柳樂光隆×唐木元が語り合う、『Jazz The New Chapter』が提示した“新しいサウンド”の楽しみ方

唐木元&柳樂光隆が語り合う“ジャズの革新”

「一番新しい洋楽の本として読めるものを作りたかった」(柳樂)

唐木:「マシンのサウンドを人力再現」ってトピックがまた浮上したところで、そろそろまとめに入りたいんですが。ちょっとここまでの板書を振り返ってみましょう。

拡張に使用されたジャンル

ヒップホップ

ネオソウル

ポストロック

フォーク

クラシック

ブラジル音楽(ミナス派)

エレクトロニック・ミュージック

拡張がもたらした新しいサウンド

ヨレたビートの導入

マシンのサウンドを人力再現

音響への意識

ブルース感覚の希薄さ

新しいアンサンブル

ドミナントモーションの希薄さ

唐木:これね、全部好きになる必要はないと思うんです。ただ1つや2つは「あ、俺この部分は好みだな」というところがあったんじゃないでしょうか。今日はそういう自分のツボを見つけて帰ってくださったら嬉しいし、それが『New Chapter』の楽しみ方なんじゃないかと。

柳樂:そうですね。そういう風に、ジャズに全然興味ないって人も入り口を見つけてくれる本にしたつもりです。表紙のデザインもそうだし、いろいろあるけどグラスパーをアイコンに据えちゃうという。そのほうが入りやすいでしょ?

唐木:まんまと入りましたよ(笑)。

柳樂:あと担当編集の小熊俊哉と僕とで共有していた制作意図は、ジャズの本でありながら、いま一番新しい洋楽の本として読めるものを作りたかったということ。だからジャズを切り口にしながらも、ケンドリック・ラマー、アニマル・コレクティヴやグリスリー・ベア、フローティング・ポインツ、ジェイムズ・ブレイクなどに積極的に触れました。

唐木:そうだね。ジャズに興味が湧いてめくってるうちに、洋楽の各ジャンルも見渡せてくるという。

柳樂:あと、逆に僕みたいにヘビーなジャズリスナーには、J・ディラやディアンジェロを好きになってほしかった。ジャズしか聞かないって人が、ネオソウルやポストロックも聞いてみようか、ってなってくれたら最高。

唐木:そうだね。ちなみに僕はJTNCと出会うまでは、60年代から80年代のレコードばかり買ってる、完全に時間の止まった人だったの。1枚300円から800円のレンジで20年ぐらい暮らしてた。ところがJTNCのせいで断然新譜のほうが面白くなっちゃって……こう言っちゃなんだけど、新譜、高いねえ(笑)。

柳樂:Bandcampとかで聴いてくださいよ。Apple Musicなんかもあるじゃないですか。最近はフリーでミックステープを出していることもあるし。

唐木:そうか、聞き方も更新されてるんだね。まあ値段の話はさておき、最新の音楽を追うのが楽しい、という状況が何十年ぶりかに戻ってきたのは本当。ぜひ今日来てくださった皆さんも、拡張ジャンルとして紹介したうち、どれか1つの扉だけでも開けてみてください。新譜が出るたびワクワクするあの感覚が手に入ると思いますので。

(取材・文=中村拓海)

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