初音ミクはどう世界を変えたのか? 柴那典+円堂都司昭+宇野維正が徹底討論

 音楽ジャーナリストの柴那典氏による初の単著『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』が5月15日よりAmazon Kindle版も発売され、各方面で話題を呼んでいる。60年代に世界中で一大ムーブメントを築いた「サマー・オブ・ラブ」を軸に、初音ミクをポップミュージックの歴史に位置付けた本著は、初音ミクファンのみならず、音楽ファンにとっても興味深い内容だった。今回、リアルサウンドでは筆者である柴那典氏と、文芸・音楽評論家の円堂都司昭氏、音楽・映画ジャーナリストの宇野維正氏を招き、本著についてじっくりと語ってもらうとともに、初音ミクが音楽シーンに与えた影響や可能性について考察してもらった。

「ボカロカルチャーに10代特有の熱を感じた」(柴)

ーーまずは、柴さんが本を書くことになったきっかけから訊いてみたいと思います。

柴:僕が運営している「日々の音色とことば:」という個人ブログに初音ミクの話を書いたら、それを読んだ太田出版の林和弘さんから連絡があって、これで一冊書きましょうよと。書いた当初は本にしようという気は全然なかったけれど、ブログには単純にその時興味を持ったいろんなネタを載せておいて、それをきっかけにいろんな繋がりができたらな、とは思っていました。

宇野:ブログから始まったという意味でもネット的な本だよね。

円堂:僕も柴さんのブログは面白くて読んでいたし、本としてまとまるのをすごく楽しみにしていました。ただ、本の中でJPOPや洋楽についても触れられてはいるけれど、ここまで初音ミクに特化した内容になるとは思わなかった。こういう形は意外でしたね。

ーー円堂さんの著書『ソーシャル化する音楽』(2013年。青土社)でも初音ミクについて触れられていますが、取材をベースとした柴さんの著書とは異なる、文化批評的なアプローチですね。

円堂:僕は『ソーシャル化する音楽』を書く10年前に『YMOコンプレックス』(2003年。平凡社)という本を出しています。その時にビートルズのレコーディング風景にまで遡り、テクノロジーと音楽の関係を軸にした文化論を考えました。その本の進化版として、『ソーシャル化する音楽』を書きました。僕の場合は文芸・音楽評論家を名乗っていて、文芸評論的なアプローチというか、文献にあたることを軸とするスタイルです。また、本では音楽史を語ることもしていますが、それ以上に近年の音楽と周辺文化の関係性、たとえば音楽とインターネット、あるいはカラオケ、ゲーム、ケータイ・スマホなどとの関係性を、網目状に浮かび上がらせることに力点をおきました。

ーーそれに対して柴さんの本は、取材を通して事実を掘り起こしていくというスタイルで書かれている。

柴:初音ミクに関しては本にも書いている通り、僕自身がムーブメントに乗り遅れていて、ミクが誕生した2007年に居合わせていないんですよね。そういう意味で圧倒的な情報量の足りなさがあるので、執筆の際はクリプトン社の伊藤博之社長や、開発担当者の佐々木渉氏に証言を取りに行くというスタイルになりました。また、僕は2010年に入ってからボカロの音楽を聴いたり、クリエイターに話を聞いたりするようになったのですが、その時に初期の「みくみくにしてあげる」みたいな、いわばキャラクター文化的な初音ミクとは明らかに違う受け取り方をしている層がいることに気付いたんです。きっかけは米津玄師さんだったと思うんですけど、そこに10代特有の熱をーーいわば僕が00年代にロックバンドを通して感じていた熱と似たものを感じたんですね。今回、この本を書いた後に、まだ10代だった2008年からボカロを聴いていた女の子が「『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』って本があって『変えてねぇよ』って思っていたけど違った。私を変えてくれていた」って言っていたのが印象的で。それって主語は初音ミクだけど、それをロックミュージックに置き換えることもできるのかと。「ロックンロールは世界を変える」みたいな話って、実際、サンボマスターなどのロックミュージシャンもよくそういった発言をするわけで。その意味で同じ構造があったということも、この本で主張したかったところです。

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