『Jazz The New Chapter 3』発刊記念イベントレポート
柳樂光隆×唐木元が語り合う、『Jazz The New Chapter』が提示した“新しいサウンド”の楽しみ方
東京・下北沢B&Bにて10月31日、『Jazz The New Chapter 3』の発刊を記念したイベント『ジャズミュージシャンが奏でる、まだ名前の付いてない新しい音楽』が開催された。同イベントは、2014年2月に発刊されたジャズの新潮流についてのガイドブック『Jazz The New Chapter』(JTNC)の3作目発刊を祝して行われたもの。シリーズの監修を務めたジャズ評論家の柳樂光隆氏と、元コミックナタリーの編集長であり、2016年よりバークリー音楽大学へ入学するベーシスト・唐木元氏の2人が、JTNCとはどんな音楽なのか、“別ジャンルを使って拡張されたジャズ”という視点から詳しく語り合った。
「ロバート・グラスパーのように、ジャズと別ジャンルの間に立っている人が沢山いた」(柳樂)
唐木元(以下、唐木):『Jazz The New Chapter(以下、JTNC)』読者代表の唐木です。
柳樂光隆(以下、柳樂):監修を務めた柳樂です。唐木さんはJTNCを読んでジャズにかぶれてしまい、会社を辞めてバークリー音楽大学に行くというヤバい中年なんで、渡米前にお呼びしました。
唐木:柳樂さんのおかげで人生めちゃくちゃだよ(笑)。でも、出版物やメディアがここまで一人の人生を変えることもあるのかと、感心すらしています。
そのJTNCですが、最近ではジャンル名みたいに「誰々はNew Chapter系だ」なんて言われるようになりました。そのシンボルは間違いなくロバート・グラスパーなわけですが、いざ誌面を読んでみるとラテンジャズやヨーロッパもの、ビックバンドまで幅広く載っていて、輪郭が捉えづらいと思うんです。なのでいま一度、JTNCって何なの? という定義から教えてもらえれば。
柳樂:この本を出したきっかけから話すと、ロバート・グラスパーが『Black Radio』というアルバムを出したとき、「これは歴史的な作品になる」と確信したんです。それで同作を軸にした音楽ガイドを作ろうと考えました。
唐木:グラスパーは『Black Radio』でジャズとヒップホップを掛け合わせたわけだよね、身も蓋もない言い方すると。
柳樂:「ヒップホップを使ってジャズを拡張した」という言い方を僕はしています。そうして見回してみると、グラスパーのようにジャズと別ジャンルの間に立っている人が沢山いた。それらの音楽を全部集めてみようと思ったのが、最初のコンセプトです。
唐木:じゃあ無理やり単純化させて言うと、“別ジャンルを使って拡張されたジャズ”を総じて『New Chapter』と呼んでみた、ということでしょうか。だとしたら今日は、その“別ジャンル”に当てはまるものを順々にツアーしていって、そして拡張の結果どんな新しいサウンドが生まれたのか、というのを探っていけたらと思います。
柳樂:いいですね。じゃあ1つ目はいま言ったとおり、ヒップホップ。わかりやすいところでグラスパーの「Dillalude #2」を掛けてみましょう。これはコモンが2000年にリリースした「The Light」のカバーです。トラックを作ったのはJ・ディラという人で、サンプリングの元ネタはボビー・コールドウェルの「Open Your Eyes」という曲。
唐木:グラスパーはこの曲、ライブでほとんど毎回といっていいほどプレイしますよね。
柳樂:ジェフ・ブラッドショウという、ジャズやコンテンポラリーゴスペルで活躍しているトロンボーン奏者も、同じく「The Light」をカバーしています。他にもR&Bシンガーのジョン・レジェンドは元ネタの「Open Your Eyes」をカヴァーしていましたね。たぶん背景には、アメリカの黒人音楽が日本人が考えてるほどジャンルで分断されてないってことがあると思う。ブラックミュージックって大きなタグで聞かれてるから、ゴスペルやジャズの人も普通にヒップホップを聞いて育つんです。
唐木:彼らにしてみれば、青春期に染みるほど聞いた曲をやってるだけなんだろうね。ただヒップホップのビートを人間のドラマーが再現してるところには、非常に新しい味わいが感じられます。
柳樂:ヒップホップのトラックってファンクやジャズをサンプリングして作るんですけど、きっかり1小節を切り出せなくて、ちょっと足りなかったり、ちょっと余ったままループさせちゃう。すると軽くつんのめったようなビートができるわけです。次第にそれが醍醐味っていうか、むしろそれがいい、みたいになって。J・ディラはそのヨレたビートのカリスマみたいな人。