ぼくのりりっくのぼうよみ、“多様性の時代”をシビアに語る「選択肢自体はいっぱいあるけど、安直なものがデカ過ぎる」

ぼくりり、”多様性の時代”を語る

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「実験の場を与えてもらっている」

ーー今回の小説は「Water boarding」という曲と連動していて、窒息感のある悪夢的な状況をこれでもかと描いています。ある意味で救いがない世界ですけど、楽曲バージョンだとやっぱり心地よくなるのが面白いですね。

ぼくりり:それが音楽の力なんでしょうね、ストリングスがいっぱい入っている曲をやりたかったんですよ。トラックをお願いしたbermei.inazawaさんはアニメ『ひぐらしのなく頃に』シリーズのテーマ曲などを手がけていて、「対象a」という曲の鬱々とした感じがメチャクチャ好きなんです。小説と連動した曲を作ろうと思ってコンセプトが出てきたときに、inazawaさんと初めて会って、「あ、こういう世界にしよう」というアイデアが急に降ってきたんですよね。ホワイトボードに「水が降ってきて死んじゃうんですよ。穴が空いてて、それでこうなって」って、一気に説明して。

ーー危機的な状況だけれど、ロマンチックですよね。少し距離をとって眺めると、映画の素敵なシーンかもしれない、と思える不思議な曲です。この3曲は、ご自身のなかで一貫した世界観の作品という感覚ですか?

ぼくりり:そうですね。「Newspeak」と「noiseful world」では“失う原因、理由”を書いていて、「Water boarding」では“失われていく過程”を描写しています。考える能力を失う、というモチーフは変わらないんですけど、角度が違うというか。盤全体としてはコンセプチュアルな感じになっているのかなと。繰り返すように、別にそういう未来を悲観的に捉えているわけじゃなくて、失っている人もたくさんいると思うけれど、失わない人もけっこういると思うんですよ。

ーーさて、メジャーデビュー後、特に去年の暮れあたりからライブを重ね、取り巻く状況も変わってきていると思うのですが、ご自身ではどうですか。

ぼくりり:実験の場を与えてもらっている、という感覚が強いですね。僕が「これをしたいです」と言ったら、みんながそれをするために動いてくれる。こんな機会ないじゃないですか。無難に売れよう、みたいなことより、やりたいことをどれだけ試せるか。より大規模な実験ができるようになってきているので、このままいろいろやってみたいなと思っています。

ーープロフェッショナルなミュージシャンやディレクターと仕事をする機会も増えたと思います。

ぼくりり:実際にセッションするとすごい楽しいですね。僕の音楽は打ち込みの音が多かったりして、無機質な感じをけっこう受けると思うんですけど、そういうものに対して、スタジオに入ってみんなでその場でやる、というのが楽しい。僕の曲なんですけど、有機物的というか、生き物感が出てくるというか。予定調和じゃない、どうなるかわからないのがいいですよね。

ーー自宅で作業しているだけではわからないもの?

ぼくりり:そうですね。特にライブでは生の経験をしていると思います。実はこの前、1回ライブで歌詞が飛んだんですよ。それがライブでの初めての大きな失敗だったんですけど、もちろん反省しつつ、「ああ、こういうこともあるのか」と思いました。

ーーどうやってその場をしのいだんですか?

ぼくりり:普通に「歌詞が出ません」と言って、次の曲に行きました(笑)。生きている意味というと大袈裟ですけど、僕が生でその場にいる意味というのがあるのが、ライブなんだなと。CDは僕が死んじゃっても聴けるけど、ライブは僕がいないといけない。そんな当たり前のことに「スゴいな」と思ったり。

ーーステージを観させてもらって、とてもライブ向きだと思いました。一方、今作のアートワークではCDの遺影を持って…という、象徴的なこともしていて。

ぼくりり:CDは単純にデバイスとしてもう時代遅れかな、と。評判がよかったバージョンのOSみたいなもので、売れすぎちゃったから、愛着もあってなかなか更新ができなかったんだと思うんです。単純に「更新しましょう」みたいなことを言っている人がいなかったから、ちょっとやろうかなくらいの感じで。

ーー記録メディアが変わっていくと、作品のあり方も変わってくると思います?

ぼくりり:僕は「作る」段階と「売る」段階が分かれていると考えていて、作るときはあまりそういうことは意識しないんですよね。つまり、やりたいことをやる。アルバムとしてバランスがどうかな、とは考えますが、それも曲を作る段階では考えていない。構想、制作、販売という3段階あると思っていて。最初と最後、構想と販売のときにはその内容を考えますけど、制作のときはもう純粋に、自分がやりたいことをやるだけ。だから、自分への影響はあまりないと思うんですけど、単純にCDを売ってみんなが買う、という文化が根付いてきたなかで、それがなくなろうとしている状況は、観察対象として面白いですね。ひとつの時代の終焉が来るときに、そのど真ん中、末席を汚す位置に座っているのは、とても貴重な体験だなって。

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ーーさきほどAIのお話もしましたが、音楽の未来はどうなると考えますか?

ぼくりり:楽しいものになると思いますよ。いろんな人が言っていますけど、中世くらいに戻るだけなのかな、と思うんです。好きな人が好きなだけ払って、というか。

ーーパトロン的なものの復活ということですね。

ぼくりり:そうです。昔は愛の程度にかかわらず「一律2000円で買ってください」とするしかなかったけれど、時代の進化で、払いたい人はいくらでも払えるような環境を作ることが可能になりましたよね。クラウドファンディングもそうだし、CDに握手券をつけるのもそう。誰でも望むだけ、クリエイティブに支援することができるような環境になるというのは、すごく楽しいことだなと思います。

ーー日本の場合は、同じものは一律の値段で、という美徳が今なお強いですね。

ぼくりり:そういうのも変えてやりたいんですよね。ワンマンライブを始めたら、チケットの値段についてもいろいろ考えてみたいなと思います。音楽のクリエイティブだけじゃなく、そういうメタ的な活動にも興味があるんです。

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