実践的な画像編集用AIから生成方法の新技術まで 『SIGGRAPH 2026』の注目論文を振り返る

2026年7月19日から23日にかけて、アメリカ・ロサンゼルスでCGに関する世界最大規模のカンファレンス『SIGGRAPH 2026』が開催された(※1)。同カンファレンスでは57のセッションにおいて369本の技術論文が発表され、そのうち100本近くがAIに関連するものであった。
本稿では、AIが関連するCG技術論文のなかから、画像生成、モーション生成、3Dオブジェクト生成、そして新たな基礎的生成技術といった4つのカテゴリーにおける興味深い研究を紹介したい。
業務上の画像編集に活用できる実践的画像生成AI
写真共有アプリ「SnapChat」を開発するとSnapとアメリカ・カリフォルニア大学マーセド校らの研究チームは、多数の画像生成機能を統合したシステム「Canvas-to-Image」を発表した(※2)。
現在ではありふれた技術である画像生成には、テキストによる画像生成のほかにも、生成する人物画像の姿勢指定や背景の生成といった、さまざまな生成機能が存在する。Canvas-to-Imageは、こうしたさまざまな機能を連携して使えるように統合したシステムである。
同システムを解説した動画を見ると、女性のバストショット(胸から上の写真)と子犬の写真を素材として、姿勢制御や背景合成を実施して、砂浜を背景にした画像を生成する様子がうかがえる。
研究チームは、Canvas-to-Imageの画像生成能力を既存AIと比較する実験も行っている。以下の画像群右側の「Inputs」と画像右横のテキストが入力情報、「Ours」列がCanvas-to-Imageの出力、Googleが開発した画像生成モデル「Nano-Banana」をはじめとするそのほかの列が既存AIの出力である。
画像群上段の入力列を見ると、「ロウソクに照らされたディナー」という説明と画像に対して、Canvas-to-Imageは入力と合致した画像を生成しているが、Nano-Bananaでは左側の女性の胸から下が生成されていないのがわかる。
Googleとイスラエル・ライヒマン大学らの研究チームは、写真を単純化するAIを発表した(※3)。フォトリアルな写真をイラストやマンガ風に変換して単純化する技術は以前からあるものの、そうした技術はフォトリアルな細部を欠落させてしまう問題があった。
今回発表したAIは、写真のフォトリアルな細部を残しつつも、写真内のオブジェクト等を段階的に消去して、単純な構図を浮かび上がらせるものである。
研究チームは、以上のAIの活用事例として以下のような3つのタスクを挙げている。
- 写真内オブジェクトの段階的除去:ユーザーは、余計と思われる写真内オブジェクトを段階的に除去できる。
- ツリー編集:写真を段階的に簡略化する過程で、ユーザーはさまざまなオブジェクトを取捨選択できる「ツリー編集」が可能となる。
- 画像レイヤーの抽出:視覚効果のワークフローでは、背景や近景のような特定のレイヤーを抽出して作業することがある。こうしたレイヤーの抽出を効率よく実行できる。


以上に紹介した2つの画像生成AIは、いずれも業務上の画像編集に活用することを意識したものと言える。
学習していない新規かつ複雑な動作をアニメーション化するモーション生成AI
さまざまなモーション(動作)を生成するAIについては、中国・清華大学らの研究チームが人間の動きをほかのキャラクターにコピーできる「Motion4Motion」を発表した(※4)。
人間の動きをコピーするAIは以前より存在していたが、それらは人間に類似した骨格をもったキャラクターへのコピーを想定していた。それゆえ、例えば人間の動きを二足歩行の宇宙人にコピーできるが、犬にはコピーできなかったのだ。Motion4Motionは、こうした骨格に由来する制約を取り払うことに成功した。
Motion4Motionを活用すると、以下の解説動画と画像に示す通り、人間の歩行動作を4本脚のテーブルにコピーすることが可能となる。このAIを活用すれば、テーブルのような無生物をアニメーション化する作業が容易になるだろう。
ソウル大学校の研究チームは、複数の人間のモーションキャプチャデータを高品質化する「MOCHI(MOtion Enhancement of Collaborative Human-object Interactions:人間とオブジェクト間の協調的相互作用のモーション強化)」を発表した(※5)。
「テーブルを2人の人間で運ぶ」のような人間とオブジェクトの相互作用的モーションは、そうしたモーションデータを採取しても、複雑な情報であるためにノイズが混入するという問題があった。MOCHIは、こうしたノイズの除去を可能とする。
MOCHIの活用事例として、研究チームは以下のような3つのケースを挙げている。
- モーションデータの品質向上:ノイズの混入している複雑なモーションデータからノイズを除去する。
- キーフレーム間の補完:複雑なモーションの特徴を表すポーズを複数入力すると、ポーズの間を補完するアニメーションを生成する。
- モーションバリエーションの生成:例えば「2人の人間が椅子を運ぶ」モーション動画を素材として、さまざまな形状の椅子を運ぶモーションを生成する(以下の画像参照)。
以上に紹介したモーション生成AIに共通するのは、AIが学習していないような新規かつ複雑なモーションを生成できる点であろう。
クリエイターが実際にやりたいタスクを実現する3Dオブジェクト生成AI
3Dオブジェクト生成では、上海科技大学らの研究チームがリアルな3D毛髪画像を生成する「HairGPT」を発表した(※6)。このAIが画期的なのは、「パーマ」や「フロント(前髪周辺)」のようなヘアスタイリストが使う言葉を入力すると、その入力に合致した3D毛髪画像を生成するところにある。
以下の画像左側は、「センター分けで、生え際がはっきり見える、非常に短くウェーブのかかったヘアスタイル。トップにはテクスチャーのあるレイヤーが入り、サイドはフェード加工が施される」というテキスト入力に対する、HairGPT(Ours)と既存AI(HAAR)の出力結果を比較したものである。HairGPTが、入力情報に忠実な毛髪画像を生成しているのがわかるだろう。
HairGPTの活用事例として、2D毛髪画像の生成が挙げられる。もっとも、こうした画像は、3D毛髪画像を微調整することで得られる。この事例は、例えばアニメのキャラクター設定の検討に生かせるだろう。
イスラエル・テルアビブ大学らの研究チームは、3Dオブジェクトの一部を編集できる「Prox-E」を発表した(※7)。テキスト入力から3Dオブジェクトを生成するAIはすでに存在するものの、生成したオブジェクトの一部をテキスト入力によって編集するAIの研究は進んでいなかった。こうした課題を解決したのが、Prox-Eである。
以下の画像は、Prox-Eの編集過程を示している。左側の犬のオブジェクトが編集対象であり、上部の「尻尾を長くして」というテキストが編集指示である。画像中央の2つのオブジェクトは編集中の処理を表し、右側の尻尾が長くなったオブジェクトは編集結果を示している。
Prox-Eでは、編集対象となるオブジェクトが入力されると、それを多数のブロックに分割して認識する。次いで編集指示の内容と合致するブロックを特定後、編集対象となったブロックを変形するという仕組みだ。
以上に紹介した3Dオブジェクト生成AIは、クリエイターが実際にやりたいタスクを実現するために研究開発されたと考えられるだろう。
生物のような挙動によって画像を生成する2つの新技術
以上に紹介したAIは、いずれも具体的なクリエイティブタスクの実行を想定して開発されたものである。こうしたなか、画像生成AIに活用されている基礎技術を刷新する可能性がある研究も発表された。
スイス連邦工科大学ローザンヌ校とGoogle研究員の研究チームは、「NCA(Neural Cellular Automata:ニューラル・セル・オートマタ)」を活用した画像生成AIを発表した(※8)。
既存の画像生成AIの基礎技術のひとつとして、「拡散モデル」が知られている。これはインクが水中で徐々に拡散していくような物理現象に着想を得て、画像を生成する技術である。対してNCAは、細胞の成長のような生物学的現象に着想を得ている。
従来のNCAは、低解像度の画像しか生成できないという弱点があった。今回発表のNCA活用型画像生成AIは、この弱点をある程度克服した。
NCA活用型画像生成AIは、この発表の成果をまとめたプロジェクトページに実装されたデモツールから、その生成動作を確認できる。デモツール右側のキャラクターをクリックすると、左側にそのキャラクターが描画される。その描画過程は、まるで細胞が分裂して画像が生成されるようである。
スイス連邦工科大学ローザンヌ校と韓国の高等教育機関KAISTの研究チームは、NCAの派生技術であるNPA(Neural Particle Automata:ニューラル・パーティクル・オートマタ)を活用した画像生成AIを発表した(※9)。
NCAが細胞の成長する現象に着想を得ているのに対して、NPAは小さい粒子が離散集合する挙動によって、画像生成を実現している。
NPAについても、プロジェクトページにデモツールが実装されている。デモツール右側から生成するキャラクターを選ぶと、左側にそのキャラクターが生成される。デモツールを動かすと、小さい粒子が生きているかのように離散と集合を繰り返すことで、キャラクターが浮かび上がってくる。
現状、NCAもNPAも発展途上にあり、拡散モデルに匹敵する基礎技術になるかどうかは不明である。もしもこの2つの技術を応用した画像生成AIが普及したら、そうしたAIは現状の画像生成AIより生物的な挙動を示すかもしれない。
本稿では、SIGGRAPH 2026で採択された8本のAI関連CG技術論文を紹介した。これらの論文からうかがえるのは、CG技術にAIを活用するのはもはや“当たり前”になったことだ。そして、こうした技術論文が報告する成果の一部は、近い将来、一般ユーザーが使うAIアプリに実装されて、使えて“当たり前”の機能となるだろう。
(※1)SIGGRAPH2026公式サイト
https://s2026.siggraph.org/
(※2)Canvas-to-Image: Compositional Image Generation with Multimodal Controls
https://snap-research.github.io/canvas-to-image/
(※3)Progressive Photorealistic Simplification
https://adirosenthal540.github.io/Progressive_Photorealistic_Simplification/
(※4)Motion Transfer Across Subjects at Inference
https://lhchen.top/Motion4Motion/
(※5)MOCHI: Motion Enhancement of Collaborative Human-object Interactions
https://jiyewise.github.io/projects/MOCHI/
(※6)HairGPT: Strand-as-Language Autoregressive Modeling for Realistic 3D Hairstyle Synthesis
https://haiminluo.github.io/hairgpt/
(※7)Prox-E: Fine-Grained 3D Shape Editing via Primitive-Based Abstractions
https://etaisella.github.io/Prox-E/
(※8)Neural Cellular Automata: From Cells to Pixels
https://cells2pixels.github.io/#growing
(※9)Neural Particle Automata: Learning Self-Organizing Particle Dynamics
https://selforg-npa.github.io/#growing

































