『ゼルダ無双』10年の軌跡とこれから 予想外コラボの“お祭り”から本編を補完するスピンオフ作品へ

2023年にNintendo Switch向けに発売され、国内外で大ヒットを飛ばした任天堂のアクションアドベンチャーゲーム『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下、『ティアーズ オブ ザ キングダム』)。
同作で断片的に語られた「封印戦争」に焦点を当てたスピンオフ作品にして、タクティカルアクションゲーム『ゼルダ無双 封印戦記』(以下、『封印戦記』)が11月6日にNintendo Switch 2向けに発売された。
『ゼルダ無双』はコーエーテクモゲームスの代表作のひとつ、「無双」シリーズと任天堂の「ゼルダの伝説」のコラボレーションによって誕生したタイトルだ。「無双」シリーズは過去にも『機動戦士ガンダム』『ONE PIECE』といったアニメ、漫画、他社のゲームタイトルなどとコラボレーションした作品を多数出しており、『ゼルダ無双』もその流れを汲むひとつとして誕生した。
実は昨年の2024年をもって誕生から10年の節目を迎えた『ゼルダ無双』。今回の『封印戦記』は、その節目を終えて登場する作品であると同時に、3作目の『ゼルダ無双』となる。
当初は他の“コラボレーション無双”(コラボ無双)よろしく、お祭りのコンセプトを打ち出した特別な作品として誕生した『ゼルダ無双』。それから10年がすぎた現在、このタイトルは本家「ゼルダの伝説」のストーリーを補完するスピンオフ作品としての印象が深まったように思える。
シリーズとしての本数は本家「ゼルダの伝説」には遠く及ばないが、今回の『封印戦記』発売を機に再びその名が轟いているこのごろ。この10年の間における『ゼルダ無双』の歩みを振り返りつつ、これからについて考えてみたい。
お祭り作品らしい盛りだくさんでオールスターな内容が特徴だった初代『ゼルダ無双』
『ゼルダ無双』が誕生したのは2014年のこと。当時の任天堂の家庭用ゲーム機「Wii U」向けの新作タイトルとして発売された。今回の『封印戦記』もそうだが、販売は「無双」シリーズの本家本元であるコーエーテクモゲームスが担当。任天堂は監修という形での参加となっている。
初報は2013年末に放送された「ニンテンドーダイレクト」。当時、Wii Uは初動のつまずきと新作の不足、今後の不透明感などから、苦しいムードが漂っていた。そうした中で突如発表された『ゼルダ無双』はファンを中心に驚きをもって迎えられた。
そもそも、謎解き主体のアクションアドベンチャーたる「ゼルダの伝説」と、多勢力が入り乱れて戦うタクティカルアクションである「無双」はジャンル、方向性の面において真逆も真逆の別物。この2作がコラボレーションするという事実だけでもインパクトは絶大で、注目の的になるのも「むべなるかな」と言えた。
もしかすると「ゼルダの伝説」のファンの一部には、この展開を想定していた人もいたかもしれないが。2011年発売の『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』の終盤における、敵(ボコブリン)の大群を斬り倒しながら突き進むイベントや、2004年発売の『ゼルダの伝説 4つの剣+』の「ハイラルアドベンチャー」における大群襲撃イベントなど、過去作にはそれらしいネタがあったためだ。
こうした驚きの発表と共に誕生した初代『ゼルダ無双』は、歴代の「ゼルダの伝説」シリーズに登場したキャラクターたちが総登場する“お祭り”のコンセプトを打ち出した内容になっている。厳密には『ゼルダの伝説 時のオカリナ』『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』の3Dシリーズ3作にフォーカスしている感じだ。
ただ、ストーリーはオリジナルで、リンクにゼルダ姫、インパの3名は本作の世界観に基づくキャラクター付けがされている。また「ラナ」を始めとする新キャラクターも複数名登場し、ストーリーにも深く絡んでくる。
ゲームの中身は「無双」ということで、基本は広大な戦場(3Dの箱庭空間)を舞台に敵の大群と戦い、都度発生するミッションを遂行しながら勝利条件の達成に挑むスタイルだ。本家「ゼルダの伝説」のような謎解き要素はほとんどない。
象徴的な独自要素としては「ウィークポイント」なるものがある。主に拠点や砦を守る長や巨大な魔獣など、中ボス以上のクラスの耐久力がある敵に攻撃を仕掛けると専用ゲージが蓄積されていく。これが満タンに達すると「ウィークポイントスマッシュ」なる技が使用可能に。決めることで、相手の体力を一気に削ることができるのだ。
「無双」のような爽快感を売りとするゲームにおいて、耐久力がある敵はそれらの魅力に泥を塗る存在になりかねない。しかし「ゼルダの伝説」……主に3Dの作品では、そうした敵を相手にした攻防の駆け引きが魅力のひとつでもある。
「ウィークポイント」はそれらの特色を両立させる要素になっており、結果として無双らしさとゼルダらしさのある戦闘を確立させている。耐久力のある敵を相手にする際、対象を注視する「注目」(ロックオン)が可能なのもゼルダらしさを感じさせられる部分だ。
また、操作できるキャラクターもリンクに限らず、ゼルダ姫にインパといった本家「ゼルダの伝説」では非プレイアブルだったキャラクターも対象になっている。
とりわけゼルダ姫は文字通りの『ゼルダ無双』が実現するという点で、「ゼルダの伝説」のタイトル不一致ネタを知る人なら「ついにこの時が……!」と感慨深くなること請け合いである。2025年のいまは『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』という、ゼルダ姫の主演作品が登場している関係で、ややインパクトが薄れたところもあるが。
キャラクターに関しては「なぜこのキャラを?」とツッコミたくなるチョイスも。さらに本作のメインモード「レジェンドモード」は、シナリオごとに主要操作キャラクターが変わる仕掛けが凝らされているのだが、そこにも2025年現在の「ゼルダの伝説」でも実現していない、あるキャラクターを直接動かして戦えるという魅力的な展開がある。
全編に渡り、制作スタッフの「ゼルダの伝説」への愛がほとばしる仕上がりであり、力作というに相応しい内容となっている。ボリュームも大きめなことに加えて、発売後にも有料ダウンロードコンテンツの販売による拡充が図られている。
2016年には新しいシナリオとシステムを追加したアップグレード版『ゼルダ無双 ハイラルオールスターズ』がニンテンドー3DS向けにも発売。それをベースにさらなる強化を図った『ゼルダ無双 ハイラルオールスターズDX』もNintendo Switchで2019年に発売されている。
最初の『ゼルダ無双』は、Wii U本体の販売およびダウンロード版の配信終了で、2025年現在は遊ぶハードルが上がってしまっているが、事実上の最終バージョンに当たる『ゼルダ無双 ハイラルオールスターズDX』は、最新のNintendo Switch 2でも購入およびプレイ可能である。
やや盛りすぎと言わんばかりの物量と、「そこまで忠実にしなくても……」と言いたくなる不便な箇所もあるものの、“お祭り”のコンセプトがこれ以上なく表れた作品である。繰り返しになるが、2025年現在もNintendo Switch版が発売中なので、未プレイの人はそちらで遊ぶのがオススメだ。
まさかの本編補完作品へと転身し、「無双」シリーズとしての新境地も切り開いた『ゼルダ無双 厄災の黙示録』
初代『ゼルダ無双』は、お祭りのコンセプトを貫き通した内容だったことから、どこか「一期一会」なムードも漂わせていた。それを打ち破ったのが2020年発売の『ゼルダ無双 厄災の黙示録』(以下、『厄災の黙示録』)だった。
しかも、今回は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、『ブレス オブ ザ ワイルド』)のテーマに特化。本編で断片的に語られた100年前の「大厄災」をエピソードを描くというスピンオフ的な内容にしてきたのだ。
これまで、他社タイトルなどとコラボした無双は、お祭りのコンセプトが一種の“アタリマエ”だったが、それを大きく崩してきた本作は「無双」シリーズの新境地を切り拓く作品になったのである。
肝心の内容は前作を踏襲していて、「ウィークポイント」および「ウィークポイントスマッシュ」も健在。ただ、本作は『ブレス オブ ザ ワイルド』を下地にしていることから、「シーカーストーン」を用いた4つのアイテムを繰り出す戦法が新たに追加されている。
「レジェンドモード」に「アドベンチャーモード」といった、複数のゲームモードを設ける枠組みも廃止。本編内にメインストーリーから分かれたクエストなどを設け、好きなタイミングで挑めるという『ブレス オブ ザ ワイルド』らしさのある仕組みになった。
ほかに戦闘開始前に「料理」を選ぶことで特定能力の向上が図れるという要素も。また、本編がある程度進むと、『ブレス オブ ザ ワイルド』ではダンジョンそのものだった「神獣」を直接操作し、敵の大群に挑むという特殊イベントも発生。
FPSチックな視点で、神獣それぞれの兵装を使い、実に1000体を超える雑魚敵や「ヒノックス」のような大型の敵を軽々と倒していくその内容は、本編はおろか他の「無双」シリーズ作品にもないであろう爽快感がある。
細かいところでも、前作では当時の「ゼルダの伝説」シリーズの“アタリマエ”に則り、掛け声と台詞送りの効果音で表現されていたイベントシーンもフルボイスとなり、演出全般が大きく強化。それと共に描かれるストーリーも、『ブレス オブ ザ ワイルド』本編では故人だった4名の英傑たちが活躍するのみならず、その登場機会も多いというだけあって見所だらけ。
しかも、『ブレス オブ ザ ワイルド』本編で語られた内容から、バッドエンドが確約されている……ように見えるのだが……?これ以上のことはネタバレになってしまうので割愛する。
全体を通して前作の正統進化を図りつつ、テーマとした作品の補完に特化した試みの光るストーリーと演出で、ファンアイテムとしての独自の価値を持った作品に仕上げられている。何より、断片的に語られて終わった時代を追体験できる点で「ゼルダの伝説」シリーズとしても珍しい、ストーリーとキャラクター周りに強く焦点を当てた作品にもなっている。
この作品の企画自体は当時の『ファミ通.com』掲載のインタビュー(※1)によれば、任天堂からの逆提案によって実現したという。外部からの提案が結果として「無双」シリーズの新境地を切り開いたのには、長い歴史を紡いでいる作品が殻を破るひとつのモデルケースになったと言えるかもしれない。
そして、この『厄災の黙示録』があったからこそ、今回の『封印戦記』も誕生したと言える。
再び登場した本編補完作品の『封印戦記』をもって『ゼルダ無双』は補完作品として立ち位置を固めた……のか?
『封印戦記』の登場に関してはある程度、予想ができた側面もあった。元々『ティアーズ オブ ザ キングダム』にも、過去の出来事が断片的に語られるという要素が用意されていたためだ。

ただし、ややネタバレになるが『厄災の黙示録』の時とは違って、リンクがその場にいないという設定。果たして実現できるのか否か、読みにくい側面があったのも確かだ。結果としては実現するのみならず、『知恵のかりもの』に続くゼルダ姫が事実上の主人公ポジションを務める作品の2本目が早くも現れることになったわけだが。
そして、再び本編の補完に焦点を当てた『ゼルダ無双』の誕生で、今後の3Dの「ゼルダの伝説」新作には『ゼルダ無双』がセットで来る展開が期待される余地が広がったように思う。しかし、その展開が新たな“アタリマエ”になるかと言われれば疑問だ。

そもそも『厄災の黙示録』も『封印戦記』も、テーマ元たる作品に多対多が基本の無双のゲームデザインが活きる設定があった。また、『ブレス オブ ザ ワイルド』と『ティアーズ オブ ザ キングダム』は、時系列上極めて深い関連性を持つ作品でもある。だからこそ、同じ『ゼルダ無双』が出る流れも期待できたと言えるが、次の3D新作が全く新しい設定の「ゼルダの伝説」となればそうとも言えないだろう。
「ゼルダの伝説」シリーズには「ゼルダ史」という年表で紹介されているように、作品ごとに独立した設定とストーリーが描かれている。中には前作との関連性を持った続編も少なからずあるが、続いても大体2作までで、次は再び新たな設定の新作が生まれる傾向がある。それに「ゼルダの伝説」に限った話ではないが、任天堂は基本的に前作そのままの内容ではない、新しい遊びなどを提案した新作同然の続編を作ることを徹底している。
その流れを踏まえれば、3Dの新作も今度は新しくなる可能性が否定できず、そこに「無双」シリーズのゲームデザインが活きそうな設定も備わるとは言えないのだ。もしかすると、補完作品の「無双」は今回の『封印戦記』でひと区切りという線も十分に考えられる。
ただ、『厄災の黙示録』が全世界で300万本以上の売り上げを記録する(※2)など、「無双」シリーズ全体でも『ゼルダ無双』は非常に大きな実績を残している作品だ。補完作品ではない別の『ゼルダ無双』が出てくる可能性は十分にあるだろう。事実、前述の『厄災の黙示録』のインタビューでも、次の作品を検討していたとのコメントから、再び新たな動きがあるかもしれない。
最終的に何が出てくるのかは今後の流れに身を任せるしかないが……何気に『ゼルダ無双』は今回の『封印戦記』も含め、タイトル通りにゼルダ姫を操作して一騎当千の体験ができるという、本家「ゼルダの伝説」シリーズに先駆けた試みを実現している作品。また『封印戦記』に続き、事実上の主演作品が出てくれば、それはそれで面白い立ち位置が確立されるかもしれない。
筆者個人としては、初代『ゼルダ無双』の終盤のシナリオで体験できた“あのキャラクター”が暴れまわる新作もアリなのではと、思っていたりするが。タイトル通りの体験からは逸脱してしまうが。いずれにせよ、初代誕生から10年が経過し、3作(+2作)ものタイトルが揃った『ゼルダ無双』。今後も、「ゼルダの伝説」を支えるひとつのシリーズとして末永く続いていくことを願う。
▼参考資料(リンク)
※1 Switch『ゼルダ無双 厄災の黙示録』インタビュー。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のよさを残し、無双アクションを実現した開発秘話が語られる(ファミ通.com)
https://www.famitsu.com/news/202011/20209605.html
※2 全世界での累計出荷300万本突破!(『ゼルダ無双 厄災の黙示録』公式サイト)
https://www.gamecity.ne.jp/zelda-yakusai/news/info_201124.html

































