音楽交換サービス「Song Bottle」制作エンジニアに聞く、AI時代における“創作のコア”

「Song Bottle」制作者が語る、AIと創作

 生成AIとクリエイティブ。その可能性をめぐる議論が日々更新されていく時代に、クリエイターたちは何を思い、どう距離を取りながら、創作と向き合っているのか。

 連載「Create with AI」第4回は、エンジニア・m1chie氏にインタビュー。2026年3月に、AIコーディングを活用して公開した音楽交換サービス「Song Bottle」がSNSで大きな反響を呼んだ同氏に、AI時代のものづくりやサービス運用のスタンスについて聞いた。

m1chie

エンジニア。VRChatでのワールド制作を経て、Webサービスの開発にも活動領域を広げる。2026年3月、AIコーディングを活用して個人開発した音楽交換サービス「Song Bottle」を公開。

自分が欲しいサービスがあっという間に組みあがる爽快感

ーー2026年3月に公開された音楽交換サービス「Song Bottle」が、SNSで大きな反響を呼びました。制作の経緯を教えていただけますか?

m1chie:友人がウェブアプリをバイブコーディング(※Vibe Coding。AIに対話で要件を伝えてコードを書かせていく開発スタイル)で作っているのを見て、勉強も兼ねて「自分でもなにか作ってみよう」と思い立ったのがきっかけです。

 元々サーバーサイドの実装にも興味があったのと、当時「AIとWebアプリの組み合わせなら、ひとりでもかなりのものが作れる」という話を同僚から聞いていたので、「Webアプリで自分が欲しいものを作ってみよう!」と作り始めました。

ーーSNSでの反響を受けて、「Song Bottle」の認知が広がる過程で、ご自身が驚かれたことや、手応えとして残ったことはありましたか?

m1chie:アクセスが思った以上の速度で膨らみ、利用していたインフラの無料利用枠があっという間に上限に達したときに、「思っていたよりも大ごとになったぞ……」と感じました。

 ありがたいことにいくつかのWebメディアにも取り上げていただいて、信じられないような気分でした。それと、認知が広がった結果、疎遠になっていた友人から連絡がきて嬉しかったというのもあります(笑)。

ーー「Song Bottle」では、AIコーディングを活用したとお聞きしています。AIを開発に取り入れるようになったきっかけと、当時の心境について教えてください。

m1chie:元々制作自体がAIありきで始まったものです。私自身、本業でもエンジニアをしており、AIによって開発のやり方が大きく変わり始めていることを感じていました。

 実際試してみると、ますます人間の手が要らなくなるんだろうなという恐れもあったのですが、自分が欲しいサービスがあっという間に組みあがっていく爽快感もありましたね。

ーー「Song Bottle」の制作にAIを使う上で特に意識されていたことや、ご自身のなかで大切にしていたこだわりがあれば教えてください。

m1chie:コーディングとフィードバックのサイクルをとにかく回し続けることですね。人間の手で実装を行う場合、どうしても手戻りが発生するような修正は心情的にしにくいですが、バイブコーディングは葛藤なくスクラップ&ビルドができることが魅力だと思います。

 また、実装全体のルールとして、新規機能実装時にはなるべくテストケースを作らせて、それを資産として運用するようにしました。デプロイ前には過去のテストをすべて通すように指示を出して、品質を担保しようと注意しています。

 同じく品質の担保の観点で言えば、UIの見た目や手触りなどは、まだ人の目がないと品質の良いものはできなかったので、そこだけはデプロイ前に必ず確認するようにしていました。

 他方で、想定されるユーザー層は「音楽が好きな人」で、AIに関して否定的な人が多いだろうとも思ったので、絵や音楽など、特にAIによって生成することに賛否の大きいアセット類は極力使用しないようにしました。アイコンだけは、どうしようもなかったのですが……。

ーー今年5月には「海流(あいことば)」機能が追加されるなど、「Song Bottle」は公開後も継続的にアップデートされています。最初に作ったときと、その後のアップデートとで、AIの使い方や任せ方が変わってきている部分はありますか?

m1chie:ソフトウェア自体の開発に関しては、それほど変化はなかったのですが、サービスの運用面でAIを活用するようになりましたね。

 迷惑な投稿などに対する通報内容などを取りまとめて、対策案を出すところまでをAIで代替するようになりました。ユーザーからの問い合わせや通報への対応は、どうしても負の感情を受け取る場面が多く大変なのですが、そのあたりをフィルタリングして有効な対策にまで蒸留できるのはありがたく感じています。

『物語』こそがAI時代の作品の核になる

ーーAIがツール開発など、クリエイティブなシーンを含め、日常生活にも普及しつつある中で、気になっていること、考えさせられたことがあれば、教えてください。

m1chie:あらゆる分野の「初心者」は今後どうなっていくのだろうかと、たまに考えてしまいます。SNSの発達で「生まれたときから世界ランクの中で戦わされる」世界で生きてきた人々が、今度はAIが生み出す膨大なコンテンツとも向き合わされてしまい、「自分もいつか」と思えなくなるのではないかと心配になっています。

 これはクリエイターに限った話でもなく、AIによって開発がどんどんと加速していく中で、エンジニアでも「ちょうどいいタスクを積み上げていって徐々に体系的な知識を身につける」というプロセスを踏みにくくなっている気がしますね。

ーーいまのお話に関連して、AIに対する周囲の反応はさまざまだと思います。ご自身の周りで聞こえてくる声のなかで、しっくりくるもの、あるいは少し違和感を覚えるものがあれば、率直な所感をお聞かせください。

m1chie:周囲のエンジニアは「いかにAIを活かすか」というところにフォーカスしている人が多く、私自身もこのスタンスです。実際にAIを利用することで、かつてないスピードで開発が進んでいますし、「製品」をつくる上では今後手放せないという実感がありますね。

 他方で、クリエイターの方々は「AIを利用していないこと」に価値を見出していますし、これにも共感できます。AI製のコンテンツが大量につくられ、消費される世界だからこそ、制作の過程や制作者自身のキャラクターといった「物語」は「作品」の核になりうるファクターになっていくように思います。

 一方で、「作品も製品も、AIで作られたものも人の手で作られたものも、最終的な成果物だけ見れば同じだ」という考え方には、まだ少し違和感があります。ただ、AIとの共創という分野が発達していく中で、その境界線も今後変わっていくのかもしれません。

ーーAIを制作に取り入れ始めた頃と現在とで、AIに対するご自身のスタンスや距離感は変わってきましたか。また、その中でAIに任せる部分、任せない部分の線引きが見えてきた部分があれば教えてください。

m1chie:当初は、人間が細かくレビューすることで品質を担保しようとしていました。ただ、実装を進めていくにつれ、AIの提案を素直に採用した方が、結果として品質が高くなる場面も多くありました。

 現時点では、UXの快・不快の判断や、最終的な責任を負う部分については、人間が担う必要があると感じています。

ーーこれから先、AIを活用してどんなプロダクトや作品を作っていきたいか、現時点で構想されていることや、興味を持たれているテーマがあればお聞かせください。

m1chie:なんといっても、私自身音楽が好きなので、自分自身の音楽関連の困りごとを解決するようなスモールなアプリを作りたいです。また、創作活動を応援できるようなアプリも作っていきたいですね。

ーー最後にご自身のAIを活用した制作環境について、今後アップデートしていきたい・次に試したいワークフローなどがあれば教えてください。

m1chie:これまでは単純にコーディングをAIに任せることが多かったのですが、品質や安全性をより高める方向の環境構築は、進めていきたいですね。

 個人的な興味としては、Open DesignやClaude Design(※Anthropicが提供する、デザイン作業をAIに支援させるためのツール群)などデザイン系のツールに触れてみたいです。

 また、開発速度が上がるにつれて、人間の認知能力がボトルネックになりつつあると感じているので、人間側の認知負荷を下げるような環境づくりにも取り組んでいきたいです。

■ 関連リンク

X:https://x.com/m1chie_0408
Song Bottle 公式:https://song-bottle.app

【告知】Song Bottle
Web:https://song-bottle.app
iOS:https://apps.apple.com/app/song-bottle/id6762174423
Android:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.songbottle.songbottle

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