アニソン歌手から経営者へ 佐藤ひろ美とFaylanが語る、事務所運営のこれまでとこれから

佐藤ひろ美&Faylan語る事務所の歩み

「翔太のステージを見てると、そこにFaylanが見えたりする」(佐藤) 

 

ーー最近は二次元コンテンツが地域活性化に役立てられる事例が増えていますが、そういった取り組みについて佐藤さんは会社経営者としてどのように考えてらっしゃいますか?

佐藤:やっぱり地元の協力がなければそういうコンテンツを生み出しても続かないし、続けることが大事だと思うんです。三陸鉄道では「鉄道ダンシ」という魅力的なキャラクターコンテンツを展開してるんですけど、途中で震災もあったのでしょうがないのですがうまく続いてはなくて。だから地元への周知や協力は大前提ですし、そこが肝じゃないですかね。なので今回のイベントで三陸鉄道には「鉄道ダンシ」というキャラクターがいることを説明し、私たちのようなアーティストが歌ってたくさん人が集まって地元にお金が落ちることで、初めて地元の人たちがコンテンツに気付き、それを利活用すると自分たちにもプラスになることに気付くと思うので、今回の1回目の開催というのは畑を耕す場所だと思ってます。

ーーまずは地元の人たちの理解を得るために、ですね。

佐藤:そうです。なのでまずはFaylanにパーッと歌ってもらえたら。城山公園体育館というところでやりますから、さいたまスーパーアリーナのステージよりは小さいけど……。

Faylan:いつもの通りパーッとやればいいんですよね、大丈夫です(笑)。でも体育館は声が反響するんでいいんですよね。

佐藤:そうそう、リバーブいらずでねえ。マイクとかもいらないかもしれないし、PAの予算削ろうかな(笑)。

ーーさすが経営者視点ですね(笑)。

佐藤:先立つものは……という感じです。お金のない時期にはFaylanにすごく無理をさせましたから。衣装もそうだし、ダンサーを入れたくてもねー。

Faylan:いやあ、いま事務所に入ってきた子を見ると羨ましいなあと思って(笑)。

佐藤:Faylanはじめ、タレント、社員の頑張りです。でも新人はこれが普通だと思ってるかもなあ。マネージャーはいまがどんなに恵まれてるかっていうことを新人たちに言うんですけど、本人たちはピンとこないんですよね。

ーーそういう環境を作り上げてきたのはFaylanさんですからね。

佐藤:そうなんですよ、Faylanはたった一人でやってきて、歌だけでうちの事務所を大きくしてきたわけですから。

Faylan:佐藤さんも現役でやられてたので、2人でということですけどね。

佐藤:そう。2人とも出演するステージだとお互いがマネージャーになるわけですよ。

Faylan:そうそう、佐藤さんが歌うときは私が水を持って。

佐藤:もう本当に母子家庭みたいですよね。

一同:ハハハハハ(爆笑)。

Faylan:上手いこと言った(笑)。

ーーそれが今や蒼井さんという立派な長男もいらっしゃって。

佐藤:ほんとですよ、長男には頑張ってもらっています(涙)最近はしっかりしていて。最初はあんなになるとは思わなかったですから。もうふにゃふにゃしてて、おとなしくて、なんかお姉さんたちについてくる末っ子みたいな感じで。

Faylan:ねえ。礼儀は最初からすごく良かったですけど。なんか犬みたいでしたもん。

ーー長男ではなくて犬になってしまいました(笑)。

Faylan:でも気付いたらスーパースターになってましたからね。

佐藤:ステージもキレッキレですからね。でも翔太のステージを見てると、そこにFaylanが見えたりするんですよ。だからFaylanのステージを見てパフォーマンスとかステージの使い方を学んだんだろうなって思います。うちのいいところは『S祭り』をやってるから、先輩のステージを見ることができるんですよね。

Faylan:本人が面と向かって「盗みました」って言ってきますから(笑)。だから私も彼のステージを見て盗んで、盗み合いですよね。

佐藤:それは切磋琢磨と言います(笑)。あと、そこに佐藤ひろ美のステージも入れてもらっていいですか?

Faylan:もちろんです(笑)。でもみんな、MCでのトークとか取材の場でインタビューを受けさせていただくときの言葉遣いが佐藤さんに似てくるんですよ。まずは私が似て、そこから蒼井翔太も似て、そっくりなんですよね。佐藤さんはトークが神懸かってるぐらいお上手なので。

佐藤:何それ(笑)。

Faylan:もうお見事! っていうぐらいで、語り始めたら選挙演説みたいですから(笑)。本当に人を納得させる天才なので、そういうところを見てると長女として学ばなくちゃいけないっていう使命感が生まれるんですよ。だからライブのMCもすごく助かりましたね。

佐藤:Faylanは最初MCが苦手で、自分で台本を作って話す人だったんですけど、だんだんフリートークも上手くなって。いまは取材も普通に受けられるようになったもんね。昔はこんな感じじゃなかったですから。

Faylan:苦手でしたねー。自分で言うのもなんですけど、ライブ中のMCがハンパなくダメでしたね(笑)。何を言っていいかわからないし、台本を作っていくとそれが少しでも抜けるとパニックになっちゃうんですよ。だからフリーで話せるようになってよかったです。でも最近は言ってもいいギリギリのラインを攻めるのが楽しくなっちゃって(笑)。

佐藤:ぜひそういうのを新人たちに教えてあげてほしい。みんなまだ苦手だからね。

ーーともかく『三陸コネクトフェスティバル』は、そのように結束を固めてこられた株式会社Sのみなさんが一堂に会されるステージになりますね。

佐藤:でも、みんなが「行きたい」と言ってくれたから嬉しかったですね。私たち(株)Sの他にも、今回は復興イベントの趣旨に賛同いただいた方々がたくさん出演してくださいます。三陸鉄道鉄道ダンシ「恋し浜レン」のキャラクターボイスを担当されてる鈴村健一さんのトークショー、岩手県出身で「希望郷いわて文化大使」を勤められてる桑島法子さんの朗読劇と歌のステージ、「ドラえもん」の主題歌を歌唱しているmaoさんは地元の子供達の合唱団とコラボさせていただきます。アニメやゲーム業界の最前線で活躍されている素敵な方々が参加されることが決定しました。本当に嬉しいですし、今から楽しみです。なので2月11日、12日の2日間は、きてくださるみなさんが楽しかったと心から言っていただけるようなステージをみんなで見せられたらと。みんなの元気になれたらと思います。

ーー先ほどもおっしゃってましたけど、ここからさらに続けていくことも大事ですよね。

佐藤:そうなんですよ。今回のみで終わるとは三陸聖地化委員会のみんなも考えてないし、ずっと続いていくイベントにしたいからこそ、1回目を成功させなくてはいけないと燃えてます。そこから、私がアドバイスしなくても地元の人たちが自発的にいろいろなアイデアを出して、地元のイベントとして根付くことがいちばんめざしてるところなので、そうなればいいですね。

ーーでは最後に、株式会社Sの会社としての今後の展望と、Faylanさんの今後のアーティスト活動について聞かせていただければ。

佐藤:Sではオーディションを随時募集しています。最近、蒼井翔太のように声優も歌もやる声優アーティストに特化した部署をやっていこうと思いまして、上松範康が音楽プロデュースするAGEHA promotion(https://ageha-promotion.com/)という部署をSのなかに作りました。時代に対応して柔軟に姿を変えていける会社でありたいというのが、Sの社長としての展望ですね。あとはS自体を応援してくださるファンの方々はファミリー感が好きといってくださるので、Sが大きくなったとしてもそのファミリー感は消したくないと思ってますね。声優やアーティスト、所属タレント同士で切磋琢磨して教えあっていくような、仲の良い事務所でありたいと思います。

 

ーーそこは佐藤さんがお母さんであり続ける限りは大丈夫だと思います。

佐藤:でも最近はマネージャーがお母さん業をやってて、私はいまや閻魔大王ですから(笑)。お母さんのころは楽しかったなあ。私もいい子いい子ってほめてあげたいのに、いまは怒ってばかりいるんだから(笑)。

Faylan:佐藤さんが怖いっていうイメージは全然ないですけどね。私はいつも佐藤さんに会えるのが楽しみですから。現場も華やかになりますし。

佐藤:そうでしょ? たぶん翔太までは怖いイメージはないと思うんだよね。その下の天野七瑠からは怖がってるみたいで。だから今は寂しいです。

ーーFaylanさんはSの長女として今後どのような活動を考えてますか?

Faylan:天野や倉知(玲鳳)、秋谷(啓斗)といった後輩と呼ばざるを得ない人たちがどんどん入ってきますし、アニソン界でもそうなんですけど、新しい方がたくさんデビューされて、いまは声優アーティストの方がたくさん活躍されてるなかで、私のようなアニソンやゲーム音楽だけでやってきてるアーティストは、そこに存在していくためにそれなりの努力が必要だと思うんです。後輩のお手本になるシンガーにならなくちゃと思いますし、影山(ヒロノブ)さんとかを見てるとロックシンガーとしてどんどんパワーアップされてるので、そういうシンガーになっていきたいと思いますね。ずっと活躍されてる方を見てると、みなさんブレないでずっと熱い魂を燃やしてらっしゃるので、私もそうありたいです。その私を見てSの子たちが成長していくのを見守るのもいいなとも思いますし。

ーーそれこそFaylanさんが佐藤さんとの二人三脚で学んだことを、後輩たちに引き継いでいくような感じで。

佐藤:私はもう閻魔大王になっちゃったから、Faylanには2代目の母ちゃん、チーママとしてがんばってもらいたいですね(笑)。私から見てFaylanのいいところは、すごくマジメで、自分にも厳しくてストイックなんですね。私も自分に対してストイックであることをFaylanから学んだくらいだし、やっぱり歌手としてプロフェッショナルなんですよ。Faylanも「活躍し続けてる人は胸にずっと炎を燃やし続けてる」と言いましたけど、彼女にもそうやってずっとアーティストとして輝いててほしいし、事務所としてはFaylanの存在感を絶やさずにサポートしていく、Faylanありきというものを作っていくっていうのが、これからの彼女に対しての仕事だと思ってるんですよ。一度体調を壊して休んじゃいましたけど、また復活したので、まずは「復活しました!」という声を大きく上げて、彼女の存在感をもっと出していかなきゃと思いますね。その際は、業界のみなさまからのお仕事もお待ちしております。今後ともFaylanをよろしくお願いします。

(取材・文=北野創/撮影=林直幸)

■プロジェクト情報
三陸復興への思いがつながり生まれた「三陸コネクトフェスティバル」

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