BiSH アイナ・ジ・エンド×渡辺淳之介×松隈ケンタが語る、大胆な施策の裏側とグループの成長

BiSH、特別鼎談

 BiSHのメジャー2ndアルバム『THE GUERRiLLA BiSH』が大きな反響を呼んでいる。

 正式な発売日である11月29日よりも前に無告知で「ゲリラ販売」されたことも話題を呼んだが、何より注目を集めているのは動員とセールスをどんどん増しているグループ自体の勢い、そしてそれを支える楽曲自体のクオリティだろう。アルバムはリード曲「My landscape」を筆頭にスケール感の大きな楽曲が印象的な一枚。「SHARR」や「spare of despair」や「ALLS」などパンキッシュな棘のあるナンバーも存在感を示す。6人のメンバーの歌声の表現力の向上も伝わってくる。

 今回リアルサウンドでは、メンバーを代表してアイナ・ジ・エンド、マネージャー渡辺淳之介、楽曲を手掛ける松隈ケンタの三者へのインタビューが実現。アルバムの制作の裏側とともに、「楽器を持たないパンクバンド」というキャッチコピーがもたらした変化や、ほぼ全ての振り付けをアイナ・ジ・エンドが手掛ける由来など、貴重なエピソードも語ってもらった。(柴那典)

渡辺「音楽って聴いてもらわないと意味がない」 

左から渡辺淳之介、アイナ・ジ・エンド、松隈ケンタ

ーーアルバム『THE GUERRiLLA BiSH』の正式な発売日は11月29日ですが、それよりも1カ月近く前に全国のタワーレコードで、無告知のまま299円でゲリラ販売されました。まず「流石だな」と思ったんですけど。

渡辺淳之介(以下、渡辺):ありがとうございます。僕と松隈ケンタ以外だとあの値段で出せないと思うんで。儲けはあんまり考えてないです。

松隈ケンタ(以下、松隈):ヤバいよね、普通だったらね。

渡辺:一緒にエイベックスと遊ばせてもらってます(笑)。

ーーそもそもあれはどういうところからの発案だったんでしょうか。

渡辺:やっぱり音楽って聴いてもらわないと意味がないので。前にも300円でiTunesで先に配信したり、インディーズ時代はフリーダウンロードをやったりしてたんです。ただ、今回は実は僕じゃなくエイベックスのディレクターからの発案ですね。今まではネット上だけで行ってたことを実店舗でやりたい、と。それを聞いてほんとに面白いと思ったし、じゃあやっちゃおうというのが始まりです。

ーー反響はどうでした?

渡辺:一番嬉しかったのは、店舗がお祭りみたいになってたことですね。「どこにある?」「八王子にあるらしい」「じゃあ行こう!」みたいなやりとりがあったり。配信だと「あ、新譜出たんだ」ってポチって買うみたいな感じだけど、「なんだ、みんなCD欲しいんじゃん」っていう。

ーーアルバムの内容に関しての感想も届いているんじゃないかと思いますが、そのあたりはどうでしょう。

渡辺:アルバムに関しては、僕たちは毎回自信を持っていい曲を出してると思ってるんで。反響は怖くてあんまり見れてないんだけど(笑)。

アイナ・ジ・エンド(以下、アイナ):成長してるって書かれたりしてますね。声色の幅が広がってるとか、楽曲の幅も広がってるとか。昔のBiSHからずっと見てきてる人の意見はそういう見方の人が多いかもしれない。

ーー僕もまさにそう思います。成長したし、いろんな面でやれることも多くなったし、クオリティが高くなった。それを踏まえて松隈さんに訊きたいんですが、今回のアルバムの楽曲はどういうところから作り始めたんでしょうか。

松隈:スタートとしては、やっぱり「プロミスザスター」かな。その次に『GiANT KiLLERS』が出て。最近のBiSHは早めに曲が出来上がるので、「My landscape」は『GiANT KiLLERS』の時にはあったんです。だから「こういうものを作りましょう」というよりは、「プロミスザスター」以降のBiSHのライブとか世の中の反響を見て「こっちにいったほうがいいんじゃないか」っていうのがまとまったのが今回のアルバムなのかなっていうのは思います。

ーー「プロミスザスター」は振り返ってどういう曲になったと位置付けていますか? 

松隈:「プロミスザスター」はいい歌だなと思いましたね。自分で作って感動しちゃった曲は初めてかもしれない。ちょうど『情熱大陸』を見てて、『キングダム』の作者の原(泰久)先生が「自分で漫画を描いて泣いたことがあるんです」って言ってたのを聞いて、俺もそんな曲作ってみてえって思って隣の部屋に行って作ったのが「プロミスザスター」なんですよ。

ーーアイナさんはどうですか? どういう思い入れがありますか?

アイナ:喉の手術をした後の一発目に出した曲なんですけど、レコーディングしたのは手術前で。松隈さんが「アイナが帰ってきたぞー!」っていう風に歌ってほしいって言ってもらえて。その時は正直手術が怖かったんですよ。渡辺さんも「声が出なくなるかもな」とか言ってくるし(笑)。

渡辺:そんなこと言った? 俺。

松隈:この人は意地悪だから(笑)。

アイナ:「プロミスザスター」って、地声で今まで出したことのないキーだったんですよ。その時に松隈さんが「手術した後のアイナをイメージして」って言ってくれた時に、すごくイメージできたんです。だからレコーディングの思い出が大きいです。気持ちで歌った曲みたいな。

ーー先ほど松隈さんは「世の中の反響を踏まえて楽曲を作っていった」と言ってましたが、2017年のBiSHの動きについてはどう振り返ってらっしゃいますか?

松隈:やっぱり僕とか渡辺くんはライブハウス規模の人間だったから、今までライブハウスで映えるような曲をかなり意識してたんですけど、ステージも幕張メッセになったから。どんどんアイナたちのスケールが大きくなってきたんで、そこにも似合う曲を作りたいなって。それで「My landscape」を作ったところはあるんですよね。曲もアレンジもさらにもう一つ上のスケールというか。おそらくPVも予算をかけてくれるんだろうなって思ったんで、かけ甲斐のあるような曲がいいかなって(笑)。でも『KiLLER BiSH』の続編っていうところなので、全体としては凶悪にいきたいというのは意識しました。

ーーアルバムを聴いての印象ですけれど、いわゆる“名盤感”みたいな聴き応えがすごくあると思いました。

松隈:おお、嬉しいですね。それ。

ーーBiSHは仕掛けとか話題性じゃなくて曲で勝負してるグループだということがメジャーデビュー以降のタイミングで伝わってきて、それで人気が上がってきたところがあると思うんです。そういう一つの流れの集大成のようなものを今回のアルバムに感じるというか。渡辺さんはここ1年のBiSHをどう振り返っていますか?

渡辺:僕はもう、早く「My landscape」が出したかったんですよ。なので、とにかくずっとうずうずしてる感じだったんですよね。曲がどんどん生まれてきてるので。「My landscape」は、もう圧倒的なものにしたかったんです。普通に聴いただけだと何を歌ってるかほとんどわかんないというのもわざとやっていて。「なんなんだろう? なんかヤバい! 格好いい!」って雰囲気にしたくて。それが最大限できると思ったのが「My landscape」だったんですよ。今まで積み重ねてきたものの集大成なんですけど、結局わけがわからないっていうところに持っていきたいという。「BiSHってこんなだよね」って形容されることはもちろんあると思うんですけど、「得体が知れない」って言われたいというのが今年の目標だったんですよね。「どこまで行っちゃうんだろう?」みたいに、客を置いてきぼりにしたいっていうか。まあ、幕張が売り切れたのがラッキーだったんで、そこからやっぱりうまく軌道に乗れた感じはありますね。

BiSH / My landscape[OFFICIAL VIDEO]

ーー幕張メッセのワンマンはどういう体験でしたか?

渡辺:うーん、すごく不思議な気持ちでした。もちろんよく頑張ったって思ったし、メンバーが帰ってきた時もみんなヘトヘトで「大変だったね」と思ってたんですけど、松隈も僕もお客さんと同じような目線だったんです。「やってやったぞ!」って言うよりは自分の手を離れていったんだなと思って。だから寂しい気持ちだったんですよ。「寂しいね」っていう話を松隈ともしたんですけど。

松隈:意外だと思うけど、いつもああいう時だと二人で泣いて抱き合ってるんだよね(笑)。でも、幕張はそういうのはなかった。 「BiSHすごい!」って。

ーーアイナさんはどうでした?

アイナ:大きかったですね。売り切れると思ってなかった。でも、大きければ大きいほど緊張するのかと思ってたんですけど、それよりも私にとってはBiSHをずっと最初から作ってきてくれてる人たちとか、携わってくれてる人、お世話になった人たちが全員集結してるっていうことのほうが大きくて。それでずっと緊張してました(笑)。

ーーライブレポートでも書いたんですけど、幕張メッセのライブですごく印象的だったのは、いわゆるアイドルグループのライブと客席の関係性がちょっと違ったんですよね。ファンとアイドルって基本的には「推し」と「推され」の関係性じゃないですか。でも、あのライブではお客さんとメンバーが同じ振り付けを踊って、同じように汗だくになってる。一体になっている。そういう意味ではパンクバンドのライブと似た空気になっていて。

松隈:まさに。パンクバンドですね。

ーーそれで、BiSHのキャッチコピーの「楽器を持たないパンクバンド」っていうのはこういうことなんだって思ったんです。なので、改めて訊きたいんですが、あのキャッチコピーはどういうきっかけで生まれたものだったんですか?

渡辺:何だっけ? メジャーデビューのタイミングですね。それまでの「新生クソアイドル」っていうのが、エイベックスにさすがに失礼だからっていうので。部長さんと喋ってて「クソ?」みたいな感じになって、これはやめたほうがいいんだなって空気を読んで(笑)。

一同:(笑)。

渡辺:でも、何かあったほうがいいなって思ったんですよ。Perfumeは「テクノポップユニット」だし、ももクロは「週末ヒロイン」だし、でんぱ組は「秋葉原から世界へお届け」だし、何かしらそういうキャッチフレーズが欲しいなと思った時に、パッと浮かんだんです。ジャンルどうこうというよりは「楽器を持たないパンクバンド」って言い続けたらどうなるんだろうっていうのが一番にあって。だって、(Sex Pistolsの)シド・ヴィシャスだって(マネージャーの)マルコム・マクラーレンにケーブル抜かれたりしてたから、まあいいよねって。言葉遊びみたいな感じですね。

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