乃木坂46・井上和が語る“ボカロ曲を歌う悦び” 「『ボカロの魅力』を少しでも広く見せられたら」

乃木坂46井上和、ボカロ曲を歌う悦び

 2025年3月に行われた音楽授賞式『MTV VMAJ』にて、乃木坂46の井上和が稲葉曇の「リレイアウター」を歌唱し、大きな話題となってから1年。今年はMTVとThe VOCALOID Collectionの特別企画として『Nagi Inoue (Nogizaka46) meets VOCALOID MUSIC -Special Live & Document-』が4月29日にMTVで放送され、歌唱動画がニコニコ動画にて公開される。

 井上が今回披露するのは、ぬゆりの「命ばっかり」とpiccoの「Melty Magic」。前回の稲葉曇楽曲とテイストは大きく異なるうえ、振り幅の大きな2曲となったが、実はこれらは井上がチョイスした楽曲なのだという。

 乃木坂46の中でも屈指のボカロ好きである井上は、なぜこの2曲を選んだのか。昨年の『MTV VMAJ』のステージを経ての反響や変化したボカロ曲との向き合い方、ソロで歌うことの悦びなどについて、映像の撮影現場に立ち会ったうえで、たっぷりと話を聞いた。

アイドルの視点から語る”ボカロ曲とアイドル曲の共通点”

乃木坂46・井上和

ーー昨年3月、井上さんはKアリーナ横浜で行われた『MTV VMAJ』で稲葉曇さんの「リレイアウター」を歌唱しました。ステージを終えて、周囲の反響はいかがでしたか?

井上:本当にたくさんの方から「良かったよ」という温かい声をいただきました。乃木坂46のメンバーも本番を見てくれていたみたいで、わざわざ「見たよ!」と連絡をくれたりして。すごく嬉しかったです。

 あのような貴重な場でパフォーマンスをさせていただいてから約1年経ちましたが、今でも「『リレイアウター』の歌唱がきっかけで和ちゃんのファンになりました」と言ってくださる方もいて、ファンの方々を含め多くの方に見ていただけたのかなと、勝手ながら思っています。

ーー約2万人の前でのソロ歌唱は、グループの時とは違ったプレッシャーがあったのではないでしょうか。

井上:グループでステージに立っている時は仲間がいて「メンバー全員で会場の人たちを楽しませよう!」という気持ちが強いんですが、いざ一人でステージに立つと、正直怖さはありました。でも振り返ってみると、私のペンライトカラーやお客さんの表情もよく見えて、会場は大きくても「実は一対一なんだな」と改めて実感し、勉強にもなったステージでしたね。

ーーそして、今年は特別番組として『Nagi Inoue (Nogizaka46) meets VOCALOID MUSIC -Special Live & Document-』が放送されることなりました。一人のアーティストとしてボカロ楽曲と対峙する企画ですが、オファーが届いた際の率直な心境を教えてください。

井上:すごく嬉しかったです。最初に歌唱候補曲のリストをいただいたんですが、私の好きな曲ばかりで、本当に興奮しました。ボカロの長い歴史の中で色々な世代や時代があるんですけど、それでも私にとって「ドンピシャだな」と思う楽曲たちが本当に多くて。

ーーたくさんある候補曲の中から、今回の楽曲はどのように選ばれたのでしょうか?

井上:すごく迷ったんですけど、最終的にはスパッと直感で「これかな」と思ったものに決めました。「リレイアウター」は歌唱力も表現力も自分の持っているもの以上の力が必要な楽曲で、切羽詰まりながらも大好きなその楽曲を汚さないように大切に練習していた記憶があります。そうやって一生懸命に頑張ったからこそ、本番ですごく評価していただけたんじゃないかなという気持ちもありました。

 だから今回の2曲も、自分にとってはどちらも大きな挑戦であり、明確な課題を持って頑張れる曲を選んだつもりです。

井上和(撮影=稲垣恵美)

ーー今回歌唱されたのは、ぬゆりさんの「命ばっかり」とpiccoさんの「Melty Magic」です。生と死が交錯する重厚なバラードと、キュートで中毒性のある電脳ポップという、ある意味で正反対のテイストを持つ2曲ですね。

井上:ボカロ曲って本当に色々なジャンルの楽曲があるじゃないですか。ボカロが持つ全ての魅力を網羅することって、この2曲だけでは絶対にできないことではあるんですけど、それでもやっぱり「ボカロの魅力」を少しでも広く見せられたらいいなという思いがありました。だからこそ、あえてテイストの全く違う2曲を選んだんです。

ーーそれぞれの楽曲のどのような部分に魅力を感じましたか?

井上:「命ばっかり」のような少し重ためな歌詞の意味も含めたクールな楽曲の魅力と、あとはやっぱりリズミカルでポップなところもボカロの良いところだと思うので、電子音特有の可愛らしさもある「Melty Magic」を選ばせていただきました。

ーー「命ばっかり」は、以前『乃木坂スター誕生!』で「やりたいボカロ曲リスト」にも入れていましたよね。

井上:そうなんです! 私も候補曲にこの曲があった時、心の中でちょっとガッツポーズをしました(笑)。ずっと歌いたかった曲なので、繋がった感覚があってすごく嬉しかったです。

井上和(撮影=稲垣恵美)

ーーアイドルとボカロは、音楽ジャンルの名前ではないという共通点がありますよね。だから一つのカテゴリの中にさまざまなジャンルの音楽が内包されている。そういった共通点を、ボカロ好きのアイドルとして感じることはありますか?

井上:同じボーカロイドというものを使った楽曲でも、アプローチの仕方が本当に全然違いますよね。乃木坂46の楽曲も、パブリックイメージらしい清楚な楽曲とは別に、カップリング曲なども含めると本当にもっと色々な種類の楽曲があるんです。

 私は一人のアイドル、一人の乃木坂46のメンバーとして、ファンの皆様には「その全てを愛してほしい」と思ってしまう部分があって。それと同じように、ボカロに対しても「その様々なジャンルの全てを愛したい」みたいな気持ちにすごくなるんです。だからこそ、ボーカロイドという文化そのものに深い愛を持って、共に生きていけているのかなと思います。

「ボーカロイドへのリスペクト」があるからこそ生まれた“課題”

井上和(撮影=稲垣恵美)

ーー今回「命ばっかり」を歌ううえで、ご自身に課した課題やアプローチについて教えてください。

井上:大前提として、ボーカロイド楽曲って「ボーカロイドが歌うからこその魅力がある楽曲」だと思っています。その上で「命ばっかり」は歌詞が重ためで自問自答のストーリーなんですけど、そういう複雑な楽曲をボーカロイドが淡々と歌うからこその良さって確実にあると思っていて。

【命ばっかり】Nagi Inoue (Nogizaka46) meets VOCALOID MUSIC Special LIVE
https://www.nicovideo.jp/watch/sm46216524

ーーその良さに対して「人が歌う」となった時にどうアプローチすべきか悩まれたのですね。

井上:ボーカロイドへのリスペクトを持ってあえて機械的に歌うべきなのか、それとも深い意味が詰まった歌詞だからこそ、感情の生々しさを出したらいいのか。その構成やバランスを考えるのがすごく大きな課題でした。あと、単純にとってもキーが高いんですよ。でもやっぱり歌わせていただくからには、原曲キーで歌いたかったという強い気持ちもありました。

ーー人間が簡単に出せる音域ではない中で、原曲キーで人が歌う意味を持たせるのは大変だったのではないでしょうか。

井上:本当に高いですからね(笑)。だからこそ、原曲キーで歌った時の人間味や魅力のようなものを絶対に出したいと思っていて。そこが技術的にも感情的にも課題でしたね。

井上和(撮影=稲垣恵美)

ーー「Melty Magic」についてはいかがでしょう?

井上:「Melty Magic」はすごく可愛らしい楽曲で、初音ミクちゃん特有の無機質さと可愛さが混ざった感じがすごく好きな楽曲なんです。私の中では、ボカロ曲の中でも「歌とインストの間」のような存在というか。電子音だからこその可愛さが絶対にあるなと思っていました。

ーー楽曲とボーカルが溶け込んでいるからこそ、難しい部分があったと。

井上:最初は「これは別に人が歌わなくてもいいんじゃない?」と思ったくらいです。でも、あえてそういう楽曲を選ぶこと自体が今の自分にとっては大きな課題かなって。楽曲が持つ圧倒的な可愛さに負けないような、可愛らしい歌唱をするのがすごく難しかったです。

【Melty Magic】Nagi Inoue (Nogizaka46) meets VOCALOID MUSIC Special LIVE
https://www.nicovideo.jp/watch/sm46216724

ーーセットや演出も特殊なものでしたが、実際にカメラの前でパフォーマンスをして、事前に準備した表現に変化はありましたか?

井上:いざカメラの前に立つと、それまでの想定と違った部分はありました。「命ばっかり」に関しては、これだけ色々なところから撮られていたら、どこから見ても感情が分かるパフォーマンスにしなきゃなと強く思いましたね。

井上和(撮影=稲垣恵美)

ーー「Melty Magic」の方は現場でどのように変わっていったのでしょうか?

井上:「Melty Magic」の方は、私の中でミクちゃんのイメージが強すぎて、最初はボカロリスペクトな感じでイメージを作っていたんです。でもいざカメラの前に立ってみると、「これは機械的な感じにするよりも、もっと動いてアイドルっぽく表現した方が映えるな」と気づきました。周りのスタッフさんたちのおかげで、より強い表現が見つかっていきましたね。

ーー「Melty Magic」では急遽振り付けを入れたそうですが、その裏話を教えてください。

井上:最初は本当に軽く動く程度でお話をしていたんです。でも、この曲って長めの歌唱がないパートが出てくるので、「これは多分踊らないと間が持たないぞ」と(笑)。それで急遽振り付け師の方にお願いをしました。

 振り付けは私がグループで「猫」のイメージを持たれることが多いので、それも踏まえて猫のポーズを入れてくださったりして。すごく愛のある振りを作っていただきました。ズームしていったり回っていったりするカメラワークもあって、面白い映像になりそうです。

井上和(撮影=稲垣恵美)

ーー正反対に見えるこの2曲ですが、パフォーマンス上で意識した共通点があれば教えてください。

井上:どちらの曲も1番と2番で言葉の言い回しやニュアンス、伝えたいことが微妙に変わっていくんです。似たような繰り返しの中で少しずつ変化がある。やっぱり曲の中で進んでいくストーリーがあるので、私自身も歌う中でその1番と2番の違いをしっかり出せるように意識していました。

「KAITOと同じ誕生日」の乃木坂46・井上和が最近聴いているボカロ曲とは?

ーーちなみに、最近チェックしてハマっているボカロPさんや楽曲はありますか?

井上:実は乃木坂46に加入してからは、最近のボカロ曲はあまり聴けていなかったんです。でも『MTV VMAJ』以降、またボカロをよく聴くようになりました。直近で言うと、KAITOの20周年を記念したアニバーサリーソングで、せきこみごはんさんが書き下ろした「青炎」という楽曲が大好きです。実は私、KAITOと同じ誕生日(2月17日)で親近感があるんですよ。

ーーなんと! しかもKAITOと1歳差ですね(笑)。他にもよく聴いている楽曲は?

井上:遼遼さんをよく聴いています。「あなたの聲になれたなら」や「パーフェクトブルー」も好きですが、私の大好きなイラストレーターであるこむぎこ2000さんも参加している「ジャイアントキリング」も良いですよね。

ーー昨年は『マイナビ 閃光ライオット2025 produced by SCHOOL OF LOCK!』の応援アンバサダーも務められました。同施策にもボーカロイド部門ができましたが、若手ボカロPの勢いはどうでしたか?

井上:世代が違うとまた新たな表現が生まれてくるのかと、本当に驚きました。応募楽曲でも、すごく機械チックでありながらかっこいい曲があって「ボカロってここまで行けるんだ!」と感動しました。

ーー技術の進化も大きいですよね。最近のボカロ曲のトレンドや、ご自身の好みの変化などはありますか?

井上:最近は、ガラス細工のような繊細な世界観の曲が多いような気がします。技術自体がすごく上がっているからこそ繊細な表現ができる楽曲が増えているのかなと。あとは可不ちゃんとか、ボーカロイドの域をどんどん超えていっているプロジェクトもすごいなと思いながら見ています。

ーー今後も一人のアーティストとして、ソロで歌う機会が増えていくと良いなと思うのですが、ご自身としてはどのような思いをお持ちですか?

井上:乃木坂46の楽曲の中でソロの歌割りがあったりもしますが、今回のようにグループを離れて一人で歌うことはなかなかないので、このような貴重な機会をいただけることは本当にありがたいことだと思っています。

井上和(撮影=稲垣恵美)

ーー最後に、今後の歌唱に対する意気込みをお聞かせください。

井上:私自身、歌うのが好きですし、これからも自分の歌を届けていきたいという思いがあります。そして何より、ファンの方々が喜んでくださるので、それが一番「歌い続けたいな」と思う理由ですね。そう考えると今回は、私も楽しんで歌うことができましたし、ファンの方々にも喜んでいただけるのかなと思うので、全員が得しているんじゃないでしょうか(笑)。

■歌唱動画情報
【命ばっかり】Nagi Inoue (Nogizaka46) meets VOCALOID MUSIC Special LIVE
https://www.nicovideo.jp/watch/sm46216524

【Melty Magic】Nagi Inoue (Nogizaka46) meets VOCALOID MUSIC Special LIVE
https://www.nicovideo.jp/watch/sm46216724

乃木坂46・井上和『ボカコレ』特別企画での「命ばっかり」「Melty Magic」歌唱映像が4月29日に公開 本人コメントも到着

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