藤原さくらが見せた、等身大の姿と“新しい私” 『Special Live2017』レポ

藤原さくらの等身大の姿と“新しい私”

 昨年、藤原さくらが全国を巡ったツアー『藤原さくらワンマンツアー2016「good morning」〜second verse〜』は、彼女がヒロインを務めたドラマ『ラヴソング』(フジテレビ系)を経て制作した新曲を初めて披露した、新しいミュージシャンとしての顔を覗かせるライブであった。そのツアーを経て、2月18日に東京・Bunkamuraオーチャードホールにて開催された『藤原さくら Special Live2017』は、変わらぬ等身大の姿と、新たな挑戦、さらに4曲の新曲を披露するライブタイトル通りのスペシャルな内容となった。

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 藤原にとって『ラヴソング』は転機となった作品であり、ドラマを通して“藤原さくら”の名前は全国へと知れ渡った。会場には彼女と同世代と思われる女性も多く見受けられ、ライブはそんなドラマの主題歌「Soup」より幕を開ける。藤原の脇を固めるのはOvallよりmabanua(Dr)、関口シンゴ(G)、Shingo Suzuki(B)、そして村岡夏彦(Key)。サポートには高田漣(Banjo、ukulele)が参加した。続く、軽快なカントリーソング「Oh Boy!」では高田の清々しいバンジョーの音色が会場に木霊する。藤原の低くスモーキーな声色との相性は抜群だ。

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明けたMCでは、「すごーい! オーチャードホールでやっているー!」と飾らない素の表情を見せ、この日のライブテーマが「ゆったり」であること、「Soup」で藤原を初めて知った人に向けていろんな“新しい私”を見せていくことを宣言した。ここでスペシャルな挑戦ということで藤原がエレクトリック・ピアノに挑戦。『ラヴソング』の劇中でカバーした「500マイル」を柔らかな音色に乗せて歌唱。ホールにはゆったりとした時が流れた。

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 高校生の頃に好きだった人に向けた楽曲「My Heartthrob」、母親のためにと「1995」を歌ったあとは、ホーン隊のTemjin(Tp)、上杉優(Tb)を迎えライブでは定番曲の「I wanna go out」、「Give me a break」の2曲を披露。金管楽器の太いサウンドが楽曲に加わることにより、会場は一気にジャジーな空間へと変貌する。ハスキーなボーカルも相まって、彼女の妖艶な一面を見ることができた。

 ホーン隊と入れ替わるように、ストリングスの新井恵(Violin)、松井洋之(Cello)が登場。「ドラマに出たことが転機だった」と話し始める藤原は、「役柄だった佐野さくらになって曲を書きたいな。あの経験が楽曲になるのではないか」という思いのもと、ロケ地の新宿に自身の足で赴き“佐野さくら”となって書いた新曲を披露した。春を連想させる叙情的な歌詞に、エレクトリック・ピアノの哀愁を帯びた音色、ストリングスの温かな響きが重なり合う。

 ここからは、3曲の新曲が立て続けに披露される。mabanuaよりお墨付きをもらったことを嬉しそうに語った1曲目は、赤色が好きな彼に思いを馳せる楽曲。たゆたうサウンドに藤原のボーカルが弾むように乗っていく。続く全編英詞の新曲は、ドラムがビートを刻む疾走感のあるサウンド。藤原がファンにスタンドアップを求めた3曲目は、彼女の中でもロック色の強い楽曲だった。UKサウンド調の尖ったギターとうねるベースが、彼女の楽曲群に新たな彩りを与えることを予感させた。

 高田に加え、ホーン隊、ストリングスが集結したライブ終盤では、リズムカルかつポップな楽曲「「かわいい」」、そして3月29日にリリースする2ndシングル『Someday / 春の歌』より「春の歌」の2曲を躍動感ある演奏にて披露した。ラストにカバーした「春の歌」は映画『3月のライオン』後編主題歌としてCMでオンエアされており、スピッツの楽曲としても有名だ。ブルース、カントリー、ジャズといった音楽的ルーツを持つ藤原らしい、原曲とは異なったテイストに仕上がっている。イントロはドラム、ギターのみと静かに始まり、やがてピアノ、ベース……と演奏に厚みが加わっていく。藤原の拍子を遅らせるゆったりとした歌い方、くすんだ声色も“春の訪れ”を感じさせるのに一役買っている。大サビでは、ステージに置かれた無数のオブジェが点灯し、桜をイメージさせるピンクの紙吹雪が舞い大団円を迎えた。

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 ライブ中には5月より全国のホール会場を巡る『藤原さくらワンマンツアー2017』の開催を発表。ツアーラストは東京・中野サンプラザでの2DAYSとなる。藤原はツアーについて、「新しい曲をごっそりやるツアー」と話していた。この日、4曲の新曲が披露されたが、次のツアーではさらに新曲の比率が多くなるはず。彼女にとっての“新たな挑戦”も続いていくことだろう。

 また、藤原は『ラヴソング』を通じて自身を知ったファンについて話すことが多い。佐野さくらとなってロケ地を歩いて書いたという新曲を披露する前にはこう話していた。

「佐野さくらはきっといろんな人と出会って、私もここにいるみなさんとは何かがきっかけで出会って。その出会った人と、もう会えなくなるかもしれない。会えなくなったとしても、それは無駄なことではなくて、離れ離れなんだけどきっと大切な出会いなんだろうなと感じました」

 彼女の言葉からは、“佐野さくら”と“藤原さくら”のギャップを心配する、今の素直な心境が垣間見える。けれど、会場には飾らない等身大の彼女に夢中になるファンで溢れていた。先述したマイナスをプラスに変えてしまうような本質の部分も彼女の大きな魅力だ。ツアーで全国を巡り、幅広いファンの前で自信をつけた彼女が見られることを期待しながら待ちたい。

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(写真=田中聖太郎)

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

藤原さくらオフィシャルサイト

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