柴 那典の新譜キュレーション 第2回
いつの間にか世界最強のポップ・モンスターになっていた、エド・シーランにまつわる6枚
驚いた。
僕の担当する新譜キュレーション連載では基本的に海外のヒットチャートを参照しながら、単に売れてる曲を紹介するんじゃなくて、その点と点をつないで線にするような意図で原稿を書こうと思っている。そのサウンド動向から洋楽のメインストリームにあるムーブメントの動きを可視化しようと思っている。なので海外のヒットチャートを見て「ふむふむ、こんな曲が売れてるのね」みたいなチェックをしてるのだけれど、ある日「あれ?」となった。
エド・シーランのアルバム『X(マルティプライ)』がめちゃめちゃ売れ続けてるのだ。リリースは2014年6月25日。もう1年半近くになる。なのに68週連続でチャートインを続けている。それどころか再びランクアップしている。10月18日付の全英アルバムチャートでは、アヴィーチーやディスクロージャーなど期待の新譜を押しのけ2位を記録。10月24日付けの全米アルバム・チャートでも12位となっている。
Spotifyが発表した「25歳以下で最も影響力のあるアーティスト・ランキング」でも1位となった彼。『+(プラス)』と『x(マルティプライ)』の2枚のアルバムでいまや世界屈指のポップスターの座に上り詰めたわけだ。
そして、彼に注目が集まり続けているもう一つの理由に、旺盛なゲスト参加がある。特にここ最近は、ジャンルや国籍を超えたさまざまなアーティストから引っ張りダコ状態になっていて、それが軒並み面白いことになっているのである。というわけで、今回はこんな切り口でいくつか紹介したい。
ルディメンタル『We the Generation』
今年のフジ・ロックでも来日しホワイト・ステージのトリを飾っていた、イギリスのエレクトロ・バンド。新作『We the Generation』は、デビューアルバム『HOME』に続いて2枚連続で全英アルバムチャート1位となっている。前作は疾走感あるドラムンベースのビートが基調になっていたが、今作ではグッとテンポを落とし“ヤンチャさ”を抑えてソウルフルな味わいを深めた感じ。そんなアルバムのテイストを象徴するのが、エド・シーランをフィーチャーした「Lay It All On Me」だ。
アルバムに先んじてリリースされたシングル曲の「Bloodstream」は「エド・シーラン&ルディメンタル」名義でリリースされ、単なるゲスト・ボーカルではなくクリエイティブも共にしている。
マックルモア&ライアン・ルイス「Growing Up (Sloane's Song)」
こちらはサマソニでも来日したマックルモア&ライアン・ルイスの、デビュー・アルバム『The Heist』以来の音源となる新曲。代表曲「セイム・ラブ」にも通じるスケールの大きなバラードで、生まれたばかりの娘に父親が優しく語りかけるリリックも感動的。こちらもエド・シーランがゲスト・ボーカルとして参加し、サビのゴスペル調のメロディを歌い上げている。
2枚目となるニューアルバムの完成はまだ報じられていないが、この曲はその大事なピースになるはず。
トリー・ケリー『Unbreakable Smile』
日本での知名度はまだ少ないが、デビューアルバムが全米2位を記録しスターダムを手にしたカリフォルニア発22歳のシンガーソングライター。アコースティックギターを抱えて歌い復数の楽器をこなす才媛でもある。R&Bやヒップホップのグルーヴ感と生楽器のナチュラルな響きを同居させたサウンドは、いわば「エド・シーラン以降」と言えるものかもしれない。アルバムの中では「I Was Made for Loving You」でエドとの共演を果たしている。
ジェイムス・ベイ『Chaos and the Calm』
こちらも今年にデビューアルバムが全英1位を記録しブレイクを果たしたイギリスのシンガーソングライター。シンプルな弾き語りのスタイルで味わい深い歌を聴かせるタイプだ。長髪に帽子のスタイルに、ちょっと枯れた声。静かに、じっくりと染みてくるような曲が魅力。先日ケンブリッジで行われたライブではエド・シーランがサプライズゲストとして登場。代表曲「Let It Go」をデュエットで披露して大きな喝采を浴びていた。