映像にとって大事な“音”のクオリティを上げるためにーーTASCAMの最新製品を取材してわかった「トレンド」と「丁寧さ」

 ここまで最新の機材を紹介してきたが、2000年代初頭から音声録音を始めた筆者にとって、隔世の感があると言わざるを得ない。それもそのはず。タスカムは、ここ数年のニーズの変化に柔軟に対応してきたのだ。

 スマートフォンとインターネットサービスの充実によって、動画コンテンツが個人でも手軽に始められるようになるなかで、音声クオリティの向上が課題となっていた。タスカムは、スマートフォンとの接続により手軽に高音質を実現する製品を開発。現在でも、『DR-05XP』のようなエントリークラスのレコーダーを直接スマートフォンに繋げてライブ配信をするユーザーもいるという。

 動画コンテンツ制作にこだわりだすと、面倒になるのは映像と音声の同期だ。ここ1、2年のトレンドとして、タイムコードがかなり一般的になってきたという。

 「例えばミラーレスカメラでインタビューを撮るとします。音声はガンマイクを繋げた『FR-AV2』と演者さんに装着した『DR-10L Pro』で同時に録っておいて、編集時にタイムコード機能を使えば、映像と2つの音声素材を簡単に同期させることができます。

 1日中ロケしてレコーダーを何度も使っていると、編集する段階で多数の素材を前に苦労することがありますが、タイムコード同期を使えば、散らばった素材をタイムラインで合せるのも簡単です」(青山氏)

 筆者がエンジニアとして仕事を始めたのは、Podcastが日本で広がり始めていた2006年だった。プロが作るインディペンデント番組で録音と編集を担当していた。

 その後、PodcastやWEBラジオはいったん下火にはなったが、ここ数年は音声ストリーミングサービスの影響で、音声コンテンツが見直され始めている。タスカムとして音声コンテンツ向けの需要について、どのように考えているのか尋ねてみた。

 「コロナ禍の配信ブームがきっかけとなり、その中で音声コンテンツも作って交流する方々が増えていきました。弊社のPodcast関連の製品を手に取っていただけるお客様は、同時に音声配信でもそのまま使っていただけるんです。コロナ禍が明けて国内ではPodcast向けの需要は減少傾向にありますが、それでも配信では便利に使えるため、引き続きケアしていきたいと考えています」(青山氏)

 国内でのムーブメントが過ぎ去ったとはいえ、これまで活動してきたプレイヤーたちは、より一段上のステージに行きたいと考える人もいるはずだ。今回紹介した機材は、どちらかというと映像向けのアイテムだが、Podcastやライブ配信に特化したミキサー兼レコーダーもタスカムは用意している。フィジカルフェーダーやポン出し用のサウンドパッドを備えた『Mixcast 4』などがそれだ。

 「他にも『Model 12』をはじめとした、Modelシリーズのように、デジタルミキサー(レコーディングミキサー)は継続して販売しています。レコーディングはもちろん、ライブ配信にも利用できる本格的なミキサーとして、ステップアップしたい方の選択肢には入るかと思います」(花田氏)

 筆者は駆け出しの時代、それこそPro Toolsがサードパーティーのオーディオインターフェースでも動くようになった2010年くらいからタスカムの機材に触れてきた。一般層が手に取れる価格の製品も、期待を超えるクオリティで素晴らしいのだが、物量を投入した高級機も使ってみたいと考えていた。ハイエンド機の開発について水を向けると、現在のラインナップとして、マイクプリの『SERIES 8p Dyna』やデジタルミキサーの「TASCAM Sonicview」シリーズを挙げてくれた。

 『8p Dyna』は、Ultra HDDAを超えるHDIAマイクプリを搭載し、S/MUX光出力端子(ADAT互換)を備えることで、他のオーディオインターフェースの入力拡張ユニットとしても活用できる。Sonicviewシリーズは、放送・ライブ向けの業務用であるが、Class 1 HDIAマイクプリアンプを搭載するなど、最上級の高音質を追求している。

 「今回取り上げていただいた製品もそうですが、やはり値段以上のグレードを提供したいというスタンスで作っています。お求めやすい価格を設定しつつ、安かろう悪かろうではないことをお客様にいかに伝えるか。タスカムの音はこうだよと言えるように信念を持って日々開発に励んでいます」(青山氏)

 タスカムは機材だけを作っているわけではない。便利なソフトウェアも提供している。筆者はDSDからPCMへの変換が高品質で行える「TASCAM Hi-Res Editor」を使ってきたが、音声ファイルの管理に役立つ「TASCAM Audio File Manager」も注目に値する。

 ソフト内での波形表示に対応し、ノーマライズや一括リネームなどのDAWへ移行する前の作業効率化を目指して開発されたとのこと。個人的には、DAWで録った音声をとりあえずの名前で書き出して、波形を見ながら最終チェック、納品のためのリネーム作業も一括で行なうような用途でも使いたいところ。

 巣ごもり需要は落ち着き、機材が品薄になったあの加熱ぶりは、少し懐かしく感じるくらいだ。とはいえ、今も配信や動画制作の勢いは健在だし、個人的にはPodcastも改めて日本でブームになることを期待したい。

 そんな時代の変遷の中、タスカムはこれからも日本メーカーならではの丁寧な物作りでユーザーの期待に応えてくれることだろう。今回の取材で改めてファンになった自分がいた。

 「クリエイターの方が困っているところを私たちの製品で助けていく、ワークフローの効率を少しでも上げていくことを目指してやっていきたいです。何より音質はしっかりしたものを今後も開発していきますので、ご注目いただければ嬉しいですね」(青山氏)

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