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兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第6回

リズムという概念のない男ーー『やついフェス』の蛭子能収に衝撃を受けた

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 先日、生まれて初めての音楽体験をしたので、忘れないうちに書き記しておく。

 いや、体験というより知識を得た、事実を知った、といった方が近いか。

 どういう事実か。リズムという概念のない人間は存在する、という事実だ。

 2015年6月21日日曜日、毎年この時期にDJやついいちろうが渋谷のライヴハウスとクラブ10会場にて、1日170以上の出演者を集めて行っている『YATSUI FESTIVAL』。今年から2デイズになって、その2日目。

 もっとも大きな会場であるTSUTAYA O-EASTで、タイムテーブル上では18:30から(実際は30分押していたので19:00から)『エレキシヶ原の歌合戦』という催しが行われた。これは、やついいちろうチームとレキシ(池田貴史)チームに分かれ、『紅白歌合戦』ばりに1曲ずつ歌って勝負する、という、フェスの彩りとしてバラエティ番組的こともやりましょうみたいな企画。

 バックバンドを務めるのはこの日CLUB ASIAのトップに出演したカルメラ。いつものようにグダグダと脱線して進行を妨げるレキシ池ちゃんにやついくんがつっこんだりしつつ、1曲目はレキシチーム=レキシ&いとうせいこう&MCいつか(Charsima.com)の3人で、“今夜はブギー・バック”。途中で曲がレキシの“狩りから稲作へ”に変わったりして、大いに盛り上がる。続いてはやついチーム=やつい、コムアイ(水曜日のカンパネラ)、GONCHI(Charsima.com)の3人で“DA・YO・NE”を披露、途中で水曜のカンパネラの曲になったりしてさらに盛り上がる。

 そして、やついチームの二番手として、ヘアスタイルからメイクから衣装まで全身TOSHIのコスプレ姿の片桐仁が登場。 “紅”を歌うも、キーが苦しいようでサビは客にマイクを預けっぱなし、それをやついくんにつっこまれたりしてフロアは大笑い。

 ここまではよかった。異変が起きたのは、そのあとだ。

 やついチーム、片桐仁のTOSHIに対抗するアクトとして登場したのは、蛭子能収。今このステージにいる人のうち、おそらくいとうせいこうしか知らないであろう蛭子さん、そのいとうせいこうに「俺は昔から蛭子さんのことを野良犬と呼んでいる。おい野良犬!」といじられたり、逆に池ちゃんに「具志堅さんですか?」とたずねて笑いをとったりしたのちに、「何を歌ってくれるんですか?」「美輪明宏さんの“ヨイトマケの唄”を」というわけで、拍手を浴びて歌い始めた。
その歌いっぷりに、我々オーディエンスは度肝を抜かれることになる。

 蛭子さんの歌、リズムという概念がないのだ。リズム音痴とかリズムがずれるとかではなく、リズムという概念そのものを持っていないのである。だから、演奏に合わせて歌おうという意志がゼロ。歌には演奏がある、という前提を無視していると言ってもいい。

 冒頭の「♪とうちゃんのためならエンヤーコーラー」のアカペラ部分が終わって、まず演奏と共に歌が始まるはずが、自分のタイミングで適当に歌い始める。1番が終わって2番に入る時も、バックの演奏が2番の頭にさしかかるのを待たずに歌に入る。だからコードが合わないのは当然、リズムも頭と裏がコロコロ入れ替わる。

 驚愕しつつ手拍子を放棄する超満員のオーディエンス。「そうか、この人、そうなんだ」とうことを悟り、歌がずれるとそれに合わせて瞬時にリズムとコードを変えるカルメラ一同(すごいアドリブ力でした。心底感心しました)、でもまたすぐずれる蛭子さん、それに合わせてまた変えるカルメラ……と、歌と演奏の追いかけっこと化すステージ。そんなことには一切かまわず……というか「かまう」「かまわない」という意識すらなく、片手に歌詞カードをがっちり持ってそれを顔を近づけ、読み上げるように歌い続ける蛭子さん。両ソデで這いつくばって笑っているやついくん、レキシ池ちゃん、いとうせいこうなどの共演者一同。

 しかも。音程も外れまくっているならまだわかるが、そうではないのだ。音程はちゃんと合っているし、声は美声とすら言ってもいいくらい。ちゃんと歌えている。なのに、リズムだけが合っていない。くり返すが、ずれているのではなく、ずれるとか合わせるとかいう意識そのものがない。

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