新しい技術に必要な法律・ルール作りの考え方とは? 知財の専門家&弁護士が「都市とメタバースの権利」の現状から語り合う

 KDDI、東急、みずほリサーチ&テクノロジーズ、渋谷未来デザインで組成している「バーチャルシティコンソーシアム」が現在、注目を集めている。都市連動型メタバースの利活用に向けた 「バーチャルシティガイドライン」を策定するために始動したプロジェクトで、産学連携の象徴的な取り組みだ。

 メタバース関連のルールの議論を一歩前に進めた「バーチャルシティコンソーシアム」についての特集記事の第二弾に登場してもらったのは、ともに「バーチャルシティコンソーシアム」に参画するSAKURA法律事務所の弁護士・道下剣志郎氏と、国際大学GLOCOM教授であり、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの運営母体であるNPO法人コモンスフィアの理事長を務める渡辺智暁氏だ。

 今回の対談は“都市とメタバースの権利”をテーマに、先行事例やそれぞれの立場からみたメタバースと現実世界のなかでの権利やルールについての話、二人が関わった「バーチャル渋谷」や「バーチャルシティコンソーシアム」での活動について、じっくりと語ってもらった。(編集部)

クリエイティブ・コモンズ関係者の視点から見た、メタバースの課題

渡辺智暁氏(慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科特任准教授)、道下剣志郎氏(SAKURA法律事務所)

――まず最初に、お二人がこれまでメタバースの権利についてどんな取り組みをされてきたのか、改めて教えてください。

渡辺:私はクリエイティブ・コモンズに関わっていたことから、メタバースを含むクリエイターエコノミーの世界での知財の扱われ方に関心があり、研究をしています。

 特にメタバースは、アバターの制作者と利用者は別々で、利用者は複数のアセットを組み合わせて利用します。利用者はカスタマイズすることもある。同じアバターを複数のワールドで利用することもある程度想定されている。これは著作権法的に見ると非常に複雑で……だけどそのぶん面白い。それゆえに、権利処理や制度作りをしないと大変なことになるはずで、どうするべきかは大いに関心があったんです。

 また、オンラインプラットフォームであるメタバースの、運営に関する諸課題への関心もあります。2000年代前半に、ネット上でのプライバシー侵害、名誉毀損、著作権侵害といった問題が注目されましたが、メタバースでも同じような問題が起きるはずです。

 しかし、従来通りにはいかないはずです。メタバースではアバターが身体性を帯びていることもあり、アカウント名やアイコン画像よりも自分のアイデンティティになりやすいものと考えられます。

 もしそうならば、それに対する権利はどのくらい認められるべきか、名誉毀損やプライバシー侵害などは「リアルに結びつかなければ違法ではない」という現在の慣例通りに扱っていいのか、肖像権も不問に付すのか――ユーザー感情とも照らし合わせていくと、最適解は自明ではないように思います。ここにオフライン世界と同様の規律が必要か、検討の余地があるでしょう。そういったことに関心があります。

 また、バーチャルシティガイドラインの議論に参加してからは、オフラインに存在するものをそっくりそのままオンラインで再現してしまった事例にも関心を持ち始めました。楽しい取り組みですが、第三者が勝手にやっていいものか、ちょっとためらうような例もあります。法律的には問題はなくとも、「これはいかがなものか」と思うようなものです。

 たくさんの人が参加するプラットフォームにおいて、トラブルを未然に抑止するならば、「法律的に認められているものはOK」以上に厳しくしたい運営も出てくるはずです。すると、コンテンツモデレーションをどうするべきか、といった問題も生じてきます。

 これまでのプラットフォームを振り返ってみても、法律違反以外は許す姿勢から、自由な言論や、エッジの利いた表現が生まれ、面白い文化が芽生えてきます。しかし、万人がネットにアクセスするようになると、「これは有害ではないか」といった議論はどうしても生まれます。やりたい放題な場、お行儀のよい場――どちらとも共存可能かどうか、といったことにも興味がありますね。

 これらのテーマにおいて、「最適解はなにか」は悩ましい問題でもあります。しかし、簡単に解ける問題は研究のしがいはありません。答えがないぞ、簡単に見つからないぞ、と思えるところが、僕がメタバースに関して非常に強い関心を持つ理由ですね。

「実務は法律よりも早い」――弁護士が体感したメタバースをめぐる動向

道下:私は2010年代後半からテクノロジーにすごく興味を持ち、法律家としても、一ユーザーとしても取り扱ってきたことが、この分野に関与するきっかけになりました。メタバースに対しては、Web3領域としてブロックチェーン技術とNFTが先行しつつ、その後にメタバース世論を巻き込んでいったものと認識しています。VR・ARの方が先に流行っていたはずですけどね。

 バーチャルシティコンソーシアムでは2020年ごろから、ガイドラインの執筆や、川本さん(KDDI株式会社 事業創造本部 LXビジネス推進部 エキスパートの川本大功氏)のサポートを担当していました。当時は、メタバースを作る事業者、メタバース内に出店したい事業者、メタバース内広告に関心を持つ事業者など、様々な方面からご相談をいただいていました。

 「先生は最新テクノロジーに詳しいからメタバースもわかるんじゃない?」と言われたりしましたが、「メタバースはわかりますけど、法制度なんてまだ何もないですよ」と、よくお話ししていたのですが、そんな矢先にバーチャルシティコンソーシアムからお声掛けをいただきました。

 当時、弁護士として実感したのは「法律よりも実務の方が進行スピードが圧倒的に早い」ですね。基本的には、法律より先に、立法の基礎となる事実が先に出てきます。インターネットができる前に、プロバイダー責任制限法ができるわけないですからね。ガイドラインなどに携わる中で、それを改めて実感していました。

 今でも、メタバースを扱っている事業者の顧問を務めたり、アドバイスをさせていただいたり、セミナーや社内講師などもお引き受けしています。内閣府の知的財産戦略推進事務局にも有識者として参加しており、昨年は意匠法の改正について特許庁と連携しつつ、現場から国の政策に関していろいろとアドバイスをさせていただきました。

 とはいえ、これからもやっぱり実務の方が早く、いろいろ進んでいくと思いますので、様々な情報を共有をし、健全なルール作りに役立てていければと思い活動しています。

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