連載「音楽機材とテクノロジー」第17回:星銀乃丈

作編曲家・星銀乃丈と共に振り返る“創作のルーツ” DAWネイティブな幼少期を過ごし、渋谷系とアイマスに魂を震わされた新鋭

キャラクターソングは「妄想」が命

――アニソンというのは、キャラクターがたくさんいたり、ユニゾンで歌ったりする曲も多いですよね。そういった多人数ボーカルの曲を作るときならではの考え方はありますか。

星:歌詞の一行一行ごとに異なるボーカリストの方が歌ったりするので、技術的な制約から解放されるという良さがあるんですよね。誰か歌わなくてもいい人がいるから、その人に待ってもらうことで、次の行にも息継ぎなしに行けたりとか。

 あとは、大勢で歌う曲のハーモニーって、ひとりで歌うよりもいい意味でひたむきさが出ないというのがありますね。ひとりで歌うと、一対一の人間で向き合っているからこその切迫感みたいなものが出てくるんですけど、そこから解放されて、純粋に音のハーモニーとして、素直に届けられる良さがあると感じます。

 だからこそ、シリアスな内容の歌詞をあえて入れやすいみたいなのもあります。ひとりが歌うと重くなってしまうようなことも、大勢のボーカルだと言えたりする。そういう面白さを感じていますね。一方で一人に滅茶苦茶芯食ったことを言わせよう、みたいなのもあるんですけどね。

――キャラソンというのは、声優さんが演じて、キャラクターというフィルターを通して歌っている部分があるわけじゃないですか。おちゃらけたキャラクターがシリアスなことを歌っても「解釈違い」になるしみたいな、キャラクターによって制約される部分もあると思うんですね。そこでお聞きしたいのが、声優さんとキャラクター、どちらが歌っていることを想像しながら作ってらっしゃるのかなと。

星:それはもう、圧倒的にキャラクターを想像していますね。キャラクターがその世界で生きていて、「アニメの中じゃ言えないこともあるでしょう」みたいなことを勝手に自分は考えながらいつも作っていて。アニメのセリフじゃない、そのキャラクターが家に帰ってから寝る時にどう思ってるのかとか、物語の中では言えないことって何なんだろうというところを、自分事のように考えながら作っていく。制作中はそのキャラクターのことをずっと考えてるから、一心同体になっていくんですよ。そういうところが、キャラソンを作っていて好きなところですね。

この音楽があることで、世の中がより良くなるように

――最近のトピックとして、『学園アイドルマスター』藤田ことね(演:飯田ヒカル)さんが歌唱する、「GO MY WAY!!」の編曲のお仕事(原曲は作詞:yura、作編曲:BNEI[神前 暁])がありましたね。歴史ある1曲ですし、星さん的にも大きな出来事だったのではないかと。

星:あれは、ちょっとすごかったですね……。昔の自分が見たら、もうひっくり返るんじゃないかなと。なんならサイリウムを振っていた側だったので、夢のような時間でしたね。

 そもそもアニソンの世界に深く入り込んでいった大きな要因として、「アイドルマスター(アイマス)」シリーズの存在はめちゃくちゃ大きくて。自分の音楽性に関しては先ほどもお話ししたように、渋谷系の影響がすごく大きいんですが、2010年代の「アイマス」作品……というか765PRO ALLSTARSの楽曲って、すごく渋谷系の文脈を感じる時期だったんですよ。ピチカート・ファイヴやカジヒデキの曲をカバーしたりしていて。そこで、もともと好きだったアニメカルチャーと音楽とがシンクロしていった結果、「アイマス」というブランドにすごくシンパシーを感じて好きになったという出来事があったので。

 あとは小さい頃の原体験として、ゲーセンに行くと『太鼓の達人』があって、みんなで遊ぶ中で必然的に、「GO MY WAY!!」とか「Do-Dai」とかを聴くようになって……もはや、自分の歴史でもあるんですよね。「アイマス」というブランドとしてもそうだし、歌唱された声優の飯田ヒカルさんも小さい頃から聴いていて、並々ならぬ思いがあったとおっしゃっていて。いろんな人たちの人生が乗っかっている楽曲だということをすごく感じながら、本当に誠心誠意向き合いました。

――どういった音遣いをしたのかなど、制作のアプローチをお聞かせいただけますか。

星:「昔、こういう曲あったよね、よかったよね」という方向に行ってしまったらダメだと思ったんですよね。それではここから知っていく人たちにリーチしないというか。だから、この今の時代に、あの頃の自分みたいな子がいたとしたらと想定して、ちゃんと今の価値観を持って感動できるかをすごく考えました。「昔のいい曲」じゃなくて、ちゃんと新曲としても聞こえるように、原曲の神前暁さんのアレンジをリスペクトしつつも、今の形としての「GO MY WAY!!」ってこういうものなんじゃないかって思う形で作りましたね。

 具体的には、原曲の音数は当時のポップスとしての音数なので、今やるとしたらもうちょっと違う音数になるだろうなというところ。それと、今の空気感を持ったアレンジというものが、自分の中ではあるんですよ。

 わかりやすいところで言ったら、音の質感と音数、ストリングスのフレージングなどですかね。あとはブラスの絡み方とか、そのあたりは原曲と全然違うアレンジになっているので、比べて聴くと新鮮に感じてもらえるのではないかと思います。

――ほかに最近のトピックでいうと、『紫雲寺家の子供たち』では初めて劇伴にも取り組まれました。やってみていかがでしたか?

星:すごく手応えを感じましたね。自分の中で、スッと出てきたというか。感情に音をつける行為がそもそもすごく好きなので、このキャラクターが本当に言いたいことって何だろう、という本質的なところは一緒だなと。キャラソンを作るのが好きな自分が、劇伴もすごく楽しく作れたのは自分でも納得感がありました。

――今後「こういう作品に劇伴として参加してみたい」といった展望はありますか。

星:そもそもアニメカルチャーが好きなので、感情の機微を繊細に描くような物語も、大胆に展開していく物語も、どんなものでもやっていきたいなと思います。

 ただ、アニソンという枠で自分は仕事しているけれど、「アニソンだからこうあるべき」みたいなことはあまり考えていなくて。そもそもリスナーとして、アニソンだからとか、J-POPだからという聴き方はあまりしてこなかったんですよ。全部がミクスチャーされて自分の中に入っているので、そういった枠にとらわれない楽曲たちを、音楽そのものとして、「こういう音楽が世の中にあったら、世の中がより良くなっていくだろうな」というマインドで曲を書いていきたいです。

 なので、アニメでも、J-POPでも、演劇の音楽でも、お笑いの音楽でも、CMの音楽でも、それこそ生活の中にあるような、「お風呂が沸きました」みたいな音楽とかでも、枠にとらわれず作っていけたらなと思っています。

――最後にお聞きしたいのが、歌詞についてです。今日もすごく明瞭に言語化してくださるなと思って。自分で書かれる場合もあると思うんですけど、どういう関わり方をすることが多いのでしょうか。

星:ありがたいことに、自分に依頼をしてくださる方は、「星さん、どういう曲を作りましょう?」というところから、ゼロベースで提案してくださる方が多くて。もちろん先方側で、作詞はこの人で行きたいですというのが決まってる場合もあるんですけど、ゼロから一緒に作りましょうという時は、自分から「それだったらこういう作詞家さんがいます」と提案させていただくことも結構あります。

――クライアントと話し合うなかで星さんご自身が最適となったら、自分で書きますよ、というパターンもある?

星:基本的には作編曲でご依頼をいただいて、その役割をこなすことがほとんどなんですけど、自分に作詞まで頼んでくださる方は、tiny baby時代から聴いてくださっていたり、面白い曲を作ってやろうという熱い気概に溢れた方ばかりで。そういう時はそのまま書く流れになることがありますね。

――作詞という作業自体は好きですか? 本棚を拝見すると、結構文学作品とかも並んでいるなと。

星:いやあ……これが、好きなんですけど、時間がかかるんですよ。編曲が一番早くて、作曲がその次で、作詞が一番時間がかかる。

 やっぱり言葉って、直接的に意味を伝えることができるものだからこそ、すごく慎重になるし、言葉じゃ言えないところを音楽で書いているという意識があるからこそ、曲で言ってることを超えた詞を書かなきゃいけないと思うところもあったりして。でも、来年は作詞だけといった制作もあったり、これまでとはまた少し違った動きも出てくるかなと感じてます。

 表現の形は選ばずに、新しい景色を作っていけたらと思いますね。

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