大阪でさまざまなスタートアップ×研究・支援機関による共創が生まれ続けている理由とは? JAM BASE×VIE×MUIC Kansaiのキーパーソンが語り合う

 2025年の8月5日から8月27日まで、「JAM BASE開業1周年記念プレイベント “VIE and MUIC presents 夏の涼:雲海リトリート”」が行われた。こちらは新たな大阪のランドマークとして梅田に誕生したグラングリーン大阪内の「うめきた公園」の一角を使って、人工的に雲海を発生させ、そこに脳科学と音楽を融合した新しい音楽ジャンル「ニューロミュージック」を流すことで、心や脳波をととのえることを目指すというものだ。

 本イベントのクリエイティブを担当したのが、次世代型ウェアラブル脳波計の開発とニューロテクノロジーの社会実装を行うVIE株式会社だ。代表取締役の今村泰彦氏は前職のシリコンバレーのスタートアップで働いていた際、メンタルヘルス不調になってしまったが、鎌倉にある建長寺で坐禅を教えてもらったことで一つの閃きを得て、脳科学とテクノロジーを組み合わせた「ニューロサイエンス」の会社を立ち上げることを決め、同社を設立。さらに20代の頃にミュージシャンだった経験を組み合わせたことで、脳波を測定するイヤホンや、脳波に合わせて変わる音楽「ニューロミュージック」などを手がけるようになったという。

 また、今回のイベントはグラングリーン大阪内にある、企業や大学・研究機関、スタートアップ、ベンチャーキャピタルなどのプレイヤーが、ともに新たなアイデアを形にし、社会実装や事業化への挑戦を行う施設『JAM BASE』の開業1周年を記念し実施されたもの。VIE社とこのプロジェクトに協力したMUIC Kansaiは、ともに『JAM BASE』の入居パートナーでもある。

 今回はそんなイベントや『JAM BASE』・MUICの取り組みについて、VIE株式会社の今村氏、『JAM BASE』運営組織である一般社団法人コ・クリエーションジェネレーター兼オリックス不動産株式会社の窪庭 潤氏、MUIC Kansai 事務局長の上野文博氏の鼎談を行った。大阪・梅田の一等地にさまざまなスタートアップや研究・支援機関が集まり、次々と共創が生まれている理由や、関西でスタートアップを立ち上げるメリットなどについて、3人に話を聞いた。(編集部)

「夏の涼:雲海リトリート」を行った背景とは

ーーVIE社に関してはこれまでも何度か取材の機会がありましたので、まずは先日グラングリーン大阪で行われた「夏の涼:雲海リトリート」イベントを行うことになったきっかけを教えてください。

今村: 私どもは鎌倉に拠点を構える企業なのですが、昨年9月の開業時よりグラングリーン大阪内にある『JAM BASE』に大阪オフィスを構えています。『JAM BASE』は、弊社のような在京のスタートアップもそうですが、大阪大学発のスタートアップやベンチャーキャピタル(VC)、大企業、脳科学の研究者の方々、MUIC Kansaiさんのような支援組織などがまざり合っている非常に面白い空間で。私たちも入居以来、様々な企業・団体様たちと協業の話をしておりました。そんななか、昨年実施した京都圏での夏秋のイベントが今年行われないことになり、それなら別の何かを関西圏でやりたいですね、ということで窪庭さんに相談したんです。

VIE株式会社 代表取締役の今村泰彦氏

窪庭:「暑い夏でも、公園で多くの方々が楽しめるイベントをやりたいのですが」と相談いただきましたよね。そこからMUICさんとも話をして、あっという間に進んだ気がします。

今村:実質1カ月くらいで成立したので、すごいスピードですよね(笑)。

ーー今村さんが「公園」と呼ぶのは、グラングリーン大阪の中にある「うめきた公園」ですよね。ここに着目した理由はなんでしょう?

今村:グラングリーン大阪の魅力の一つは、大阪・梅田の一等地にあれだけ大きな公園を持っていて、そこに人が集まることだと思うんです。ただ、夏の公園は非常に暑いので、初めての夏を迎えるにあたって課題感もあるのではないかと考えていました。

ーー猛暑が続いていますからね。

今村:そうなんです。だからこそ「暑い夏に涼んでいただくようなイベント」が良いのかなと思い、涼しいニューロミュージックをかけたり、色や光で空間を心や脳波をととのえたりすることを目指した取り組みを提案しました。『JAM BASE』の魅力は、一社だけでは絶対にできないことが、関わっている人たちが「やろうよ」と言うことですぐにまとまってくれること。スピード感のあるコラボレーションができることは、スタートアップにとって非常に大きいことですから。

『JAM BASE』内観。うねっているような構造や吹き抜けの解放感が特徴的だ。©Nacasa & Partners Inc.

ーー規模感や会社の体力のことを考えると、多くのスタートアップは長期的なプロジェクトを複数抱えることは難しいですもんね。『JAM BASE』に入居していたことがコラボレーションのきっかけとのことですが、さまざまな資料等を拝見するに、この場所は「共創(コ・クリエーション)」を狙って作られたようにも感じます。

窪庭: ハード面から、共創が起きるような仕掛けを用意しています。例えば、施設の設計自体が通常のオフィスビルのような綺麗な四角形ではなく、非常にいびつな形をしています。このねじれた形状によって、意図的に「余白」の部分を作り出し、アクティビティを誘発する仕掛けを施設全体に配置しています。入居者であれば誰でも使えるキッチンや共用ラウンジを作ったり、オープンスペースをふんだんに設けたりと、偶発的な出会いを促進しているんです。

一般社団法人コ・クリエーションジェネレーター兼オリックス不動産株式会社の窪庭 潤氏

今村:入居している企業としてのリアルな体感ですが、本当にさまざまな人に会いますし、そこから色んな話になりますからね。

窪庭:ソフト面としては、月に1回の入居者交流会を必ず行っていて、イベントの場で出会ってもらうという仕掛けもしていて、開業から1年で実際に多くの事例が生まれています。2025年9月1日時点で約310社、1300名以上の方々に入居・入会いただいており、先日行った1周年イベントも参加人数が多く、非常に賑わっていました。

今村:「こんなに人がいるの!?」と驚きました。あと、 施設自体の入口でもある4階に支援組織のオフィスが並んでいるので、結構な確率で窪庭さんたちにもお会いできるんですよね。そして顔を合わせば応援してもらえる。スタートアップにとってこんなに温かいところはないなと思いました。

『JAM BASE』内に設置されているキッチン。入居者同士が交流を深めやすいように作られている。

ーー今回のプロジェクト以外で、過去にあった面白いコラボレーション事例についても教えていただけますか。

窪庭:直近の例ですと、入居するスタートアップが『JAM BASE』に参画している金融機関から、入居者交流会をきっかけにして資金調達をした事例があります。

 また、Basculeさんというクリエイティブの会社が入居していますが、彼らが運営するKIBO宇宙放送局という宇宙事業の一環で、万博で実施する「史上初の宇宙ライブイベント」を手掛けるにあたり、多言語に翻訳できるサービスを求めて『JAM BASE』入居企業のサイエンスアーツさんが持つ「リアルタイムに多言語へ通訳&配信するサービス」の「Buddycomアナウンス」と協業し、万博で実証した事例があります。

今村:実際、私たちも窪庭さんに紹介していただき、神戸大学の先生のスタートアップとミーティングをしました。その先生は元理研のセンター長だった著名な方が立ち上げた会社だったのですが、1周年記念パーティーでその会社の方に再度お会いした際に、その場で別の先生を紹介していただくことになり、トントン拍子で話が進みました。

窪庭:入居者同士の距離が近いので、ここで生まれた縁が別の縁につながることも多いですよね。

今村:これも大阪らしさなのかな、なんて思ったりもします。東京では社交辞令で終わってしまうことも少なくないのですが、大阪の方たちは「面白きゃやろうぜ」というノリで進むことが多く、土着的な文化・スタートアップ文化としても、その考え方が根付いているのかなと感じました。

上野:たしかに関西には「とにかく挑戦していく」「やってみなはれ」という精神が根付いている気がします。

『JAM BASE』の外観

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