AK-69が明かす、“ホンモノ”へのこだわりと覚悟「リアルなヒストリーこそがヒップホップ」

AK-69が提言する“ホンモノ”へのこだわり

 AK-69が7月6日、<Def Jam Recordings>移籍後初作品となる両A面シングル『With You ~10年、20年経っても~ / KINGPIN』をリリースした。今回リアルサウンドでは前作『Flying B』に引き続き、AK-69へインタビューを敢行。レーベル移籍の経緯やそれぞれの楽曲にこめた思い、そして現在のヒップホップシーンに対するアティチュードについて語ってもらった。(編集部)

「Def Jamに行き着いたことは大きな自信になった」

――今回はHOPHOP、R&B名門レーベル<Def Jam Recordings>からの第一弾シングルリリースということで、まずはその経緯からお伺いしたいと思います。

AK-69:事務所を立ちあげて、ユニバーサルさんにCDの流通で関わっていただくことになった流れで、Def Jamの話もいただきました。こんな言い方したら失礼ですけど、もともと俺はメジャーレーベルに行くつもりは全然なかったんです。あまり意味のあることではないと思っていたし。でも、Def JamはB-BOYにとって、いや、音楽人にとって特別なレーベルですから。しかも、自分のサイニングでDef Jamのジャパン・ブランチをまた復活させることができる(2000年より始動した<Def Jam Japan>は近年休止状態だった)というのはかなり大きい。これまでやってきた「自分にしかできないことをやり続ける」というテーマのなかで、これほど光栄なことはないと思ってサイニングを決めました。

――<Def Jam Recordings>からリリースするにあたり、意識されたことや心境の変化はありましたか。

AK-69:それは特にはないですね。「Def Jamって言えるな」くらい。ただ、自分の歩んできたストーリーのなかでDef Jamに行き着いたことは大きな自信になりましたけど。盟友で今はもうこの世にいないTOKONA-Xというラッパーがいて、彼は<Def Jam Japan>とサインしていました。志半ばで契約も終わって、この世からいなくなってしまったので、彼の遺志を継ぐという意味でも今回のサインはとても大きな出来事でした。今回のシングルは「With You~10年、20年経っても~」というバラードを歌っていますが、そもそも俺には歌うキャラクターでKalassy Nikoffという名前があって。今は全部統合してAK-69として活動してますが、そのKalassy Nikoffが生まれたきっかけもTOKONA-X。彼のグループ、M.O.S.A.D.のアルバムで声をかけてもらったのがはじまりでした。それから何年か経って、TOKONA-Xが「Def Jamとサインした」と電話で報告してくれて。あれは嬉しかったし興奮したけど、どこかで悔しい思いもありましたね。俺は当時メジャーに行きたかったけど、行けなかったんですよ。「インディーズでやってやる」と思う前だし、自分に自信もない。そんな箸にも棒にもかからない時の俺を、TOKONA-Xは<Def Jam Japan>のファーストシングルに、Kalassy Nikoffとして呼んでくれて。そういうことが、今回のリリースに全部つながってるなと運命を感じています。しかも、あれから10何年経ってできたバラードが、Def Jamとサインしたからじゃなく、その前に自然と降りてきていたいうのも不思議で。自分でも初めての曲の作り方だったんですけど、シャワーを浴びてる時にメロディとリリックがバーッと降りてきて。それをあわててボイスレコーダーに録っておいた曲だったんです。そのあとにDef Jamとのサインが決まり、第一弾シングルに収録しようと思ったのがこの曲だった。全てがつながっていると感じましたね。

――「With You~10年、20年経っても~」という曲で、AKさんの壮大なストーリーにひとつピンが打たれたようです。

AK-69:そうですね。Def Jamと契約したあとに出す曲は、凄い注目されると思うんですけど、「これ俺にしかできねえから」って言える自信はありますね。洋楽っぽい曲を作ろうとか、英詞を多くしてとか、そういうこともなく。意識して作ることもできたけど、あえてしなかったというか。この曲のようなパーソナルなことは、書こうと思って書けるものじゃないんで。過去にもう1曲だけ愛について歌った歌があるんですけど、それも売れるためとか、話題を作ろうと思って書いたものではなくて。意識して作った歌は、他の曲にまぎれてしまう。自分の歌が特別だっていうつもりはないですけど、こうやって自然と降りてきた歌には不思議な力が宿ると思いますね。

ーー「With You~10年、20年経っても~」は、もともと奥さまにむけて執筆された曲なんですよね。

AK-69:「むけた」というよりは「想って書いた」のほうが正しいです。細かいニュアンスですけど。愛する人に聴いてもらいたいと思って書いたわけではなくて、想っていたら降りてきた。結婚してもう13年が経ちます。仲はいいですけど、13年もいるといろんなことがあるじゃないですか。世の中的には結婚は我慢だとか言われてますし。亭主元気で留守がいいとか、男も奥さんを異性として見られなくなるとか。そうやって言っている人たちもいるけど、俺は多分、奥さんが思ってるような心配ーー若い子のほうがいいんじゃないか。とか、世の中の結婚している女性みんなが思うことに対して、そうじゃねえんだよって伝えたかった。男は年を取って渋みが増していく、カッコよくなると言う人もいるけど、一般的に女性はそうは思われてないと思うんですよ。でも、俺は女も同じなんだよと。特に自分の愛してる人は内面もどんどん磨かれて、それに伴って美しさも増しているんだよ、ということを「バカだな、お前気付いてねえんだな」というタッチで書きました。

――10年以上結婚生活を送られて、こういったメッセージの曲を書けるのはすごいです。

AK-69:凄いというよりは、想っていないと書けない歌ではあるなと思います。まあ、ただ、奥さんが好きっていうだけなんですけどね。……今のはあえて書かないでほしいんですけど(笑)。恥ずかしいですね。

――プライベートな心情を歌にしているということですが、ヒップホップの考え方として、これもひとつの表現方法と考えていいんですよね。

AK-69:日本人の考えに特に多いんですけど、「ヒップホップはこうじゃなきゃいけない」っていうのがすごく多くて。「お前とやりてえ」とか、エロい歌だとOKなんだけど、真面目に愛のことを歌うとヒップホップじゃねえみたいに言う人がいる。それって俺からしたら凄く滑稽なんですよ。そういうヤツには「プライベートで女の子のこと好きと思わねえのか」って聞きたい(笑)。日常は何でも歌になる。ボーッと眺めていて思ったことだって、それすらほんとに思ったことだったら歌になるのが音楽。俺は全然そういうことに抵抗はないんです。ウケるためにラブソングを量産するとかは……まあ、世に溢れているそういう歌をdisるつもりはないですけど、あんまりカッコよくねえなと思います。ほんとに生まれた歌だったら、俺は何とも思わない。愛について何か自分で思ったことがあるんだったら、みんなも歌にしたらいいんじゃないかと思いますね。

AK-69「With You ~10年、20年経っても~」

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