「ギターとビートでまだ面白いことができる」a flood of circleが敏腕エンジニアと探究した“強さ”

afocが敏腕エンジニアと探究した“強さ”

「ギターの可能性を探したいんですよ。今はギターが弱い時代だから」(佐々木)

――ザブから「a flood of circleの強みはこういうところだ」という話もあったと思うんですけど、そのあたりはどうでしょう?

佐々木:直接はあんまり言わなれかったんですよね。みなまで言わないんですよ。英国紳士っぽくカッコつけるっていうか。なんでわざわざ日本に来てくれて、どこが気に入って面白いと思ったのかはあえて言わないで仕事してたんでしょうね。曲がいいから、としか言わなかった。

渡邊:そういうところも嫌いじゃないですけど(笑)。職人っぽいですね。

佐々木:俺、曲を作る時の癖なんですけど、かなりシンコペーションが多いんですよ。それがオールドロックンロールやブルースロックに少ない要素で。あとは、彼は「El Dorado」が好きで。畳みかけるような、何を言ってるかわからないけどドキドキする感じが面白かったんじゃないかと思いますね。

渡邊:バンド内のバランスがいいとは言ってましたね。亮介のことを“ロックスター”と呼んでいて、姐さん(HISAYO、Ba.)は“フィーメルボス”。俺は“縁の下”で、そのバランスがいいよって。

――アルバムの曲でも「Rude Boy‘s Last Call」とか、シンコペーションのリズムは特徴的ですよね。

佐々木:俺、早口じゃないですか。多分それなんですよね。拍の頭を食ったリズムに対して言葉を当てると、日本語の尖った固い音がハマりやすくて。滑らかに発音するより、角ばっているというか、カッと行けるのが日本語のいいところだと思っていて、わざと多くしてるところもあるんです。ザブにそういう説明はしてないですけど、だから面白がってくれてたんだと思います。

――ドラムも、グルーヴの重心は前にあるというか、つんのめるタイプですよね。

渡邊:ああ、せかせかしてますよね(笑)。

――それはどういうところからの影響が大きいと思います?

渡邊:俺の中で2大ヒーローのドラマーがいて、一人はLed Zeppelinのボンゾ(ジョン・ボーナム)で、もう一人はThe Policeのスチュアート・コープランドなんですよ。スチュアートのドラムはめっちゃ速いんですが、スティングとの掛け合いが凄くて。スティングが走れば付いていくし、スチュアートが走ればスティングが付いていくという。そういう常に崩壊しないアンサンブルに憧れていたら、俺も速くなったのかもしれない。バンドが始まった当初からシンコペーションの入る曲が多かったので、そこで亮介と俺の気持ちよさそうなところが早い部分にあると気付きました。

佐々木:フラッドのタイム感が出来てきたからね。シンコペーションが多い曲を書いてると、昔は嫌がったりもしてたんですよ。でも、今は振り切っちゃってる。

――a flood of circleって、いろんなことを乗り越えて活動を続けてきたバンドじゃないですか。これは僕も含めてなんですけど、その状況をメディアやファンは「転がる」という言葉で形容したがるんですよ。それは実は、バンドの持つシンコペーションのグルーヴに言葉が引っ張られてる可能性があるかも、と今思いました。

佐々木:はははは、それは凄い視点の分析ですね(笑)。

――なんか「乗り越える」より「転がる」のほうがしっくりくるんですよね。

佐々木:立ち止まれてない、転がっちゃってるっていうかね(笑)。それを初めて指摘してくれたのは姐さんかもしれない。「フラッドの武器って何だろうね?」ってよく話すんですけど、「あの突っ込み感じゃない?」って。それがやっといい感じになってきたのかも。

――ザブがそこを面白がったのも、なんとなくわかる気がしていて。世界的に、ブルースやロックンロールをやってるバンドって、重心が後ろにあると思うんです。どっしりしたリズムの方が格好いいという美学がある。爪先で立ってる感覚があるロックンロールをやる人ってそんなにいない。

佐々木:たしかに、ダンスミュージックとしてのロックンロールとは違ったところに行ってる自覚はあるんです。それは最初ネックだと思ってたんですけど、今は武器だと思ってるんで、そこを研ぎ澄ませて行こうとしていますね。

――もう一つ、グルーヴに関しての話があって。「El Dorado」が今回のアルバム制作においての一つのブレイクスルーになったという話がありましたけれど、あの曲はドラムの手数がすごく少ないですよね。そこを意識したのも大きかったんじゃないかと思うんですが。

佐々木:そうですね。イギリスに行く前に根詰めてナベちゃんとプリプロをやったんです。カニエ・ウエストをかけて「これ!」って言って。ギターリフに対して普通にドラムをはめていくと、Rage Against the Machineみたいなミクスチャー・ロックになっちゃうんですよね。でもこの曲は今のヒップホップのビートを組み立てていくっていう発想で作ろう、と。

――今のUSのヒップホップシーンをちゃんと追っているから、ロックンロールバンドがそこにどう対応するかという試行錯誤が生まれる。

佐々木:そうですね。かつそれを生バンドでやりたいんで、個人的にはもっと引き算ができたら格好いいいいなって。こないだKOHHの「Die Young」のギターの使い方を聴いて、マジで「やられた」と思ったんですね。「まだできるな」って思った。ギターとビートの掛け合いで面白いことができるっていうのは、まだ信じてるので。「El Dorado」が凄いヒントになったし、与えてくれたものは大きかったですね。

――前にリアルサウンドでインタビューした際は、海外の同時代を見ても、日本のロックシーンを見てもフラッドは孤立してるという話をしたと思うんです。その感覚は変わってきてますか? それとも強まってますか?

佐々木:うーん、相変わらず誰もいない山を登ってるなと思ってます(笑)。でも、ロンドンに行って、針の穴を通すことを妥協しちゃだめだと感じたんです。「どっちかに寄せる必要はない」ってザブが勇気を与えてくれたところもあるんですけど。同じところに行こうとしてる人はいないと思うし、それが寂しいわけでもないし。カニエ・ウエストがいいと思ってる感覚と、スピッツから始まってる自分が、ちゃんと繋がってるんですよね。そこは切り離せないので。それを巧く混ぜられたら、誰も行ったことがないところに行ける気がしてる。『NEW TRIBE』はその一歩になったかなと思います。

――そんなアルバムの象徴となる曲が表題曲の「New Tribe」であるわけですが。これはどういう風に作っていったんでしょうか。

佐々木:実はもう一つ、全く同じビートで違う曲を作っていたんですよね。でも、それは今までのフラッドが作ってきたトライバルビートの曲っぽくて、一回ボツにしたんです。なんか知ってるな、と。で、ロンドンから帰ってきて、トライバルビートを進化させるパターンもあると思って。ザブとやるのは決まってたんで、ザブとやるなら何やろうかなっていう頭になっていたんです。ザブはビートの人だし、「El Dorado」の経験もあったので、自分たちの武器だと思ったビートをもう一回見直そうと。で、デモを作り直したら「来た!」って手応えがあって。みんなに聴かせた時も反応がよくて、旗印が自分たちの中で勝手に見えたというか。それをザブとやったら爆発した感じです。複雑なリズムが重なって、すごく広い空間で躍動感が表現されていて。バッチリでしたね。

――やっぱりビートが鍵なんですね。

佐々木:そうですね。ただ、コードも普通の進行に見えて、いろんなテンションコードが入ってるんですよ。それもザブと作ってきたものだったし、今はいろんなことにトライしてますね。ボイトレも始めて、今まで出なかったキーの曲にもなったし。そういう細かいチャレンジを全部やってます。

――この記事が公開されるのは『NEW TRIBE』というアルバムがリリースされた後ですけれど、まだまだやれること、やってないことは沢山ある感じですか?

佐々木:そうですね。俺、めちゃめちゃ売れたいんです。デカいステージで自分の曲を聴きたいっていうのは変わってなくて、それと、今、書くべき格好いい曲がリンクしている気がしてるんで、燃えてますね。

――他のアーティストを聴いて刺激を受けることも多い?

佐々木:めっちゃありますね。僕はギターの可能性を探したいんですよ。今はギターが弱い時代だから。特に最近はさっき言ったKOHHの「Die Young」みたいに、ヒップホップのギターの音の使い方で「やられた」って思うことが多くて。A Tribe Called Questのアルバムにジャック・ホワイトが参加してるんですけど、それが全くジャック・ホワイト的じゃない音で。Q-Tipがサンプリングネタみたいに使ってるんですよ。ビヨンセの「Don't Hurt Yourself」での使い方のほうが余程ジャック・ホワイト的なくらいで。それは「Die Young」と近い刺激を受けましたね。「俺もこの勇気を持て!」っていう(笑)。ギターをギターと思わない勇気を持てば、もっと格好いいことができるかもしれない。

――まだまだ登っていく山の道筋は沢山あると。

佐々木:本当にそうです。だから超楽しいですね。

(取材・文=柴 那典)

■リリース情報
ニューアルバム『NEW TRIBE』
発売:2017年1月18日(水)
価格:初回限定盤(CD+DVD)¥3,500+税
※バイノーラルレコーディング選択可
※初回プレス分のみ「ホログラムジャケットステッカー」仕様
通常盤(CDのみ) ¥3,000+税
<CD収録曲>
1.New Tribe
2.Dirty Pretty Carnival Night
3.Flyer’s Waltz
4.BLUE
5.ジュテームアデューベルジャンブルース
6.Rock’N’Roll New School
7.El Dorado
8.Rex Girl
9.Rude Boy’s Last Call
10.The Greatest Day
11.Wolf Gang La La La
12.Honey Moon Song

<DVD収録内容>
『2016.12.1 Billboard Live Tokyo『a flood of circle 10th AnniversaryClimax “X’mas Party!!!”』ライブ映像を収録
1.Christmas Time
2.コインランドリー・ブルース
3.月面のプール
4.BLUE
5.Party!!!
6.I LOVE YOU

■ライブ情報
『a flood of circle ワンマンツアー“NEW TRIBE-新・民族大移動-”』
-2017-
3月2日(木)千葉LOOK
3月4日(土)横浜Club Lizard
3月10日(金)水戸LIGHT HOUSE
3月11日(土)熊谷HEAVEN’S ROCK VJ-1
3月17日(金)神戸太陽と虎
3月23日(木)大分club SPOT
3月24日(金)長崎Studio Do!
3月26日(日)京都MUSE
4月6日(木)盛岡the five morioka
4月7日(金)仙台CLUB JUNK BOX
4月9日(日)郡山HIP SHOT JAPAN
4月11日(火)八戸ROXX
4月13日(木)旭川CASINO DRIVE
4月14日(金)札幌BESSIE HALL
4月16日(日)函館club COCOA
4月21日(金)金沢vanvan V4
4月22日(土)長野J
5月14日(日)四日市CLUB CHAOS
5月19日(金)高松DIME
5月20日(土)松山SALONKITTY
5月26日(金)広島SECOND CRUTCH
5月28日(日)岡山PEPPERLAND
6月2日(金)大阪AKASO
6月4日(日)福岡CB
6月9日(金)名古屋BOTTOM LINE
6月11日(日)東京Zepp DiverCity Tokyo -FINAL-

『“NEW TRIBE-新・民族大移動-”〜Extra Tour』
6月17日(土)沖縄Output
6月18日(日)沖縄Output

※全公演前売り¥3,500

Tour Info: VINTAGE ROCK std.

a flood of circle公式サイト

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