『空の軌跡 the 1st』レビュー 『軌跡』シリーズの飛躍を予感させる“理想的な入門作”に

 『空の軌跡 the 1st』は9月19日、Nintendo Switch/PS5/PC(Steam)向けに日本ファルコムがリリースしたRPG。本作のリメイク元となる「軌跡」シリーズの第1作『英雄伝説 空の軌跡 FC』は、2004年にPCで販売された作品で、以降20年以上にわたってシリーズが連綿と続いている。本記事ではシリーズを全作プレイした筆者による感想を通し、このたびのリメイクが持つ意味について掘り下げながらレビューしたい。

『空の軌跡 the 1st』プロモーショントレーラー

色あせないエステルとヨシュアの旅路

 本作はゼムリア大陸の南西部「リベール王国」が舞台で、主人公は「地域の平和と民間人の保護」を理念に掲げた「遊撃士(ブレイサー)」を目指す少女エステルだ。冒頭、幼少期のヨシュアがエステルの父・カシウスに連れられて、「ブライト」家の養子となる場面からゲームはスタート。その後互いに16歳を迎えたエステルとヨシュアは、史上最年少ながら遊撃士を目指して日々研修に励み、無事見習いの「準遊撃士」資格を得るシーンから物語の幕が上がる。新米遊撃士として依頼をこなすなか、カシウスが仕事に向かうために乗っていた飛行客船ごと消息を絶つ事件が発生。失踪した父を探しながら各地方を巡り「正遊撃士」への昇格を目指すため冒険にくり出し、やがてリベール王国を覆う陰謀や謎の結社「身喰らう蛇」との因縁が明らかになっていく。

 「行方不明になった父を探す」そんな個人的な動機と、地方都市ロレントという小さな舞台からはじまった些細な冒険は、徐々に規模が拡大していく。そのためプレイヤーはエステルたちと共にゼムリア大陸の世界観や、作中で発達している「導力器(オーブメント)」などの基礎知識を、ふたりの成長と共に段階的かつ無理なく理解できる構成だ。いちファンとして考える「軌跡」シリーズが抱える最大の課題は、「圧倒的な情報量とプレイ時間」による新規参入の難しさだろう。しかし本作はシリーズ第一作のリメイクで“物語の一番はじめ”のため、後の作品で「ハードルが高い」と思われがちな要因ともいえる、設定の積み重ねを前提とした複雑な国際情勢や勢力の駆け引きと比べ、極めて明快なストーリーテリングである。

 また『空の軌跡 the 1st』で忘れてはならないのが、「ロードムービー」要素だ。エステルは父を追う旅路のなか、各地での出会いや別れを経て成長していく姿がダイレクトに描かれる。「空の軌跡」以降のシリーズは、『零/碧の軌跡』はクロスベル警察特務支援課、『閃の軌跡』はトールズ士官学院、『黎の軌跡』はアークライド解決事務所と定められた拠点から、列車や車で出張する形で物語が進行していた。だが本作は自らの足で地方を回り、一度去った地には基本的に戻ることができない。パーティーもエステルとヨシュア以外は固定ではなく、現地で協力者を巻き込みながら物語を展開していくのも特徴だ。

 そしてオリジナル版の魅力のひとつは、風光明媚なリベール王国の世界観にあったが、当時のグラフィックではプレイヤーの想像力に大きく依存していた。だが日本ファルコムが『閃の軌跡』より、研鑽してきた3Dグラフィック技術が惜しみなく投入され、リベール王国の“解像度”が向上。のどかなロレントの風景や商業都市「ボース」の賑わい、海港都市「ルーアン」の壮大な跳ね橋にどこまでも広がる海など、当時の記憶の中の景色が空気感まで加味されて等身大のリアリティを持って目の前に出現する。我々シリーズファンにとっての「思い出の再現」が、当時の感動を凌駕する新鮮さで提供される体験と、エステルたちが各地方で抱く感嘆がリンクして、「懐かしくも新しい」再発見の興奮が胸を満たした。

ファルコムの歴史を総取りしたアクション×コマンドバトル

 原作『英雄伝説 空の軌跡 FC』が採用していたのは、SRPG風のターン制コマンドバトルだったが、本リメイクでは近年の『黎の軌跡』や『界の軌跡』を踏襲した、アクションとコマンドバトルのハイブリッドなバトルシステムを採用している。 

 フィールド上でプレイヤーは随時アクション形式の「クイックバトル」を行えるが、これは決して「コマンドバトルのおまけ」ではない。通常攻撃と「チャージゲージ」を消費するクラフト(特技)を使い分け、回避やジャスト回避を駆使して立ち回るという独立した完成度を持っている。特に回避後のクラフト種類の変化や、ジャスト回避成功時のチャージゲージ全回復といったシステムは、アクションゲームとしての爽快感を享受でき、プレイヤーのテクニックが試される、遊び応えのある要素だ。

 また「探索のテンポ」を重視した設計も特筆すべき点だ。レベル差が5以上ついた格下相手には与ダメージが上昇する補正がかかるため、「探索時に毎回コマンドバトルに移行するのが煩わしい」と感じるストレスはある程度排除されている。

 コマンドバトルでは、敵にスタンやクリティカルを与えると、協力攻撃のチャンスである「ブレイブアタック」が発動。これを通じて「チェイン」や、パーティー全体による強力な一斉攻撃「バースト」など、戦略的な連鎖を発生させることができる。またクイックバトルで敵にスタンを与えてからコマンドバトルに移行することで、即座にブレイブアタックが可能など、クイックバトルは単なるアクションでダメージを与える手段以上の価値を持つ。コマンドバトルを有利に進めるための「布石」としても機能しており、リアルタイムな切り替えによってバトルシステム同士が有機的に繋がっているのだ。

 さらにクラフトや必殺技「Sクラフト」演出もスピーディーで、コマンドバトルでありながらテンポが良いのが特徴。「軌跡」シリーズの魅力のひとつであるバトルの完成度は、本作でも健在で、従来の奥深いターン制コマンドバトルの戦略性と、新しいアクション要素の爽快感を折衷したスタイルは、現代JRPGの新たな進化系とも言えるだろう。

理想的な入門作の最適解としてのリメイク

 結論として『空の軌跡 the 1st』は、シリーズファンにとっては「思い出の理想的な再演」に、初心者にとっては「ハイクオリティなJRPGの入門作」になり得るという、一見矛盾するような要素を高い水準で実現させ、「新規参入がしにくい」という長年のシリーズの課題を解決した作品だ。リベール王国の美しい風景の中で描かれる純粋で真っ直ぐな冒険譚、その温かさは今も色あせることがない。

『空の軌跡 the 1st』オープニングムービー

 シリーズの「原点」が現代の技術で再構築されたことは、ファンのみならずこれからゼムリア大陸の広大な物語に足を踏み入れようとする新規プレイヤーにとって、これ以上ない招待状となるだろう。シリーズを全作プレイしてきた筆者として、本作が持つ「原点回帰」と「未来への進化」の両立こそが、このリメイク最大の意味だと確信している。この圧倒的な手応えは、今後続く「軌跡」シリーズのさらなる飛躍を予感させるものだった。

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