『Baby Steps』を通じて知る、ベネット・フォディの“現在地” インディーゲームの20年が繋いだもの

ベネット・フォディの“現在地”

変わるもの、変わらないもの

 『Baby Steps』は2026年のIGFで最多部門ノミネートをもって報いられた。『Getting Over It』でNuovo Awardを獲ってから8年、『GIRP』で初めてノミネーションを受けてから14年。ついに彼はTIGS時代には仰ぎ見るばかりだった“インディーゲーム”の頂点に迫った……とおもわれたが、けっきょく受賞したのは音響賞のみで、最高賞は『Titanium Court』にゆずることとなった。

 それでもフォディの“敗北”は彼のゲーム同様、豊かな景色に彩られている。『Titanium Court』の作者は、だれあろう、かつての彼の教え子兼共同開発者のAPトムソンだ。ちなみにトムソンはこの前年にジェニー・ジャオ・シアとの『Consume Me』でもIGF最高賞を獲っており、史上初の二年連続大賞を成し遂げたことになる。

 2025年とその前後の年は、フォディとその仲間たちの年だった。まずTIGS組ではデレク・ユウがTIGS的マインドに満ちたゲームアンソロジー『UFO50』を送り出し、エドマンド・マクミランが『Mewgenics』で何度目かの爆発的ヒットを飛ばす。NYU組では上述のAPトムソンとジェニー・ジャオ・シアに加え、首魁たるフランク・ランツがまたしても先鋭的な批評性を有した『Q-UP!』を世に問い、孫弟子フリアン・コルデロは『despelote』で主要ゲーム賞のひとつであるBAFTAの「Game Beyond Entertainment」部門賞を獲得、“クッジーロ世代”を代表するひとりケニー・サンは『Ball x Pit』でミリオンセラーを記録した。

 これまでのゲーム開発者としてのフォディのキャリアは、第一期(TIGS期)・第二期(NYU期)・第三期の三つに大別できるだろう。2007年に『Too Many Ninjas』でデビュー後、学者生活のかたわらTIGSで活動し、『QWOP』で思いがけない名声を博した第一期(2007〜2012)。NYUに講師として移籍して本格的にゲーム業界に身を乗り出し『Getting Over It with Bennett Foddy』で初めて賞を得た第二期(2013〜2021)。そして、大学を離れて専業のゲーム開発者となり『Baby Steps』を送り出した第三期(2022〜)。

 『Too Many Ninjas』をTIGSフォーラムに投稿した2007年から、20年近く経っている。あれからなにもかもが変わっていた。いまや、押しも押されもしないベテラン開発者だ。業界の有名人だ。さまよえるアウトサイダーから成熟した大人へ。これまで見てきた彼の経てきた旅路は、そのまま彼の愛した小規模開発インディーゲームコミュニティの道程でもある。

 だが、かつてあれほどまでに情熱を燃やした80年代的なるゲームへの執着も冷めた。大学からも離れた。すべては変転しつづけていく。

 だが、変わらないものもある。ゲームを作る人間がいて、それを遊ぶ人間もまた存在するということだ。そうした人間たちを発見するために、フォディはソフトウェアとしての心地よさに従わない「不服従」なゲームを作り続けていくのだろう。

 2026年3月、彼はかつての職場であるNYUの〈ゲームセンター〉で講演を行った

 講演タイトルは「なぜ、わたしはなぜこれを作ったのか?(Why Did I Make This?)」。二十年近くにわたるゲーム開発のキャリアについてまわってきたこの問いを、彼はこのように総括する。

「ゲームは、自分の心の働きについて覗く窓を与えてくれます。自分がどう学び、どう学んだことを捨て、プレッシャーにどう対処し、何に惹かれ、何を拒むのか。そうした問いへは、思いもよらない答えにいたることもあります。ときにわたしたちは、自分を苛立たせたり、うんざりさせたり、混乱させたりするものを好きなのだと知ったりもする。

…(中略)…

 他のゲームデザイナーやジャーナリスト、配信者、そしてプレイヤーたち(ときにはわたしを憎むような、ね)との対話の中で、これらのテーマが私の意識の前面に出てくるようになりました。あるのは、つねに対話です。いつだって、ひとびととの対話なのです。だから、わたしが次になにを考えていくのかも、『Baby Steps』に対するひとびとの反応によって決まっていくのでしょう」

 彼のゲームはいつも難しい。だが、その困難を乗り越えるだけの価値はある。越えた先に、彼がいるとわかっているから。彼がわたしたちの声を聴いているように、わたしたちもまた彼の声を聴いているのだ。

 ベネット・フォディ。彼は、山頂へといたる道でいつもわたしたちを待っている。わたしたちと共に歩んでくれる。

【脚注】

*1……そもそも、ウォーキングシミュレーターというジャンル名は批判者からの「『歩く』だけでゲームじゃない」という侮蔑に由来する。

*2……いっぽうで、ゲーム中でたびたびネイトにお節介を焼こうとするジムという人物についてもフォディは「男が、男としての優位性を誇示する」ための援助として批判的な目を向ける

*3……ノベルゲームは海外において〈真のゲーム〉的でないとみなされがちだったが、そのノベルゲームと美少女ゲームから派生した系統のソシャゲが一定の勢力を持つ日本では比較的〈真のゲーム〉至上主義的な傾向は比較的薄いようにおもわれる(参考

*4……実際、ソーシャル的側面が形骸化した昨今では、日本国内でも「ライブサービス(運営)型ゲーム」という呼称が広まりつつあるようにおもわれる。

*5……ちなみに山頂への到達も実際に可能ではあるが、これまた皮肉の効いたオチがついている。

*6……もうひとつ、忘れてはならない要素がある。当時のスレで話題になったのはイメージ画像の男性の大きなお尻だ。他人から指摘されて自分の描いたキャラのお尻の大きさに初めてきづいたフォディはこういった。「タイトルは『ケツデカ男の逆襲(Revenge of the BIG-ASSED MAN)』にしなきゃかもね!」。

【主要参考文献(全7回分)】

・Donovan, Tristan. 2010. “Replay: The History of Video Games.” Yellow Ant.

・Juul, Jesper. 2019. “Handmade Pixels:Independent Video Games and the Quest for Authenticity.” The MIT Press.

・Saltar, Anastasia. Murray, John. 2014. “Flash: Building the Interactive Web.” The MIT Press.

・Latimore, “BlueMaxima,”Ben. 2023. “Flashpoint: A Tribute to Web Games.” 

・Yu, Derek. 2016. “Spelunky.” Boss Fight Books.

・Suvilay, Bounthavy. 2019. “Indie Games.” ABLAZE.

・Lantz, Frank. 2023. “The Beauty of Games.” The MIT Press.

・Consalvo, Mia. Paul, Christopher, A. “Real Games: What's Legitimate and What's Not in Contemporary Videogames.” The MIT Press

・Polygon. 2025. “QWOP creator Bennett Foddy talks BABY STEPS and what it means to make punishing games.” https://www.youtube.com/watch?v=15OqYQ6Nf-A

My Perfect Console. 2025. “Bennett Foddy, philosopher, game designer (QWOP, GIRP, Getting Over It).” 

・Eggplant. 2025. “The Secret Lives of Games 152: Walking Over It with Gabe Cuzzillo and Bennett Foddy (Baby Steps)”

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