『空の軌跡 the 1st』は忘れられない旅になる 完成度の高い王道ストーリーRPGを堪能

ゲームシナリオの深層 第4回
良質なシナリオを持つゲームを楽しみ、プレイングのあいだに隠された真相を読み解く連載企画「ゲームシナリオの深層」。第4回は『空の軌跡 the 1st』を取り上げる。
※本稿には『空の軌跡 the 1st』のネタバレを含むため、未プレイの方はご注意いただきたい。
『空の軌跡 the 1st』は、2004年に発売した『英雄伝説 空の軌跡FC』のリメイク作だ。グラフィックや戦闘スタイルを一新し、現代のゲーマーに向けた多くの改良がなされている。
筆者は初プレイだったが、王道ながら完成度の高いシナリオに感動した。魔物が登場する中世ファンタジーの世界観でありながら、基本的には国や組織同士の争いがメインであり、主人公ふたりの恋物語も絡んでくるなど、古き良きライトノベル的な味わいがある作品だった。
舞台はエレボニア帝国とカルバード共和国という2つの大国に挟まれた小国・リベール王国。百日戦役という戦乱を奇しくも退け、束の間の平和を謳歌している時代である。
主人公はエステル・ブライトとヨシュア・ブライトという血の繋がっていない姉弟だ。彼らは父であり、王国きっての遊撃士(軍とは別に動き、民間人を助けることを目的とした団体)でもあるカシウス・ブライトの失踪を契機に、王国中を旅することになるのだった。
本作の縦軸はふたつ。ひとつはリベール王国を揺るがす問題をエステルとヨシュアが解決する、メインのストーリーラインだ。ここには父カシウスの存在が大きく関わっており、彼がいかに国防において重要な存在であったか、そして慕われていたのかが語られる。主人公ふたりは父の後ろ姿を文字通り追いかけていくことになり、導かれるように成長していくのだ。
これはゲームの世界設定が功を奏している。作中では導力(オーブメント)という技術が発達しており、他のRPGに相当する魔法や呪文コマンドに近い概念として出てくるものの、あくまで科学的に立証されたものであり、飛空艇などもこれで動いている。主人公たちのいるリベール王国はこの導力技術があるからこそ、なんとか大国と肩を並べることができているのだ。
とはいえ、現実世界の現代戦ではなく、まだ一兵卒の活躍によって戦況が激変するほどの規模感の戦いであり、そこは中世(ないしはそれ以前)のリアリティレベルである。しかしながら、ファンタジーRPGやバトル漫画にありがちな、極端に強い異能力者同士の一騎打ちばかりが目立つわけではなく、国同士のヒリついた関係性と、ひとりの英雄の存在感が同時に描ける良いバランスを保っているのだ。クドいくらいにカシウスの格が上がり続けるプロットである理由は、ラストまで遊べばきっと納得することだろう。
カシウスという大物の息子たちであるというギフトこそあるものの、エステルとヨシュアがストーリーに絡んでいく理由も、常に気を遣っていて良かった。
彼らは失せ物探しや盗賊退治といった小さな事件をこなしつつ、次第に要人救出のような大きなイベントにまで関わるようになるが、プロットは彼らを特別扱いせず、人員の不足や、彼らなりの覚悟を汲む形で、ちゃんと権謀術数の戦いに自ら飛び込んでいくように描けていた。
同時に、もうひとつの縦軸であるふたりの恋物語もとても重要である。
(ヨシュアの正体に驚きはなかったものの)本作の美味しいところはここに詰まっているといっても過言ではない。男勝りなエステルが顔を赤らめながら恥ずかしさを隠すためにギャーギャー叫ぶイベントシーンは、あまりの懐かしさに涙が出るほどだった。
逆に言えばこの軸が定まっているからこそ、エステルが他のことで悩んだり、余計なイベントを見させられたりすることもなく、プレイヤーは延々と「くっつくのか、くっつかないのか!?」という古典的かつ王道なラブコメをニヤニヤしながら眺めていられるわけである。本編が軽いノリの会話劇の割にかっちりとした政治劇も展開するので、これくらいの甘味がちょうどいいのだ。
2作目に向けて、大きな謎を残しつつ、主人公たちの二度目の旅路に対して強烈な引きも作り、これはもう次も買うしかないと思わせるクリフハンガーもとても上手い。少年少女の成長、恋物語、政治的陰謀など、多くを拾っているように見えて、全体を通してタイトで誠実なストーリーテリングなのが素晴らしかった。ちなみに筆者はカノーネ大尉が推しである。



























