連載「Create with AI」第5回:水野正毅
「従来の技術だけでは到達が難しい映像表現の助けにAIを使う」 VFXスーパーバイザー・水野正毅が語る、AI時代の映像制作

生成AIとクリエイティブ。その可能性をめぐる議論が日々更新されていく時代に、クリエイターたちは何を思い、どう距離を取りながら、創作と向き合っているのか。
連載「Create with AI」第5回は、Khaki Inc. 代表取締役/VFXスーパーバイザー・水野正毅氏にインタビュー。CGとAIを融合させた実験的短編映像作品『WAVE』をはじめ、商業MVや映画など幅広い領域でVFXを手がける同氏に、生成AIを制作に取り入れたきっかけや、創作で大切にしているスタンスについて聞いた。
■プロフィール
水野 正毅(みずの・まさき)Khaki Inc. 代表取締役/VFXスーパーバイザー。岐阜県出身。IMAGICA永田町スタジオにて映像編集を軸にキャリアを始動。独立後、2012年にKhakiを設立。VFXを中核に表現の幅を広げ、2016年に法人化。2025年、拠点を虎ノ門へ。VFX・CG・映像演出を主な活動領域とし、現在もなお映像表現の最前線でプレイヤーとして活動し続けている。
「推論」という今までとは異次元の技術の登場に衝撃を受けた
ーー2025年にCGとAIを融合させた実験的な短編映像作品『WAVE』を発表されましたが、改めて、ご自身の制作にAIを本格的に取り入れるようになったきっかけと、当時の心境について教えてください。
水野:2023年に「NeRF」(Neural Radiance Fields)という新しい技術に触れたことが、すべてのきっかけでした。複数の写真や映像から空間そのものを再構築する技術で、見た目としては現在普及している「3D Gaussian Splatting」(NeRFの後継として注目される、点群ベースの3D表現技術)にも近いものです。ただ、ざっくりいうとNeRFは撮影していない範囲でも推論して空間を埋めてくれるんです。
NeRFを初めて見たとき、「え!? ここ撮影してないのに、なんで絵が埋まってるの? めっちゃ空間が表現できてる! すご! かっこいい!」と驚きました。
今までPCから映像を作るには「レンダリング」するしかないと思っていたので、「推論」という今までとは異次元の技術の登場は衝撃でした。まだコンシューマーのソフトには実装されていない技術を、いち早くオープンソースとして自分で試せるという体験ができたのも良かったです。この日から、AIに対して強い興味を持つようになりました。
ーー『WAVE』では、AIをどのように活用して制作されたのでしょうか? 可能な範囲で制作プロセスもお聞かせください。
水野:今回使った手法は、ローカル環境のComfyUI(オープンソースの画像・動画生成AI用ノードベースインターフェース)上でWan2.1のATI(Any Trajectory Instruction。中国Alibabaが公開している動画生成AIモデルWan2.1の機能で、軌跡指示で動きを制御できる)モデルを使って作成しました。
簡単にいうと、「テーブルにリンゴが置いてある画像」があるとして、そのリンゴを右に移動したい分の座標移動の数値を入れると、リンゴが右に転がっていく動画が作成できる、というものです。これを発展させて、リンゴが右に移動する数値と左に移動する数値を同時に入力すると、引き裂かれたり、伸びたり、まったく予想のつかない映像になるのを発見しました。
座標軸をいちいち手入力でやっていたら希望の動きが作れないので、3Dソフトの『Blender』(オープンソースの3DCGソフト)で理想の動きのアニメーションを作って、それをComfyUI用に変換するツールを知り合いのアーティストに作ってもらいました。そうすることで、今まで見たことがないような複雑で立体的な歪みを表現することができたんです。
最初に出力された歪んだ街を見た時には、「やば!!」と大声を上げるほどびっくりしました。長年VFXをやってきたので、エフェクトを使った映像に驚くことは随分と減ってきたのですが、まだまだ新しいことはあるんだと希望を持てた瞬間でもありました。
ーーVFXとAIを組み合わせるうえで特に意識されていることや、ご自身のなかで大切にしているこだわりがあれば教えてください。
水野:映像の演出とは、「いかに監督の意図を正しいベクトルで観客に届けるか」だと思っています。カメラの動き、衣装、照明、演者の動き、すべて狙うべき目標があって、その大量のエネルギーを損なうことなく、正しい目標に向くようにベクトルを調整していくのが演出の仕事だと僕は思っています。
ところが、演出を考えず単にプロンプトを入力してAIに出力させるだけだと、360度全方位に向いたベクトルの映像が出力されます。言い換えれば、みんながちょっとだけ好きそうな“最大公約数の映像”とも言えるかもしれません。それはすごい力を持った映像ではあるのですが、ベクトルがとっ散らかっていると、何かが違う、心に響かないものが生まれてしまうんです。見た目はすごいのですが……。
そもそも、演出の要件である「ベクトルを束ねて観客に狙った意図を届ける」という行為は本当に難しくて、アート的な素養が必要なのと、絶対的に時間がかかります。なので、CGやAIに関係なくベクトルを束ねて、映像が正しく機能し演出意図がしっかり伝わることを大事にしています。
ーーいまのお話に関連して、AIを活用する一方でご自身の手で必ず担う部分や、「AIには任せない」と決めている領域があれば教えてください。
水野:繰り返しになってしまいますが、やはり「演出」の部分です。カメラの動き、アニメーションのタイミング、ライティングの変化など、一口に演出といっても多岐に渡ります。そういった一つひとつに人間が「演出」をすることにより、そこに意味が発生し、価値になります。
僕個人としては、AIを使う時は、従来の技術だけでは到達が難しい映像表現の助けに使うのが丁度いいのかなと思っています。





















