さユり、新曲「フラレガイガール」が転機作である理由 名曲「ミカヅキ」からの流れを紐解く
さユりが12月7日にリリースした4thシングル表題曲「フラレガイガール」は、彼女にとって大きな転機となる楽曲だ。
今作の楽曲提供・プロデュースを担当したのは、RADWIMPSの野田洋次郎。言わずと知れた今年を代表する大ヒット映画『君の名は。』の劇中音楽を手がけたバンドのボーカリストであり、大晦日には映画主題歌「前前前世」のオリジナルバージョンにて『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)への初出場も果たす。バンドの大躍進と並行して、野田は自身のソロプロジェクト・illionにて2ndアルバム『P.Y.L』をリリース。RADWIMPSとしてのアルバム『人間開花』の発売も重なり多忙を極める中で、野田はさユりへの楽曲提供・プロデュースに尽力する。
「この歌を歌ってくれる、この歌の『持ち主』を探しました。そして、ふとあるCDを思い出し聴き直したのです。たまたま隣のレコーディングスタジオにいたさユり氏から頂いたCDでした。『やっと見つけた、この人だ』」
楽曲提供に伴い、野田は上記のようにコメントしている。
筆者が「フラレガイガール」を初めて聴いたのは、11月3日に新宿ReNYにて開催されたワンマンライブ。約800のキャパシティにすし詰め状態となったこの日。「こっぴどく振られた女の子の歌」「歌っていると愛しさがこみ上げてくる歌」と前置きして彼女が歌った「フラレガイガール」は、これまでの楽曲にはないサウンドと歌詞でありながら、まるで最初からさユりのために用意されていたかのように彼女と楽曲が溶け込んでいくのを感じた。
柔らかなピアノの旋律とさユりの力強くどこまでもまっすぐ伸びるような歌声から「フラレガイガール」は始まり、バンドサウンドは大サビのクライマックスに向けて思いを募らせるかの如く熱を帯びていく。
今回のシングルに収録している「アノニマス」や2ndシングル収録の「来世で会おう」、デビュー曲「ミカヅキ」といった楽曲では、さユりがアコースティックギターを弾けんばかりにかき鳴らし、時にデジタルノイズが顔を覗かす。それらの楽曲のMVには、“2.5次元パラレルシンガーソングライター”と言われる所以でもある、14歳の頃のさユりを具現化した「さゆり」や、本能キャラ「サゆり」など多種多様な2次元キャラクターが登場する。透過スクリーンに映像が投影されるライブのステージにおいても、キャラクターの存在は楽曲に物語を持たせる意味で重要な役割を担っている。しかし、「フラレガイガール」のMVにはこれらのキャラクターは一切登場しない。ダンス映像作家の吉開菜央が監督を務めるMVの主演はモデルの田中真琴。舞うように踊るコンテンポラリーダンスは、野田による歌詞の世界観を美しく表現し、彼女が涙を流すシーンは楽曲の大きなテーマである「失恋」を想起させ、時折リップシンクにて登場するさユりは楽曲の「代弁者」をイメージさせる。
「フラレガイガール」はタイトルが表す通りに、“フラレガイ(振られがい)”と“ガール((1)少女(2)が、ある)”をかけあわせた造語。言葉遊びの巧みな野田らしいタイトルである。「こっぴどく振られた女の子の歌」とさユりが話すように、1番Aメロでは<瞳を飛び出し頬を伝う彼ら 顎の先で 大渋滞 まぁこの先 涙を使うことなどもうないし まぁいっか>と諦めにも似た思いを吐き出しながら、サビ終わりでは<もういいでしょう? そろそろ種明かししにきてよ>と彼に対する未練を残したやるせない思いを歌う。その思いは大サビを経て、<泣いて追っかけてきても もう許したりしないから いつか天変地異級の 後悔に襲われりゃいい><そろそろ 時間だ ワタシは いくね 次の 涙も 溜まった頃よ>と思いは受け入れに変わり、次に使うための涙が溜まったという気持ちで彼女は前に進んでいく。