS 〜』を開催した。『アイドルマスター シンデレラガールズ』の島村卯月役をはじめ、数々のコンテンツで大舞台でのライブを経験している彼女だが、ソロアーティストとしてホール規模の会場でコンサートを行うのはこれが初めて。歌手デビューから約4年、2ndアルバム『PROGRESS』を引っ提げた今回の公演は、そのタイトルが示す通り、自身の“PROGRESS=進化”を提示すると同時に、それがまだ成長の過程に過ぎないことに気付かせてくれる、大橋彩香というアーティストが持つ無限大の可能性を映す一夜となった。

 大橋は自身が描くアーティストとしての理想像について「エンターテイナーになって、みなさんを楽しませることができるライブをやりたい」と語っていたが(参考:大橋彩香が語る、2ndアルバムでの進化を経て見つけた“新たな自分” )、今回のライブはその理想を実現するための試みがふんだんに盛り込まれていた。まず何といっても観客の度肝を抜いたのが、ライブの開幕と同時に披露されたドラム演奏だ。声優としてデビューした頃からドラムを特技として挙げ、近年では『BanG Dream!』発の声優ガールズバンド、Poppin'Partyのドラマー山吹沙綾としてその腕前を振るってきた彼女。ソロライブでドラムを演奏するのは今回が初だったが、2段組になったステージ上段よりさらに高くリフトアップされたドラムセットに陣取り、16ビートや裏打ちも交えつつ約3分にも渡って展開されたソロプレイは堂々たるものだった。

 そこから一転、チアガール風のダンサー8名を従えて、大橋本人も右手にポンポンを持って歌った「NOISY LOVE POWER☆」、4人のダンサーと一列になっての動きが可愛らしいタオル曲「ハッピーメリーゴーランド!」、ライブでは定番の「ENERGY☆SMILE」と、序盤は彼女らしい笑顔&元気いっぱいのナンバーが続く。小道具のカメラを使ったステージ演出と、曲終わりに自撮り棒を使って撮影した写真が僅か数秒でスクリーンに映し出されるサプライズが用意された「希望フォトグラム」もライブならではの楽しさがあったが、個人的に前半戦のハイライトとなったのが「バカだなぁ」「Sentimen-Truth」の2曲。自分のもとを去った相手への忘れられない気持ちを、全身を使った振り絞るような歌唱で表現した前者と、青と赤を巧みに使い分けた照明演出で“ステージに立つ自分”と“普段の自分”の二面性を示した後者——2ndアルバム『PROGRESS』の終盤を飾っていたエモーショナルな新曲群を、彼女のシンガーとしての最大の武器と言える伸びやかなハイトーンを駆使して感情たっぷりに歌い込む姿には、心を打たれた。

 恒例のアコースティックコーナーでは、この日がライブ初披露となる「うたたねのラブソング」と、原曲よりもたおやかかつ優美さが加わった「勇気のツバサ」を歌唱。合間でバンドメンバーと語らいながら、カホンの演奏にチャレンジしたり、「あっ! くしゃみが……出なかった」とフェイントをかけてみたり(?)、クールな楽曲やバラードを歌っているときの雰囲気からは想像できない、マイペースで飾らないMCも彼女のライブの魅力のひとつだ。

 彼女が2ndアルバムで掲げた“進化”のひとつである、“大人っぽさ”を象徴するような失恋ソング「I knew the end of love」(収録はアルバムと同時期に制作されたシングル『NOISY LOVE POWER☆』)で黄昏色のアーバングルーヴを会場に注ぎ込むと、バンドメンバー&ダンサーの紹介を挿み、ここでアルバムでも異彩を放っていた「Break a Liar」へ。最近はダンス曲やK-POPの楽曲を好んで聴いているという大橋の意向を受けて制作された、ボトムの効いたダンサブルなナンバーだ。黒のタイトなパンツルックにヘッドセットマイクを装着した大橋は、この曲で歌いながらのダンスパフォーマンスに挑戦。本人はMCで「まだ第一形態ということで不格好ではございますが……」と語っていたが、長い手足を強調するようなキレのあるムーブは非常にスタイリッシュで、大ぶりな動きの中でも歌声をしっかりとコントロールできていたことを含め、この先の“進化”が楽しみになるステージだった。

 そこから続けて、ハンドマイクに持ち替えて凛とした表情で魅せた「Break My Jail」、熱い展開を持った「Maiden Innocence」と、ロッキッシュな2曲を披露(本人曰く「かっこいいコーナー」)。ここでナポレオンジャケット風のゴージャスなアウターを着用し(後ろの裾の部分にネコのプリントがあるのがポイントとのこと)、終幕に向けて一気にラストスパートをかける。新たな代表曲となった昨年のシングル曲「ワガママMIRROR HEART」では会場から盛大なクラップが巻き起こり、大橋もラストのフレーズ<受け取って SHY BOY?>をはにかみ顔でバッチリ決めて、この日いちばんの熱狂を作り出す。このあたりの観る者を惹き付ける所作は、さすが『アイドルマスター シンデレラガールズ』や『アイカツ!』シリーズで熱いアイドル活動を演じてきた彼女ならではだ。

 さらに、1stアルバム『起動 〜Start Up!〜』の最初と最後を飾ったライブでの鉄板曲「ABSOLUTE YELL」と「流星タンバリン」でオーディエンスとの絆を確かめ合うと、「最後の曲でーす、みんな一緒に歌ってー!」と呼びかけて、2ndアルバム『PROGRESS』のリード曲「シンガロン進化論」へ。アルバムでは1曲目に置かれていたこの楽曲をライブ本編のラストに持ってきたことは、ここが終着点ではなく、この先もまだまだ“進化”していくことを約束しているようにも思える。サビの<まだ名もなき未来へと行こう 君と進化論>というフレーズは、きっと応援してくれるファンと共に“進化”していきたいという想いの表れ。最後は文字通り会場が一体となっての“シンガロン”で祝祭感に包まれるなか、ライブ本編は終幕となった。

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