米津玄師が明かす、表現者としての“核心”「最後に残るのは『普遍的なものを作りたい』ということ」

米津玄師が明かす“表現の核”

 米津玄師が、6月21日にシングル『ピースサイン』をリリースする。アニメ『僕のヒーローアカデミア』(日本テレビ系)のオープニングテーマとして書き下ろした表題曲は、USヒップホップに接近した前作から一転、疾走感の際立つギターロックに仕上がった。他にも、英国ロックと労働者階級の関係性を参考にしたという「Neighbourhood」や、ハチ名義の「沙上の夢喰い少女」をリメイクした「ゆめくいしょうじょ」など、米津のテーマの一つである“少年性”が瑞々しい形で表現されている。今回のインタビューでは、今シングルのそうした“少年性”を切り口に、「少年ジャンプみたいな音楽を作りたい」という米津の思いから、「普遍的な音楽」を志す理由についてまで、じっくりと話を聞いた。(編集部)

「少年ジャンプみたいな音楽を作りたい、と一貫した思いがある」

――前作『orion』は米津さんの最近のサウンド志向がよく出た作品でしたが、今作はよりご自身のルーツに近い、日本のポップミュージックの歴史も踏まえて作られた印象があります。表題曲の「ピースサイン」は、アニメ『僕のヒーローアカデミア』のOPテーマという話があって、制作をスタートしたのでしょうか。

米津玄師(以下、米津):そうですね。『3月のライオン』に続いて、原作がもともと好きなマンガだったので、願ってもない話でした。曲の原型は昨年くらいからあって、今回のお話をいただいたときに、「あの曲がピッタリじゃないか」ということで再構築していった感じです。

――原作については、どの点に惹かれて読んでいたんですか?

米津:そもそも(同作が連載している)『週刊少年ジャンプ』が好きで、小学生くらいからずっと読んでいるんです。『NARUTO -ナルト-』や『ONE PIECE』みたいな、王道の少年マンガは、自分のルーツでもあって。『僕のヒーローアカデミア』はそういう作品の血を受け継いでいるというか、王道を担っていこうという気概のある作品だと勝手に思っていて、そこに共感するというか。

――少年ジャンプの王道といえば、「友情・努力・勝利」ですね。そういうものは、米津さんの作品に直接的に表現されているというより、エッセンスとしてより深いところに入っている、という感じでしょうか。

米津:自分としては少年ジャンプみたいな音楽を作りたい、と思っていて、それは昔から一貫しているんです。ただ、いまとなってはよくわかるのが、そういうふうに受け止められていなかったんだろうなと。印象に残っている話として、『diorama』を作り終わったあとのタイミングで、「お前の音楽は、マンガで言うと『アフタヌーン』だな」と言われたことがあって。自分が捉えている自分の音楽と、外から見える自分の音楽には、そういう誤差があるんだな、というのを初めて知った経験でした。

――なるほど。『アフタヌーン』的というのは、少年というより、青年期以降の複雑な感情だったり、割り切れない何かを表現している、という意味があると思います。確かに、米津さんの音楽にはデリケートで複雑なものという印象がありますから、王道の少年マンガとは、確かにすぐには結びつかないかもしれません。

米津:そうですね。『diorama』はボーカロイド界隈で培った方法論を使って作ったアルバムで、少年マンガ的だと思うんです。少なくとも、俺がいた当時のボーカロイドシーンは小学生や中学生が多くて、「子どものために曲を作っている」という認識しかなかった。その地続きにある作品なのに、ボーカロイドじゃなくて自分の声が乗っただけで、『アフタヌーン』になるんだと。

――そのギャップは、自分のなかで納得がいくものですか?

米津:いや、納得いかないですね。何かひとつ、要素が入れ替わるだけで、見え方がこうも変わってしまうのかと。ただ、ボカロで曲を作っていた人はそこに行きつくというか、人が歌ったときに「ちょっと違うね」という話になって、その違いについていけなかったりするんですよ。その点で言えば、自分もわかっていなかったんだなと思いました。

――今回の楽曲は、もう一度そういう少年・少女たちに歌いかけるように作ったのかな、という気がしました。

米津:そうですね。昔の自分に向けて歌っている曲です。昔から、少年マンガを原作にしたアニメの主題歌が好きで、なかでも一番強く印象に残っているのが『デジモンアドベンチャー』という作品なんですよね。うちらの世代でアニメの話をすると必ず出てくる、金字塔的な作品で、その主題歌が「Butter-Fly」(2001年/和田光司)という曲だった。王道ロックテイストの曲で、すごくエモーショナルで、自分のなかに深く根付いていて、人格形成にもすごく影響を及ぼしていると思う。当然、自分が今回のような作品の主題歌を作るというときに無視して通れないし、それくらい強いものを作りたかったんです。

――なるほど。米津さんにとっては、『デジモンアドベンチャー』という作品と「Butter-Fly」という楽曲が不可分なものになっているんですね。今回の制作においても、作品の内容を踏まえて歌詞を書いていった部分があるのでしょうか。

米津:そうですね。昔の自分とともに、『ヒーローアカデミア』の登場人物、主人公のデクくん(緑谷出久)とか、かっちゃん(爆豪勝己)とか、そういう子たちとの対話というか、リンクしている部分を探していく感覚で。これは『3月のライオン』のときもそうでした。

――“対話”するときの米津さんは、子ども時代に戻った米津さんですか、それとも今の大人になった米津さんですか。

米津:大人の自分、ですね。自分のなかに、大人になった自分と子どものころの自分が両方いて、例えば12歳の自分に対して、26歳の自分が「こういう曲ができたんだけど、どう?」って提示する。それで、「26歳のお前はいいのかもしれないけど、12歳の俺はそんなにいいと思わないよ」と言われたり。

――面白いですね。「ピースサイン」について言えば、そこで少年サイドの思いが強く出た曲なのかな、という感じがします。サウンドとしても、最近の米津さんの楽曲とはまた違うイメージがあって。

米津:これは自分とアニメとの距離ですね。『3月のライオン』のときは自分としても実験的な音楽になりましたけど、言い換えれば、作品自体がそういうものをはらんでいたというか、違和感なく共有してくれるものだった。でも、今回の『僕のヒーローアカデミア』は、いろいろ右往左往、試行錯誤したものの、こういう形でしかありえない、という感じで。

――王道的なギターロックの流れを汲みつつ、それを米津さんのサウンドで表現した、という印象です。

米津:そうですね。そもそもマンガ、アニメがそういうものだし、自分のなかにある“王道”と言えば、これしかなかった。だから、「Butter-Fly」に影響を受けた子どものころの自分と対話していくんです。いろいろこねくり回して、色気を出していろんな音を足してみようとか、そういうヨコシマな気持ちもあったんですけど、そういうものは野暮ったいというか、いやらしくしか聴こえなくて。最終的に石を削っていったら、もうそこに神様がいました、という話で。

――削ぎ落としていったら、これしかありえない、という形として完成したと。相手はかつての自分かもしれませんが、歌詞には少年に語りかける、あるいは励ますようなイメージもあり、最近のディープな世界とともに、もっとこういう曲も聴いてみたい、と思わせられるものでした。歌詞はどういうふうに書いていきましたか。

米津:最初に冒頭の4行ができて。<いつか僕らの上をすれすれに 通り過ぎてったあの飛行機を 不思議なくらいに覚えてる 意味もないのに なぜか>って、これは実際に経験した出来事なんですよね。子どものころ、本当にうるさいジェットのエンジン音が聞こえて、パッと見たら、飛行機がすげえ近いところを通っていて。「orion」のパッと見上げたらオリオン座が見えた、というのと似たような経験なんですけど、そういうふうに、なんでもないのにすごく記憶に残っている映像ってあるじゃないですか。そこに意味を探しても、納得のいく答えが浮かび上がりそうもないくらい、どうでもいいような記憶。でも、26歳の自分が客観的に眺めてみると、あらためて印象的な光景だなと思うんですよ。スレスレを飛んでいく飛行機を下から見上げている少年、という構図自体に、すごく意味があるような気がしてくる。そこから始まって、本当にマンガを描いていくような気持ちで歌詞を書いていきました。

――明確に物語ができているわけですね。

米津:<さらば掲げろピースサイン 転がっていくストーリーを>というサビのフレーズが重要で、最後に印象的な言葉を持ってきたいと思ったんです。マンガだとしたら、最初のコマには飛行機が飛んでいて、それを見上げる少年……というふうにコマが流れていって、最終的に、サビの一番最後のところで、見開き2ページでピースサインを掲げる少年の後ろ姿がドーーン!と。そのイメージを言葉にし直していったら、こういう歌詞になった感じです。映像から音楽を作る、というのは毎回やっていますが、ここまでマンガというプランに基づいて作ったのは初めてですね。

米津玄師 MV「ピースサイン」

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