AKB48「翼はいらない」が示した、“アイドル現場の論理”とは真逆の価値観

 この『翼はいらない』も様々な盤種が存在しますが、まず反応してしまったのが、Type A/Type Bに収録されているTeam Aの「Set me free」。ストレートなR&Bナンバーで、ここまでソウルフルに歌う楽曲も新鮮でした。

 さらに、Type Aに収録されているTeam Bの「恋をすると馬鹿を見る」は、1970年代マナーのディスコ・ナンバー。Type Aを聴いていると、フォーク1曲にブラック・ミュージック2曲といった感じで、軽く頭が混乱しました。

 また、Type C/劇場盤に収録されているTeam Kの「哀愁のトランペッター」は突然のラテン歌謡。表題曲である「翼はいらない」こそフォーク〜歌謡曲的ですが、カップリング曲のサウンドのバラエティは豊かです。

 そして「翼はいらない」は、2013年の「恋するフォーチュンクッキー」とは異なる音楽性であるものの、誰にでも親しまれるような楽曲である点は共通しています。アイドル現場では、「盛り上がれる曲=いい曲」という価値観もありますが、それとは真逆の価値観を提示しているのが「翼はいらない」なのです。「MIXが打てるかどうか」といった現場の論理から離れて、AKB48の大衆性を担保している楽曲の一例が「翼はいらない」だと感じました。2016年現在のアイドルポップスにおいて、この判断はなかなか勇気がいることでもあるのです。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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