松任谷由実、竹内まりや、中島みゆき……JUJUが歌う名曲カヴァーはなぜ特別な響きを持つのか?

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 現在の日本のポップ・シーンにおいて屈指のシンガーと言えるJUJU。その彼女がハイレベルのプロデューサーたちを招きながら、秀逸なカヴァー・アルバム『RequestⅡ』を作り上げた。彼女が発表してきたカヴァー集の中でもとりわけ強いこだわりを感じさせるアルバムであり、それが作品トータルのクオリティの高さに直結している。そしてここでは、JUJUの歌に対する真摯で熱い姿勢が静かに、しかし、たしかに感じられるのだ。

 本盤は、今なお色褪せることのない女性シンガーの名曲たちを、JUJUがファンからのリクエストに応えてカヴァーするというコンセプトの作品だ。2004年のデビューから10周年。幾多のオリジナル曲のヒットを生み出してきたJUJU。N.Y.在住時代に培ったJAZZ素養を存分に発揮したジャズ・アルバムもヒットを記録。そんな彼女がデビュー当時から、もうひとつ大切にしてきたもの、それはカヴァー楽曲だ。洋邦問わず、現在までリリースしてきた27枚のシングルすべてに、カヴァー楽曲を収録している。そして2008年には、12ヶ月連続のマンスリー・カヴァー・ライヴ「ジュジュ苑」をスタート。2010年には、ファンからJUJUに歌って欲しいJ-POPの名曲たちを、国内トップ・プロデューサーたちとの豪華共演で制作した『Request』をリリースし、女性シンガーのカヴァー・アルバムとしては史上初のオリコン2週連続1位を記録。2012年には日本武道館を始め、全国ツアーへ発展するまでにJUJUのカヴァー人気は高まり、さらに10周年の今年10月には自身初となる、さいたまスーパーアリーナで25,000人のファンを集客した「ジュジュ苑」を成功させた。「ジュジュ苑」では洋楽/邦楽やジャンルの垣根、またオリジナルバージョンの歌い手の性別さえも超えた楽曲が選ばれているのだが、このカヴァー・シリーズ「Request」ではそれがJ-POPの女性曲に絞られているわけだ。

 まず興味深いのは、その選曲である。竹内まりやの「シングル・アゲイン」、NOKKOの「人魚」、中島みゆきの「糸」、LOVE PSYCHEDELICOの「Last Smile」……と、どれもJ-POP史を彩ってきた名曲を中心に、JUJU独特の絶妙な選曲がズラリと並んでいる。

 最大の焦点は、もちろんJUJUがその名曲群にどう向き合っているか、ということになるわけだが……これがじつに素直な、誠実な歌になっているのだ。

 たとえば武部聡志がプロデュースした「ANNIVARSARY」(オリジナルは松任谷由実)は、壮大なオーケストレーションを起用した重厚にして繊細なアレンジも聴きどころなのだが、ヴォーカルがそれに煽られて大げさになったりする瞬間は皆無。むしろ、とても楚々とした声だ。同曲のオリジナルを聴き直すと、ユーミン独特の声を張るような唄い方が心に残るのだが、このJUJUのテイクはぐっと淡いイメージで唄っていて、そこから叙情性が香ってくるような仕上がりになっている。

 もっとわかりやすいのは「あなたのキスを数えましょう」(小柳ゆき)である。このスロー・バラードのヤマは何と言っても感情があふれそうになるサビの部分で、それこそ終わった恋愛でのキスの数を思い出そうとする、涙をガマンしながら前のめりになるような唄い方にあったのだが。しかしJUJUの歌は、そうした湿度を適正にキープした上で感情を声にしているような印象なのである。

 オリジナルの楽曲に込められたパッションを、強烈にではなく、むしろ淡い情感として、ていねいに表現すること。そのために、抑制の効いた歌唱スタイルを実践すること。このことは、当カヴァー・シリーズでは一貫して遵守されている。というのは、第1弾の『Request』(2010年)もMY LITTLE LOVERの「Hello,Again ~昔からある場所~」やELTの「Time goes by」といったJ-POPの名曲をとてもていねいに唄うJUJUの歌が収められている作品だったのだ。ただ、あちらにはSPEEDの「WHITE LOVE」や安室奈美恵の「Don’t wanna cry」、MISIAの「つつみ込むように・・・」、宇多田ヒカルの「First Love」など、原曲のシンガーが10代の時にヒットした楽曲も多く、大人のJUJUがそうした青春の輝きをどう唄うかも聴きどころになっていた。それを思うと今回の第2弾は大人の歌が中心で、しっとりした情感が強い。

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