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柳樂光隆の新譜キュレーション 第5回

ジャズにおけるアンサンブルの魅力ーー柳樂光隆がグレゴリー・ポーターらの新譜から解説

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 ジャズと言えば、即興演奏のようなイメージがある一方、ジャズにとってはアンサンブルもかなり重要な要素。そもそもダンスミュージックとしてビッグバンドが盛んだった時代もあり、ホーン奏者のアンサンブルが楽曲の魅力になっているものも昔から多い。それに近年は、マリア・シュナイダーや挾間美帆の名前をあげるまでもなく、作編曲ということに関心が集まっている状況もある。というわけで、今回は、最近リリースされた中で、アンサンブルや作編曲が魅力的な作品を集めてみた。とはいっても、ビッグバンド特集ではなく、もっと多様なジャズとアンサンブルの魅力を伝えたいと思う。

BANDA MAGDA『Tigre』

 このBANDA MAGDAは、Snarky Puppyが運営するレーベル、<Ground Up>に所属しているバンド。Snarky Puppyがリリースした『Family Dinner Volume 1』でフレンチポップのような佳曲「Amour, T’es Là?」を歌っていたギリシャ人のマグダ・ヤニクゥが率いていて、バークリー時代に知り合ったアメリカ、日本、南米などの多国籍なミュージシャンを中心にしたメンバーの中には小川慶太などSnarky Puppy周辺のミュージシャンも多い。

BANDA MAGDA『Tigre』

 ジャズだけでなく、サンバやクンビア、ラテンまで世界中のリズムを取り入れたジャンルレスなサウンドと、ジャズもできる敏腕たちによる鉄壁のサウンド、そして、マグダの超個性的な歌が特徴で、それが合わさると無国籍な音楽になるというのも面白い。ある意味では渋谷系とも通じる雑食性であり、そんなNYではなかなか生まれないサウンドはマグダの特徴でもある。そんなBANDA MAGDAの新作では、マグダの作編曲家としての才能が際立っている。

 もともとギリシャではテレビ番組のために曲を書いたりもしていて、ボストンのバークリー音楽院には映画音楽を学ぶために留学していたマグダのことを検索してみると、YouTubeに「Five Scenes From an Odyssey, Part 1 by Magda Giannikou」という動画がアップされている。これは彼女がバークリー音楽院に在籍中の2007年にBMIフィルム・スコアリングの受賞者として、彼女が作曲した楽曲をオーケストラ用にアレンジし、自身で指揮をしたライブ映像だ。そもそもこういう作曲ができる人が、バンドにストリングスやホーンを多めに加えて、アレンジに重きを置いて作ったのがこのアルバムだ。ポップな楽曲の中に自然に様々な要素が織り込まれていて、さらっと聴けてしまうのは衝撃的でもある。

“Five Scenes From an Odyssey, Part I” by Magda Giannikou

 その中にはアルゼンチンのカルト的なロックスターでもあるルイス・アルベルト・スピネッタやブラジルのルイス・ゴンザーガのカバーが驚きのアレンジで収録されていたり、南米音楽好きにも聴いてほしい。

グレゴリー・ポーター『Nat King Cole & Me』

 グラミー賞も取り、名実ともに男性ジャズボーカルを代表する存在となったグレゴリー・ポーター。彼はすごいシンガーであると同時に、現在のシーンのための大きなきっかけになったひとり。ドン・ウォズが<ブルーノート・レコード>の社長になったのはグレゴリー・ポーターにほれ込んだことがすべての始まりだった。そんなストーリーを生み出したグレゴリーに僕は音楽家としての存在以上のものを感じている。

グレゴリー・ポーター『Nat King Cole & Me』

 そんなドン・ウォズのお気に入りでもある彼の新作として、ドンは最高の企画をぶつけてきた。グレゴリーが昔から影響を公言していたナット・キング・コール曲集を、作編曲家ヴィンス・メンドーサのアレンジで、ロンドン・スタジオ・オーケストラをバックに録音すること。

 古き良きアメリカのエンターテインメントが持っていたようなゴージャスな雰囲気を持っている稀有なシンガーでもあるグレゴリー・ポーターにこんなぴったりな企画はない。しかも、それに合わせて、クリスチャン・サンズ、ユリシス・オーウェンス・ジュニア、ルーベン・ロジャースと言った現代のジャズシーンの若手のトッププレイヤーでありながら、トラディショナルなジャズの演奏に長けている精鋭を招集して、ナット・キング・コールの音楽の世界観を作り込むために最高の環境を整えた。

 特に素晴らしいのがヴィンス・メンドーサによるオーケストラのサウンドだ。これまでグレゴリーが作ってきたのは、どこか懐かしくて、どこか新しいもの。ところどころにヒップホップやR&Bを通過してきた要素を感じさせるのに、ゴスペルや60〜70年代のジャズやソウル的なサウンドが聴こえてきて、新しさと同時にノスタルジーが香ってくるのが彼の音楽の魅力にもなっていた。ここでのアレンジはノスタルジー要素が強めになっているのがたまらない。40~50年代を思わせるドラマチックでゴージャスなホーンやストリングス、木管楽器をうまく使った柔らかいアンサンブルなど、それらが古さというよりは、ファンタジックにも聴こえてくる塩梅が素晴らしいのだ。それはアクセントとしてノスタルジックな要素を聴かせつつも、全体的には現代的な響きが多分に含まれているからだろう。

 ドン・ウォズが大事にする<ブルーノート・レコード>が作り続けてきたオーセンティシティを形にしたものとしか言いようがない傑作が出来上がったと思う。

ヴィンス・メンドーサ&WDRビッグバンド『Homecoming』

 先ほど紹介したグレゴリー・ポーターのアレンジを手掛けているヴィンス・メンドーサはビョークの『Selmasongs』『Vespertine』からジョニ・ミッチェルやエルヴィス・コステロ、マイケル・ブレッカーやジョー・ザヴィヌルの諸作を手掛けている巨匠で、グラミー賞も多数受賞。グレゴリーの作品ではノスタルジーに振り切ったアレンジだったが、超ディープなビョークの作品にも起用されていることからもわかるように基本的には攻めたアレンジの方でもある。

ヴィンス・メンドーサ&WDRビッグバンド『Homecoming』

 たまたま彼の新譜も同じタイミングでリリースされていたので、ぜひ聴いてみてほしい。はっきり言って同じ人がアレンジしたとは思えないくらい違うが、この新譜のようなサウンドの人が、ナット・キング・コールをテーマにやるとあんな極めて洗練された古さと新しさが同居しているようなものが作れるとも言える。

 マリア・シュナイダーや挾間美帆のサウンドが好きな方にも聴いてもらいたいが、彼はジョー・ザウィヌルやブレッカーやThe Yellowjacketsにも曲を書いたり、編曲したりしているようにフュージョン系の仕事も多く、エレクトリックベースやエレピやシンセもガンガン使うのが特徴。というのもありグルーヴ強めで、音楽的にパワフルなのも特徴と言えるかもしれない。その辺の違いも感じながら聴くと個性が見えてくる。

 「Little Voice」「Homecomings」といった美しいメロディとハーモニーの楽曲があったり、ジャズシーンの中では、ブラジル音楽の中でも近年はボサノヴァよりもとり上げられる機会が増えているんじゃないかと思うくらいよく耳にするショーロをテーマにした「Choros #3」みたいな曲もあって、聴きどころ満載。

      

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