なぜ『カービィのエアライダー』は支持されるのか レースにとどまらない独自のゲーム性を考える

 任天堂は10月23日、「カービィのエアライダー Direct 2 2025.10.23」を配信した。

 Nintendo Switch 2最大の注目作として待望されている『カービィのエアライダー』。同タイトルはなぜこれほどまでに往年のファンを中心とした界隈の支持を集めるのか。今回配信された番組の内容を踏まえ、そのオリジナリティの魅力について考えていく。

「星のカービィ」を題材にしたレースゲームシリーズに22年ぶりの新作が登場

カービィのエアライダー [Nintendo Direct | Nintendo Switch 2]

 『カービィのエアライダー』は、2003年にニンテンドー ゲームキューブで発売されたレースゲーム『カービィのエアライド』の続編にあたるタイトルだ。プレイヤーは、「星のカービィ」シリーズでおなじみのキャラクターたちからお気に入りの1体をライダーとして選択。エアライドマシンと呼ばれる乗り物へと乗り込み、誰よりも早くコースを走破することを目指す。

 ライダー、エアライドマシンはそれぞれに異なる特性を持っている。「エアライド」「ウエライド」「シティトライアル」「ロードトリップ」と、ゲーム内に登場する4つのモードで、自身のプレイスタイルに合う両者の組み合わせを見つけることもまた、同タイトルのゲーム性のひとつとなっている。

 シリーズとしては、前作『カービィのエアライド』に続く22年ぶりの新作で、2025年4月の発表時には界隈が大いに沸いた。今回、配信となったのは、その最新情報を届ける番組。システムや登場ライダー/エアライドマシンの紹介など、盛りだくさんの内容が1時間超にわたって放送された。

 『カービィのエアライダー』は2025年11月20日発売予定。対応プラットフォームはNintendo Switch 2のみで、価格はパッケージ版が8,980円、ダウンロード版が7,980円となっている(ともに税込)。なお、11月には「おためしライド」と題されたオンライン体験会も開催されるとのこと。参加方法や実施期間など、詳細については、公式サイトを参照してほしい。

制作陣のホスピタリティの高さに脱帽した62分間

カービィのエアライダー Direct 2 2025.10.23

 情報解禁のタイミングから約半年という長い時間をかけて、少しずつその全貌が明らかとなってきた『カービィのエアライダー』。任天堂は8月にも同タイトルのみを取り上げた約45分のNintendo Direct「カービィのエアライダー Direct 2025.8.19」を配信しており、多くのファンは同番組でほぼすべての情報が出揃ったかと想像していた。しかしながら、ここにきて1時間を超える新たな専用のNintendo Directが配信されることがわかると、界隈からは驚きの声が上がっていた。そのような背景もあり、今回の番組は既出の情報が中心になるとの見方もあったが、実際に蓋を開けてみると、その内容は圧巻の一言だった。

 たとえば、番組の冒頭を飾ったゲームモード「ウエライド」についてでは、「8月の配信で触れられなかったことに対し、多くの視聴者から問い合わせがあったこと」「盛りだくさんの内容となっているため、当初は実装しなくてもよいかと考えていたこと」にディレクターの桜井政博氏が触れ、「作っちゃいました」と、それから約2カ月で1から制作したことを示唆した。もしかすると、現場ではかねてから開発を予定しており、一連の発言はリップサービスだったのかもしれない。それでもファンにしてみれば、これ以上ない嬉しい発表となったに違いない。

 このように、今回の配信で発表された新情報は、ユーザーの体験を最優先に考えたものばかりだった。さながら22年の時を超えて発売される『カービィのエアライド』完全版といったところだろうか。桜井氏をはじめとした制作陣のホスピタリティの高さを端々から感じ取ったのは、きっと私だけではないはずだ。

 「ゲーム内通貨・マイルの使い道にマシン性能を上げるものは用意していない、とあえて言及したこと」「勝利すればするほど増えていくライセンスの“世界勝利力”という数値」「今後、ダウンロードコンテンツや続編を制作する予定がないという発言」は、Pay to Winの構造を持つライブサービスゲームや昨今横行する完全版商法へのアンチテーゼのようにも感じられた。

ただのレースゲームにとどまらないゲーム性が支持の要因に

カービィのエアライダー Direct 2025.8.19

 『カービィのエアライダー』はなぜ、これほどまでに界隈の注目を浴びるのだろうか。ゲーム市場では2025年、『マリオカート ワールド』や『ソニックレーシング クロスワールド』など、人気レースゲームシリーズの最新作が相次いでリリースを迎えているが、同タイトルをめぐる盛り上がりは、両者のそれと一線を画している印象さえある。もしかすると、フリークの期待値は、6月にローンチとなった任天堂のゲーム機・Nintendo Switch 2の中でも最大とも言える。『カービィのエアライダー』と他のレースゲームのあいだに存在する違いとはどのようなものなのか。私はそのゲーム性にこそ秘密があると考えている。

 先にも述べたとおり、『カービィのエアライダー』は、『マリオカート ワールド』や『ソニックレーシング クロスワールド』同様、レースゲームのジャンルに分類されている。しかしながら、そこに含まれる体験は、ただレースで1位を目指すだけのものではない。ゲーム内には年齢や性別を問わず楽しめるさまざまなゲームモード/要素が用意され、お気に入りのライダー/エアライドマシンでそれらにチャレンジすることができる。どちらかと言えば、「レースを題材にしたパーティーゲーム」と表現する方がしっくりくるのかもしれない。そうした成分は、今回の配信で明らかとなった新情報にも、これ以上ないほどに散りばめられていた。

 もちろんおなじく任天堂から発売されている『マリオカート ワールド』も同様の方向性で制作されたタイトルであると言えるだろう。しかし、両者のあいだには、よりパーティーゲームとしての性質が強い前者、レースゲームとしての性質が強い後者、という棲み分けがあるようにさえ感じられる。

マリオカート ワールド [Nintendo Direct | Nintendo Switch 2]

 また、今回の配信では、ゲーム内通貨では買えない収集要素として、「グミ」の存在も明かされた。桜井氏によると、この「グミ」は対戦で勝つことによって収集できるが、収集する、もてあそぶ以外の用途がないのだという。番組のチャット欄やSNS上では、この不思議な要素について、疑問を投げかける声もあった。

 しかしながら、この新要素の存在こそが、『カービィのエアライダー』が一般的なレースゲームとは異なる立ち位置を持つことを裏付けていると言えるのではないか。入手のきっかけこそ「対戦での勝利」というレースゲームらしいものとなっているが、めぐる体験に含まれているのは、単純な競技性からの脱却であるとも言える。『カービィのエアライダー』が広く支持されるのは、ターゲットをレースゲームとして同タイトルを遊びたい層だけに絞っていないからなのかもしれない。

 はたして『カービィのエアライダー』はリリース前の注目を裏切ることなく、大きな成功を掴み取れるか。11月に開催予定のオンライン体験会では、揺るぎない完成度の高さを私たちに見せてくれるに違いない。発売まではあと1カ月ほど。どのようなムーブメントを巻き起こすのか。今後の動向に注目したい。

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