3rdアルバム『TRICK』リリースインタビュー
TRUSTRICKがたどり着いた“トリック”ではない強み「化学反応を継続できている実感がある」
2014年6月にデビュー・アルバム『Eternity』をリリースし、そのわずか7カ月後には2nd『TRUST』をリリース。その後も精力的にEPを発表するなど、結成からハイペースで活動をしてきた神田沙也加とBillyによるユニット、TRUSTRICK。2人が約1年9カ月ぶり、通算3作目となる最新アルバム『TRICK』を完成させた。
『Eternity』『TRUST』に続く3部作構想の完結編として、リスナーにもその存在が噂されていた今回の『TRICK』は、TRUSTRICKの作品では初めて、制作チームの外からchelly(EGOIST)とSUGIZO(LUNA SEA/X JAPAN)という2人のゲスト・ミュージシャンが参加。加えて制作中に起こった様々なアイデアを作品に詰め込むことで、ミュージシャン/ユニットとして成長した現在の彼女たちならではの“トリック”が全編にちりばめられている。その制作背景とキャリアを経た現在のTRUSTRICKについて、2人に訊いた。(杉山仁)
アートワーク、ゲスト、楽曲……詰め込んだ様々な“トリック”
――お2人は、9月にファン投票をもとにセットリストを決める『TRUSTRICK PREMIUM LIVE UNION 2016』(以下、『UNION』)を開催しましたよね。あのライブはセットリストもこれまでの集大成になっていて、アルバム発売を前にキャリアを振り返るいい機会になったんじゃないかと思うのですが。
Billy:おっしゃる通りですね。それに、リリースに際してのライブではないということもあって、『UNION』は自分の中でも本当に素で臨めました。大きな会場でありながら、ファンとの距離がすごく近かったというか。
神田沙也加(以下、神田):単独ライブとしては久しぶりでしたけど、まるで遠距離恋愛みたいに、会えなかった時間の間にも、ファンとの関係性がちゃんと育っていたのを感じましたね。これはコンスタントに作品をリリースすることができていたからなのかもしれません。
Billy:投票結果は、「雨が降る」が(坂本真綾の)カバー曲なのにかなり上位だったことに驚きました。あと、『innocent promise』(3rd E.P./TVアニメ「少年メイド」OPテーマ)のカップリングだった「mint gum」がリリースして間もないのに10位以内に入っていて、「新しいお客さんがついてきてくれているのかな?」とも思いましたね。アニソンをやらせていただいて、間口が広がった部分もあるのかもしれないです。
――東京公演を観させていただいたのですが、神田さんとBillyさんがそれぞれの見せ場を作り合うような雰囲気が以前より伝わってきて、ユニットのイメージも結成初期にあった「神田さんが始めたユニット」というものから「2人が形作っているTRUSTRICKというユニット」に変わっているような気がしました。
神田:ああ、本当に嬉しいです。それが聞けたらもう私は……(と言いながらテーブルに突っ伏して)お墓に入ろう……。
Billy:いやいや、まだ入らないで(笑)。
神田:ライブでのそれぞれの見せ場については特に話し合っているわけではないですけど、お互いに「ちゃんとスポットライトを浴びさせてあげたい」という気持ちがあるから、そういう感じになるのかもしれないですね。私は我が強い方ですけど、でも「目立ちたい」というのとはちょっと違うし、お互いに様子を見ながら「行くなら行け」と考えているんだと思います。やっぱりユニットなので、終わった時にちゃんと2人がイーブンでありたいんですよ。
Billy:僕は「ギタリストは絶対に歌の次」だと思っているので、基本的には一歩下がっているんですけど、2番であるからには最高の2番になりたいと思っていて。だから、「行かないなら、いつでも行くよ」という姿勢ではいるんです。お互いユニットを組むのはTRUSTRICKが初めてでしたけど、ギタリストとしてどういう見せ方がいいかを探る中で、今は全体を見ることができるようになってきたのかな、と思いますね。
――そして今回、そのライブ直前に完成したアルバム『TRICK』がリリースされることになりました。時期的に考えると、今回もギリギリまで作っていたということですか?
神田:発売延期は何とか免れましたけど、今回は本当に危なかったです(笑)。『TRICK』というタイトルなので音だけてはなく、トリックアートや間違い探しなどの要素も入れたアートワークとMVで訴えなきゃいけないと思っていたので、いろんなことがギリギリで。それに、今回はアルバムとして完璧な図形を求めていたところがあって、それを譲らなかった結果、本当にヤバかったんです。
――それに加えて、今回はファンの人たちも「次は『TRICK』というアルバムが出る」ということにうっすら気付いている中でのアルバム制作でもありました(笑)。
Billy:次のタイトルが分かっている人に向けて、作品を作る経験はなかなかできないですよね(笑)。でも、タイトルを決めた時点ではまだ何も考えられていなくて、「何をもって『TRICK』とするか」ということが、僕らも作っていく中でだんだん分かってきたような感覚でした。
神田:タイトルを『TRIP』にして、「あえて『TRICK』という言葉を出さないトリック」にしようということも一瞬考えたんです(笑)。でも「それはちょっと考えすぎじゃないか?」という話になって、最終的には『TRICK』に落ち着きました。
――実際、今回のアルバムには様々なトリックが詰まっていますね。まず、TRUSTRICKの作品では初めてのゲストとして、1曲目「TRICK feat.chelly (EGOIST)」にEGOISTのchelllyさんが、3曲目「I wish you were here.」にSUGIZOさんが参加しています。
Billy:曲を作った当初は考えてもいなかったんですけど、「TRICK」に関しては制作していく中で「chellyちゃんと一緒にやりたい」という話が出たんです。ウィスパー系が得意で、倍音が多めで綺麗な歌声という、神田さんと同じ系統のボーカリストであるchellyさんだからこそ、成立したコラボ曲だと思います。
神田:私はもともと(EGOISTが誕生するきっかけとなった)TVアニメ『ギルティクラウン』(フジテレビ系)が好きで、一方的にEGOISTのファンだったんです。TRUSTRICKを始める時にもEGOISTが好きという話をしていたので、私たちの音楽の何パーセントかにはルーツとしてEGOISTから受けたものが入っていて。だからchellyちゃんの歌い方のクセや好きな音、母音の伸ばしや切り際の息など、私のフェティシズムで歌ってもらいたいことを好きにやってもらいました。「ディレクションをするただのファン」という感じで(笑)。でも、この言葉しかないというものを歌ってもらったので完璧でした。
――SUGIZOさんの参加はBillyさんのアイディアですか?
Billy:そうです。SUGIZOさんが僕らの作品を聴いてくださっているという話を聞いて、ダメ元でお願いしてみました。僕たちはボーカリストとギタリストのユニットですけど、楽曲を構成する要素としてバイオリンなどの弦楽器やピアノも大切にしているので、「もしかしたらバイオリンで関わってもらえるんじゃないか?」と思ったんです。空間系の音が得意な方なので、輪唱のように歌に寄り添ってくださって「本当にありがとうございます」という感じですね。
神田:ギターじゃないというのがポイントですよね。でも、ファンの方が聴かれるとSUGIZOさんのバイオリンだとすぐ分かるものになっていると思いますし、そうやって交わることってコラボレーションならではだと思うので。自分たちにないものを作品に刻み付けて残してくださるのは、それ自体がものすごいトリックになりますよね。