注目のインディーズバンド・アンドロメルトが語る、佐久間正英の「素材ありき」プロデュース術
BOØWY、THE BLUE HEARTS、JUDY AND MARY……数々の名バンドを手がけた音楽プロデューサー・佐久間正英が、旅立つ前にインディーズバンドをプロデュースしていた。偉大なるプロデューサーが何故、いちインディーズバンドのプロデュースを手掛けることになったのか? その作品を通して、佐久間氏が関わるようになった経緯と、バンドのメンバーから見た貴重なプロデューサーとしての姿を追ってみたい。
佐久間氏が個人的に気に入ったインディーズバンド、アンドロメルト
佐久間氏がプロデュースしたのは、歌もサウンドも個性的な女性ボーカルのオルタナティブロックバンド、アンドロメルトの8月6日リリースのアルバム『子供と動物』。イラストレーター、ヒヂリンゴ・聖のアートワークと、インパクトのある楽曲タイトルの数々も印象的な一枚だ。
一度聴いたら忘れられない吠えるような歌声としっとりとした繊細さを使い分けるボーカル、野太いディストーションと多彩なエフェクトを巧みに操るギター、そこに絡みつくように鍵盤と電子サウンドが音の隙間を駆け巡る。元々は否[i-na]というバンドで自主制作で数枚の音源をリリース、都内を中心に活動していたインディーズバンドである。過去にはX JAPAN hideのインディーズレーベル主宰「LEMONed plant Jelly」などのイベント出演経歴を持ってはいるが、事務所やレーベルにも所属していない彼らは、アマチュアバンドと言ってもいいだろう。もちろん、佐久間氏との繋がりがあったわけではない。MySpaceを通じて色々な人に聴いてもらった結果、返事をくれたのが佐久間氏だったのだ。
「良い音楽ですね」その返事がきっかけだった。しばらくして「プロデュースしてくれませんか?」と駄目元で打診したところ、快く引き受けてくれたという。そこにはコネも大人の力も一切存在しない、純粋に佐久間氏個人がアンドロメルトの楽曲と可能性を見込んで手掛けることになったということである。
プロデューサー像、プレイ指導
レコーディングは、スタジオ選びやエンジニアリングなども佐久間氏主導の下で行なわれた。プロデューサー・佐久間正英の姿、その逸話は多くあれど、実像は中々見えてこない。その仕事における姿勢を、メンバーはこう語る。
「こうしなさいああしなさいというのはなく、私たちの好きにやらせてもらえて。佐久間さんはソファに座ってiPadいじってたり。そこから要所要所で的確な指示を出してくれる。悩んでいたときにはまさに“鶴の一声”(Vo. 青木凛)」
「一回聴いただけで、“そこ、9thあててみて”って。それがばっちりハマるんです(Gt. 林田憲和)」
クリエイターとしての側面が強く、どこかに自分色を出すプロデューサーも少なくないが、佐久間のスタイルはそうではない。アーティストの個性を尊重しつつ、全体像を客観的に捉えて統制を取るような、いわば監督気質なスタイルなのだ。
佐久間氏と言えば、四人囃子、プラスティックスのベーシストであり、氷室京介や黒夢などの作品ではギタリストとしての顔をも持つ。そして、氏が提唱した「逆アングルピッキング(ギター・ベースの弦に対して並行にピックを当てるようにする独自のピッキング)」は、GLAYのJIROを始め、プロ・アマ問わず多くのプレイヤーに影響を与えた。
「特に瞬間的な速度ですね、ピッキングやストロークのスピード。こういう風にピックを当てればこんな音になるんだっていう。弾き方だけでこんなにも音が変わるのかと。アンプやエフェクターのセッティングに関しても“こういう音出したい”というと、瞬時につまみをいじって。ほんの10秒くらいで音を作っちゃうんです(林田)」
「速度に関してはドラムやベース、もちろん歌も。メロディーと言い回しがハマったときのスピード感、それで歌詞も直したり(青木)」
佐久間氏は、プレイヤーの指導者として、または機材テクニシャン、エンジニアとしての側面も大きかったようだ。マイクの立て方ひとつにも妥協せず、ヴィンテージ機材、アンプやエフェクターはもちろん、ドラムなども佐久間氏の所有物を持ち込むという徹底ぶりだった。