プロデューサー小林武史が語り尽くす、Salyu新作の全貌 なぜ“完全再現ライブ”に踏み切ったか?

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 Salyuが現在開催中の全国ツアー〈Salyu TOUR 2015 Android&Human Being〉で、4月22日にリリースされた最新作『Android&Human Being』を曲順通りに演奏する“完全再現ライブ”を行なっている。プロデューサーの小林武史氏が作詞作曲を手がけた同作は、タイトルが示唆する通り、デジタルと生音、そして歌声の可能性を深く追求したコンセプチュアルな一枚。音楽面における多彩なトライアルに加え、SF的要素を散りばめた歌詞においても、人間と機械をめぐる重層的な物語が展開していく。今回リアルサウンドでは、作品のカギを握る小林氏への独占インタビューが実現。『Android&Human Being』の全曲解説を通して、同作のコンセプトやメッセージ、さらには“完全再現ライブ”を読み解くヒント(ネタバレ的内容も含む)まで、じっくりと語ってもらった。

ーー今回の新作『Android & Human Being』は、とてもシンボリックなタイトルを持つ作品です。まずは今回のコンセプトから教えてください。

小林武史(以下:小林):Salyuがここ何年かで「salyu x salyu」の活動を経て、Salyuというものを再構成していく、つまり、自分が表現していくものを分析して組み立て直していくことができるようになったことがヒントになりました。前回のツアー(2014年の『ミニマ』)で1曲、ピアノと歌だけで「リスク」を聴いたときに、これまでのように「心を込めて歌います」というだけじゃない形が表れてきたな、と。そのときに、ラブソングを作るにしても、“サイボーグやアンドロイドの恋”というような、これまでとは違うシチュエーションがイメージできたんです。

ーー音楽を再構成、再構築していく手法は、確かにSalyuさんの近作に色濃く出ていますね。小林さん自身にとっても、そうした手法は馴染みのあるものでは?

小林:よく言われるように、映画『ブレード・ランナー』や、その原作であるフィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』あたりから、人間の心を逆算して再構成するような文化上の潮流がありました。また孫正義さんによれば、これから10年程度でコンピュータが人間の頭脳のパターンを超えるという。しかし、「人間とは」「命とは」という問いは、いくらコンピュータが進化して再構成するという技術が高まっても、結論づけられることは絶対にない……という思いもあります。だからこそ“人間とコンピュータ”というテーマは非常に興味深く、そういうものが映画や小説だけでなく、ポップミュージックという世界に普通の顔をして入ってきてもいい時代なんじゃないかと思います。例えばアメリカの空港に売っているペーパーバックの中に『Android and Human Being』という本があるようなーーそういう気安さで捉えられるといいのかな、と思ってつけたタイトルです。

■M.01「先回りして1」

ーー1曲目の「先回りして 1」には「2」と「3」もあり、アルバムが進むごとに変奏されていきます。大らかで包み込むような歌声が印象的ですが、一連の「先回りして」シリーズに込めた思いとは。

小林:この曲は、未来というものの不確かさや現実の残酷さを背景に、このアルバムの他の曲に出てくるさまざまなキャラクターに対して、母のような存在、あるいは未来の子孫が、予言めいた形でこの先を案じる子守唄のようなものにしたかった。「一寸先は闇」という怖さもどこかに孕めることができればいいな、と思いました。だから、子守唄として少し変わったタイトルなんです。
 「1」「2」「3」と、歌詞やメロディが変わっていきますが、これは“芽生え”があって、“旅”があって、いろいろなうねりを経て、最後にまた“芽生え”に戻ってくる、という流れになっています。ナイルの洪水のようにいろいろなものを流してしまうんだけれど、それがまたいろいろなものを運んできて、という循環を行う。そういうシーケンスへの狂言回し的な役割になればいいな、と思いました。

ーーこの曲におけるSalyuさんの歌声については。

小林:抜群の出来栄えです。Jポップ歌手でこの普遍的な母性感を歌える人はあんまりいないんじゃないかと感じました。

■M.02「非常階段の下」

ーー2曲目になると、場面も音のテイストも一気に変わり、都市的かつ無機的なイメージへと転じます。繰り返されるピアノも印象的です。

小林:実は、もう少し壊れたロックをイメージしていて、デモテープではイントロのリフをギターで弾いていたんですけど、Salyuのアイデアでピアノになりました。僕の中で、最後の一手に悩んでいたものを、Salyuに解いてもらった感覚でしたね。ピアノと言っても、僕がライブで弾くようなエモーショナルなものではなくて、記号的/無機的なものから始まっていきます。サビもオルタナティブなコード進行ですが、非常に今日的なロック・ポップのメロディだと思っています。全体的に今日的な仕上がりなんだけれど、歌詞がどこか壊れていて、言葉の使い方も何を言っているのか今ひとつ不明瞭で、あえて説得力のようなものから離れるように作っています。聴く人によってさまざまなシーンが浮かんでくると思うんですが、ところどころにエラーが起こるような、少し壊れた、不確かな仕上がりにしたかったんです。

 イントロのピアノは、ライブでは僕が弾くのですが、音源ではコンピュータで自動演奏させているような感じですから、あえて抑揚がつかないようなセッティングにしています。ちょっとズレていて、ある種イメージの底に潜っていく、このアルバムの中に入り込んでいくような音にしたかったんでしょうね。夢で見るような、ナンセンスな世界を表現しています。一人称と二人称があっという間に入れ替わってしまうような形で、作品の世界に一気に入り込めるようにと。

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