連載「Create with AI」第5回:水野正毅
「従来の技術だけでは到達が難しい映像表現の助けにAIを使う」 VFXスーパーバイザー・水野正毅が語る、AI時代の映像制作

AIの波をどう捉えるかは、日々悩んでいる
ーークリエイティブの現場では、生成AIに対する期待と警戒、それぞれの意見があるかと思います。同業のクリエイター・スタジオの発言を見ていて「これは違うな」と感じる声、あるいは「これは共感する」という声があれば、率直な所感をお聞かせください。
水野:期待と警戒、どちらの意見も一理あると思っています。僕らの会社も、広いビルに引越しをして従来のVFX、CG業務を拡大している最中にこのAIの急成長が起きたので……本来はAIなんてない方が順風満帆で楽しいVFXライフが送れていたのではと思うこともあります。この、あまりにも大きすぎるAIの波をどう捉えるかは、日々悩んでいます。
大前提として、お客様からの強い要望がない限り、我々主導で依頼された制作物にAIは使いません。実際、契約の際にAIによるアウトプットの使用を禁止する条項が盛り込まれていることも多々あります。ただ、いざ相談された時にはあらゆることに対応できるようにしておきたいのと、表現の可能性としては個人的に興味が尽きないので、研究をすることは続けています。
ーー作品において、AIを活用するなかで思い通りにいかなかった、あるいは独自の工夫で乗り越えた経験はありますか? もしあれば、直近で印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
水野:2025年の『WAVE』制作時期は、長いフレームを維持することが難しく、AIのモデル的に81フレームの計算が限界でした。長い映像を分割して生成しながら繋ぎ合わせたり、200フレームの素材をストレッチをかけて81フレームにしてAI生成した後に、200フレームに戻すなど、独自の方法を試していきました。
街を歪ませる座標の変化と、カメラの動きの座標を同時に入力して、手持ちのカメラワークを静止画に与えつつ、同時に街が歪むという表現ができた時は「勝った!!」と思いました。
制作当時はローカル環境でAIモデルを使うことはまだほとんど情報もなかったので、誰も足を踏み入れていない雪原を開拓している感じがとても楽しかったです。
ーーAIを制作に取り入れ始めた当初と現在とで、AIに対するご自身のスタンスや距離感は変わってきましたか。もしあれば、どのような変化なのか教えてください。
水野:まず、AIを使って一本作品を作り切れたことが、本当に大きかったです。InstagramやLinkedInといったSNSから想像以上の反響をいただき、特に海外のアーティストや会社から連絡を頻繁にいただきます。この前も、チリの教育機関からのインタビューを受けました。作品ひとつで地球の裏側の国の人達と繋がれるなんて想像もしていなかったので、びっくりです。
ただ、クリエイターに共通しているのは、みんながAIの使い方を模索している段階だということです。どこかで「今までのやり方を代替するだけの便利な技術でいいのかな?」と思っているのかもしれない。映像に対して僕は少しだけ今までとは違うアプローチでAIを使った。そこに興味を持ってくれたのかもしれません。だから、これからもちょっと違う角度でAIを使うことは、変わらず探究していきたいです。
ーーこれから先、AIを活用してどんな映像や作品を作っていきたいか、現時点で構想されていることや、興味を持たれているテーマがあればお聞かせください。
水野:仮想の鏡を使った企画を考えています。技術的にほぼ実現可能だと思いますし、頭の中では構想ができているのですが、時間がなくて……。自主制作は年に1本が限界ですね。
ーー最後に、ご自身のAIを活用した制作環境について、今後アップデートしていきたい・次に試したいワークフローなどがあれば教えてください。
水野:ComfyUIがローカル環境で快適に動くように、日々開発を進めています。タイミングよくAIやパイプライン開発に強いアーティストが入社してくれたので、新しいコードが発表されてもすぐに実装して試せるのはありがたいです。海外のWebサービスに頼りっきりだと、突然のサービス終了や変更が起きる可能性もあるのは大きなリスクなので、ローカル環境はその点でも強いですね。
現在は主に動画のアップスケールや補修や補正など、そういうプロ視点のニッチな機能を、ローカル環境で強化しています。ただ、それには強力なGPUが必要で、『RTX PRO6000』(NVIDIAのプロ向け高性能GPU)という高価なグラフィックボードでないと動かないAIモデルが多数あるんです。去年からコツコツ買い進めて、現在は4台の『PRO6000』を積んだLinuxマシンを稼働させています。価格高騰もあり、4台合計で1,000万円近い金額になり、震えています(笑)。
ーー試してみたいワークフローについてはいかがでしょうか。
水野:監督やアーティストが意図を持って映像を設計するには、プロンプトだけで映像を作るのではなく、3Dを使って的確に指示するのが最適だと思っています。AIを使って改めて思うのは、当たり前ですが、デザインや演出の基礎が必要だということでした。
これを全部AI任せにするような仕事はあまり意味を感じないので、「楽に安くAIで作って!」みたいな相談は基本お断りしています。まだ誰も見たことがないような、内容的にもハードな挑戦を伴う相談は大歓迎です。
■ 関連リンク
公式サイト:https://www.khaki.tokyo/
Instagram:https://www.instagram.com/mizuno.m.masaki/
X:https://x.com/MIZNOM
短編映像作品『WAVE』:https://youtu.be/43h61QAXjpY?si=V31RZNwQ3Ywk5HR8























