『Is This Seat Taken?』レビュー 風呂キャン界隈、クチャラーなど押し寄せるバッドマナーをさばききれ

映画館は上映中の劇場内のスマートフォン使用をお断りしている。銀幕での鑑賞を愛する人にとってはルールだが、そうでない人はマナーだと考えているらしい。日常会話が指すマナーとは隣人として許せる振る舞いかどうかだ。マナーは人それぞれで違い、多くの映画館はチケット購入時に座席を割り当てるので、隣人のマナー違反には顔をしかめることしかできない。しかし、誰もが自由に座れたとしても全員が満足することはないだろう。
『Is This Seat Taken?』は全員を満足に座らせるロジックパズルだ。現代人によく似た暮らしの「フォルムン」たちはコミカルだが、しつけはよくない。風呂キャン・クチャラー・音漏れなど、とても信じられないバッドマナーが次々と押し寄せるぞ。

本作のプレイ感を例えるなら、実社会のシチュエーションから探した方がしっくりとくる。結婚披露宴の席決めがまさにそれだ。新郎新婦の近くに居たい、血縁や友人と一緒に居たい。人によっては苦手な食べ物があるだろうし、騒がしい人とおとなしい人は分けて座らせたほうがよい。参加者の要望を全て満たすとなればパズルゲームめいてくる。
この席決めパズルをいろいろなシチュエーションで楽しめるのが本作だ。フォルムンたちは席に不満を言うが、席を決められることには文句を言わない。時間制限はないのでじっくり考えてパズルを解こう。先で例えた映画館だけでなく、バスや電車に飲食店、それぞれにロケーション特有のバッドマナーがある。

もしもスタジアムで、隣人がビジターチームのファンで鳴り物を使ってきたなら? 自分がホームチームのファンならばいい気はしないだろう。席があり、人が居るなら、それはマナーのパズルである。
身体は毎日洗ってください
隣人がマナー違反しないようにする、とネガティブな体験を軸にすれば本作のルールがわかりやすい。これはパズルに悩んでいるのか、それともマナーについて考えているのか。日常生活にリンクした気付き体験で頭がくすぐったくなるぞ。

ゲームはステージ制で、1画面に収まる20~30席にフォルムン全員を座らせればクリアとなる。フォルムンをクリックし、イスをクリックすればそこに座る。ステージクリア時に満足な席のフォルムンからいいねがもらえる。パーフェクトいいねを達成すればスペシャルステージがアンロックされるので励まれたし。
ステージのつくりは日常にちなんだもので、なじみが深い。バスならば席だけでなく立つ場所もある。飲食店ではテーブルがありハンバーガーやポテトを出せる。教室には先生がいて、生徒全員が授業に集中するよう願っている。デフォルメがきいた造形に暖かみのある淡い色彩と、ゆったりしたピアノ曲(サウンドトラック)をのせて何気ない日常を描いた。この淡さで、黒地に白抜きの文句フキダシが日常を破るように演出したのが面白い。

いったい何に文句があるんだ? フォルムンたちはそれぞれ要望や特徴を持つ。要望は、ひとりになりたい・窓際に座りたい・親と一緒にいたい、といった身に覚えがある好みだ。特徴は香水の匂いがきつい・風呂に入っていない、といった範囲効果(言い含んだ表現)である。本人はどうともないが、そういうのを避けたい要望を持つフォルムンは近くに座るのを嫌がる。この、要望と特徴の合わせ技でパズルにひねりを加えた。おしゃべりしたいフォルムン同士は並んで座りたがるが、並ぶとおしゃべりしはじめ、付近の静かにしてほしいフォルムンが顔をしかめるのである。

他人にはそう座ってほしい、という願望がそのままパズルの攻略手順になる。まずは同じ特徴を持つフォルムンたちをまとめて端に置く。音漏れヘッドフォンは壁際に寄せる、クチャラー同士で相席させる、なぜなら耳障りで目障りで邪魔だからだ。当たり障りのない席を用意しておけば、要望や特徴が少ないフォルムンに座ってもらうのがラクになる。現実でも、みんなそう座ってくれたならよいのだが。現実と理想のギャップで笑えた頃には、パズルのエスプリを堪能できているだろう。

パズル難度の上昇はフラットでプレイ意欲を断つ壁はなかった。ステージギミックもアクセント程度で、本作ならではの独自ルールはない。難しさは少々手ぬるいが、気付き体験で頭を刺激する知的パズルがそろっている。グループで座るときに当たり障りの多い人を通路側に座らせない。電車でクーラーを使うときは隣人の要望も満たせるかを考える。こうした実社会での心配りに思わず気付いてしまうのがすばらしい。難度とは別のところに興味が持てるパズルを楽しめると請け合おう。
マナー違反がフォルムンをつくる
『Is This Seat Taken?』は席決めをモチーフにしたパズルを通じて、日常の振る舞いを省みるゲームだ。なぜ映画館は、上映中劇場内でスマートフォンの使用をお断りしているのか。そもそも映画館が断っているのだから禁止ルールなのだが、本作をプレイすればなぜお断りしているかを体験できよう。

プレイヤーの印象に残るフォルムンは数多い。範囲効果の特徴や、面倒な要望を持つフォルムンを座らせるのに手を焼くからだ。風呂に入らないのに座る席の要望が厳しいフォルムンには何度も怒ってしまった。それに対し、プレイヤーが好感を抱くのはパズルのキーパーソンとなる、何の特徴も持たず軽めの要望で満足できるフォルムンだ。君が居てくれてよかった、と感謝するのは一時だが印象には残らない。そうした寛容を当たり前のように流してしまうのも、実社会を示唆するかのように思える。

印象に残るか、好感を抱けるか。この違いは本作のストーリーにフレーバーを加えている。主人公のナットは自分探しの旅でいろんな国をめぐる。その旅路や暮らしのシーンにあわせて座る席の要望は変わる。そしてナットはあるマナー違反をしでかし、あこがれていた俳優の機嫌を損ねてしまう。それが自分も俳優を目指すきっかけとなり、後日、あこがれの俳優が機嫌を悪くした理由も知る。マナーとは不変ではなく気分で決まるものだ。マナーとは誰かを罰するものではないのだ。作中でそう声にしたワケではないが、マナー違反を防ぐパズルだからこその含みがある。意図できなかった失礼な行為に許しをあたえている、という意味でマナーのありようを考えるゲームだ。






















