柳樂光隆×唐木元が語り合う、『Jazz The New Chapter』が提示した“新しいサウンド”の楽しみ方

唐木元&柳樂光隆が語り合う“ジャズの革新”

「白人由来のサウンドはあんまり顧みられてこなかった」(柳樂)

柳樂:みんな気づいたと思うんですが、原曲の打ち込みサウンドを、カバーは全部アコースティックの楽器で演奏しているんです。ウクレレとかチャランゴ、チェンバレン、ハーモニウムを使ったりして。これも先ほど紹介した「マシンのサウンドを人力再現」のバリエーションといえるのかもしれません。

唐木:なるほど。シンセのフィルターやサウンドエフェクトを生楽器で真似っこすることで、ミュージシャンが奏でる音色が拡張されたと考えていいのかな。リズムマシーンがドラマーを進化させたように。

柳樂:そう思います。このベッカ・スティーヴンス、出自としてはフォークミュージックの要素が大きい人。フォークやカントリーをベースにしたジャズというものは昔からあるんですが、より洗練された作品が最近現れてきているので次に紹介したいと思います。白人のフォーク系シンガーがボーカリストとして参加している、デイヴ・ダグラス・クインテットの『BE STILL MY SOUL』を聞いてみましょう。

【デイヴ・ダグラス・クインテット「BE STILL MY SOUL」】

唐木:バッキングの音色はジャズだけど、曲は完全にフォークソングだね。あとジャズに不可欠なはずのブルース感覚がさっぱりない。

柳樂:長いことジャズ=黒人音楽という先入観が強くて、白人由来のサウンドはあんまり顧みられてこなかったんです。ブラッド・メルドーというピアニストの登場でそこは一気に変わりました。メルドーはグラスパーにとってヒーローみたいな存在ですが、ニック・ドレイクやエリオット・スミスのようなフォーク系白人シンガーの楽曲を積極的に取り上げて、「ブルース感覚の希薄なサウンド」を奏でたんです。

唐木:なるほど。フォークを拡張ジャンルの4つ目として挙げるなら、ノラ・ジョーンズのヒットも大きかったんじゃない?

柳樂:確かに。1stアルバム『Come Away with Me』では、バックにブライアン・ブレイドやジェニー・シェインマンなど、JTNCで紹介しているようなフォーキーなサウンドを得意とするジャズミュージシャンを起用してます。彼女は高校生のころからグラスパーと知り合いで同じワークショップに参加していたし、Qティップ(ア・トライブ・コールド・クエスト)のアルバムでも歌っている。すごくJTNCと縁が深い存在です。グラスパーも「ノラがブルーノートであれだけヒットしてくれなかったら、自分はデビューできなかった」と言っているくらいで。

唐木:それはつまり、WINKのヒットがなかったらフリッパーズ・ギターはデビューできなかった、みたいなこと?

柳樂:なんか違う気がするけど(笑)、とにかくノラのヒットがあったから、若いミュージシャンの挑戦的な作品をリリースできる体力が再び付いたというのは間違いないです。

唐木:なるほど。フォークときたら、次はクラシックかな。マリア・シュナイダーのことを話さないとね。

柳樂:マリア・シュナイダーはクラシックとジャズの両部門でグラミー賞をとった人です。他にいないんじゃないかな。いまから「Hang Gliding」という、僕がいちばん好きな曲を掛けますが、これはハンググライダーが離陸してから、上昇し、乱気流に揉まれたりして、着陸するまでの様子を写し取った曲。

【Maria Schneider Orchestra - Hang Gliding】

唐木:クラシックに聞こえる時間帯もあるかもしれない。ただ編成はジャズのビッグバンドっていうのが変わってるよね。ビッグバンドっていうとこう、ルパン三世っていうか(笑)、スウィング的なサウンドが想起されるけど。

柳樂:そこにクラシックの素養を使って「新しいアンサンブル」を持ち込んでる。マリア・シュナイダーといえば、こないだ来日してた挾間美帆さんが彼女の大ファンだよね。挾間さんも音大でクラシックを学んだ人で、いまニューヨークで自分のオーケストラを率いてジャズをやってる。あと去年デヴィッド・ボウイと大々的にコラボしたことで、マリア・シュナイダーの名前を知った人も多いんじゃないかな。

唐木:やっぱりボウイはキャリアが長いだけあって目のつけどころがいいね。何を養分にしたら生き延びられるか知ってる(笑)。

柳樂:ボウイは1月に出るニューアルバムでもジャズミュージシャンを大量起用しているというニュースが届いてるので、引き続き動向に注目ですね。

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