配信技研・中村鮎葉に聞く、個人配信者の“演出論” コアリスナー確保への具体策を『Voicemod』を例に解説

目指すべきは「ド派手で映える演出」ではなく「自信のある姿」と「居心地のよさ」
——『Stream Deck』もそうですが、ストリーマーが自分の配信を盛り上げるための演出もいろいろな流行りがありましたよね。サブスク(メンバー登録)やビッツ(投げ銭)をもらって演出が入ったり、効果音を鳴らしたり……。今はどんなものが流行っているんでしょうか?
中村:実はもう、そこに関しては「流行」の域を超えていると思っていて、ツールや文化と化している側面もあるのかなと。
それでいうと、先ほどの“伸ばし方”の話にも関わりますが、視聴者が何かをやったらクリエイターが自動で反応するとか、ボタンを押してショートカットで反応するものを作るときに「面白いものを作ろう」ってなっちゃう人が多いんですよ。
——それはぜひ詳しくお伺いしたいですね。
中村:クリエイター側の心理としては、面白いものであったり、派手で印象に残るものを目指しちゃいがちなんですが、必ずしもこれは正解ではないと思っていて。どちらかというと、お決まりのネタであったり、内輪ネタであることの方が大事だったりするのではないかということですね。
視聴者に「このチャンネルといえばこれだよね」という印象を与えて、なんなら見られないとちょっとさみしい、みたいに思わせるコンテンツがライブ配信に向いているはずです。派手に作ったテレビのエフェクトみたいなものはテレビや動画だから映えるのであって、ライブ配信では必ずしもそうとは限りません。あるいは、“映える”というもの自体がライブ配信に適しているとは限らないのかもしれません。
本能に訴えて落ち着くもの。そういうものが求められていて、実際に作っている人も多いかな、と。そこまで目立つわけじゃないけど、毎回会って嬉しいみたいなものが今のアラート系かなと思っています。
——ありがとうございます。そうしたエフェクト・演出の面でいうと、今回体験いただいた『Voicemod』などは便利なアイテムかもしれませんね。中村さんは元々ご存知でしたか?
中村:はい。『シミュグラ(Simulation Of Grand)※』とコラボなどをしていましたよね。仕事柄、ライブ配信の市場は常にチェックしているので、誰かしらクリエイターが使っていたり、そういったイベント・企画で使われていたら目に留まりますね(笑)。
【※シミュグラ:Simulation Of Worldが運営する『GTAⅤ』を使ったロールプレイングサーバー】
——『Voicemod』のさまざまな機能についてはどのように思われますか? たとえば「Voice Enhancer」という機能を使うと、声質やトーンの調整をすることができます。
中村:「Voice Enhancer」に関しては、「良い声にする」という使い方を想像する人が多いと思うのですが、私は声に良いも悪いもないと思っていまして。ただ、自分の声を配信に載せて、後からアーカイブを見たり録画してみたら「なんか違う」と違和感を感じる人はいると思いますし、そういう人が使うのにすごく良いツールなのではないかと思っています。
少し声をいじってあげて、自分で認識している声と合わせてあげる。それに喜びを感じる人は多いはずで、そこを合致させてあげることでクリエイターとしてのアイデンティティを確立できることが大事なんだと思います。聴こえている音というわけではなく、あくまで「自分の声ってこうだよね」という認識と合わせてあげるイメージですね。
——「自分に自信を持つため」はめちゃくちゃいい使い方ですね。楽しそうに話している人のほうが見ていて楽しいと思いますし。
中村:視聴者としても、自信がある人というか「この方向で行きたいんだな」が分かるのが一番いいんですよ。配信者として活動する上で難しい部分なのですが、「同時視聴者数100人の配信者」の動きをしていないと、同時視聴者数100人は達成できません。最初から目指している未来での立ち回りをしていなければ、その未来にはたどり着けないんです。
そして、それを達成するための手段としていろいろな要素があるんですね。アラートを入れるだとか、好きなゲームを楽しそうにやっているとか、内輪ネタがきちんと形成されているとか、いろいろな良さがあると思います。声に関しても、そういうものの一つとして使っていけると良いと思います。
効果音やエフェクト、ボイチェンを上手に使うコツは「ストーリーを組み立てること」
——ありがとうございます。ある種、ちゃんと形から入ったほうがいいというか。『Voicemod』に搭載されている他の機能でいうと、いわゆるボイスチェンジャーや効果音のポン出し機能「Soundborad」などもあります。この辺りの使い方に関してはいかがでしょうか?
中村:もし私が使うとしたら、“ストーリー性”を持たせますね。先ほども申し上げた通り、私の持論としては「派手なことをすればいい訳ではない」です。やはり視聴者は「落ち着くかどうか」「長く見ていられるかどうか」を重視しているというのが、統計を見たり、様々なヒアリングを通して分かっていることで。
たとえば、動画の平均滞在時間は大体5分程度と言われているんですね。YouTubeであれば、サイトの平均滞在時間が40分ほどと言われているので、8本くらい動画を見たら去る、ということです。これが、ライブ配信になると1ユーザーの滞在時間は平均で110分にもなると言われていて。となると、そこに滞在するロジックというのは動画とは全く異なるわけです。
そういう意味で、クリエイターが自分の定番ネタを持っていること、それを視聴者が期待するタイミングで繰り出せるどうかが、効果的になる。声に関しても、さっきのように「自己認識を合わせる」だけでなく、たとえば一瞬だけ変える、とかもありですね。それこそ、リバーブを入れるだったりとか、声質や周波数を変えるでもいいと思います。
ただ、そこに物語性が欲しい。「この人って、こういう時にこの声を出すよね」とか「このシチュエーションはあの声が来そうだな」とか、視聴者にストーリーが伝わると長居してくれるようになるはずです。
——ストーリー性みたいなところでいうと、それこそTRPGやロールプレイ系のコンテンツと『Voicemod』は相性が良さそうに感じますが、中村さんはどう分析しますか?
中村:もちろん、相性は良いですね。ロールプレイというコンテンツとの相性ももちろんですが、こういったツールは“視聴者とのお約束”が作れるんですよ。配信での世界観を共有できるとも言えます。
特に『GTAⅤ』などを使ったストリーマーが集まるサーバー企画系のロールプレイで重要なこととして、「ロールプレイサーバーでeスポーツをしてはいけない」という風なことを我々の間では言っていまして。
——eスポーツですか。
中山:これはつまり、「自分の利益を最大化するために人の作った拠点を焼く」みたいなことで、勝ち負けの世界ではないということなんですね(笑)。その環境のなかで、可能な範囲での最適解を取る行動というのはあれど、それで誰か被害者が出てはいけない訳ですよ。
自分以外の人が被害者になったとして、その被害者には視聴者もいるわけで、その人たちは悲しい気持ちになりますよね。そうすると、その“eスポーツ”をやっている人のチャンネルは叩かれるし、視聴者も減るし、企画やサーバー全体にネガティブな印象を持たれてしまう。だから、ちゃんと「この街(サーバー)に入ったらロールプレイをしなきゃいけないんだよ」ということを、ストリーマー本人もそうですし、視聴者にも納得してもらわないといけないんですね。
他人を立ててあげる、時には自分が犠牲になってでもそれをすることが必要な世界で、ちょっと特殊ではあるんですが、ライブ配信の世界ではそういう役回りを“演じる”ことも大切です。で、なぜここで『Voicemod』と相性が良いかといえば、そういったロールプレイをする上で声を変えたりすることで「共通認識」が作れるからなんです。「今はボイチェンを使っているから、こういうキャラを演じているんだよ」「たまには損な役回りを演じて犠牲にならなきゃいけないんだよ」と。
——なるほど。配信者が不憫に見えるシーンでも、ボイスチェンジャーでふざけ倒した声にしていれば「ああ、ネタでやってんだな」「配信芸か」ということが一発でわかりますもんね。
中村:自分もそういう役回りを演じているし、視聴者もそれを理解している。これもある種、アイデンティティの一致ですね。
——少し変わった例でいくと、『Among Us』で使った例もあって。みんなボイスチェンジャーで声を変えているので、誰が誰だか分からなくなってカオス極まりない状況になるという……。
中村:『Among Us』でボイスチェンジャーは相当効きますね(笑)。私も結構な時間プレイしていたのですが、あのゲームはロジックでプレイしてはいけないんですよ。厳密な証拠がない以上、人のしゃべり方で推理したほうが当たることが多くて。
特に『Among Us』は、殺されて宇宙に放り投げられようとしているんだから、ロジカルに喋って「村のために自分をローラーしてください(※)」とか言っている場合じゃないでしょう、と(笑)。
だからみんなパッションで会話をするんですが、そこにボイスチェンジャーを使われるといろんなことが分からなくなる。感情が見えなくなるので面白いんですよね。今その人が怪しいしゃべり方をしているか、声色から判断できなくなる。それが一つのゲーム性として成立するんだと思います。
【※ローラー:人狼ゲームにおける戦術の一種。複数の怪しい人物を順番に追放/処刑していくこと。人狼側のプレイヤーを確実に一人は処刑できることから村人側にとって効率が良く、頻繁に利用される戦術】
——ありがとうございます。最後に、『Voicemod』を始めとする“配信を盛り上げるツール”を活用するうえで重要になる「心構え」のようなものがあれば、ぜひ教えてください。
中村:すごく地味なお話にはなるのですが、やはり「音質は大事だよね」ということです。音質が変わることで、人の感じ方も変わるということを知らない人が多いです。でも、『Voicemod』のような「音を変えるツール」に触れることで、音質の重要さを知ることができる。そこで初めて「新しいマイクを買おう」とか「オーディオインターフェースを買おう」とか、いろいろな風に音に対して理解度が上がっていくと思うんです。
そしてひいては数学や物理とかそういうものも気になってきて、「学びたい」と思ってもらえること。面白さがわかってくること。それが、私としては感じてほしいポイントですね。やはり技術を取り入れるときに、何をしているのか、どういうツールなのかをしっかり理解してこそ、「ツールを使いこなしている」状態だと私は思っています。
■『Voicemod』(無料版)ダウンロードはこちら
公式WEBサイト:https://www.voicemod.net/ja/
『Voicemod』7日間無料クーポン:REALSOUND1025-849E6
クーポン登録ページ:https://www.voicemod.net/ja/redeem-a-coupon/
■『Voicemod PRO』(有料版)との違い
・200種類以上の「ボイスフィルター」が無制限で利用可能
(無料版:毎日5つのランダムな「ボイスフィルター」が利用可能)
・サウンドボードとサウンドプロファイルの作成数上限なし
(無料版:最大5つまで作成可能)
・Voicemod サウンドデザインチームによる高クオリティのサウンドボードにアクセス可能
(無料版:利用不可)
・様々なエフェクトの組み合わせによって自由自在にカスタムできるボイスチェンジャー機能「Voicelab 2.0」にアクセス可能
(無料版:利用不可)

























