ただの“一般宇宙人”では終わらない 所場が初個展『自分展』で見せるクリエイターの顔

2024年7月、ソーシャルVRプラットフォーム『VRChat』を舞台に、一つの物語が生まれた。人気ストリーマー・スタンミと、名もなき“一般宇宙人”所場(トコロバ)との偶然の出会いである。あれから約1年。物語の登場人物だったはずの宇宙人は、今や一人の独立したクリエイターとして、自らの個展を開催するまでに至った。
所場がいかにして自らの足で立ち、多くの人々を魅了する存在へと成長したのか。本稿では、昨年の配信界隈をにぎわせたスタンミ&所場の出会いを振り返る形で見ていきたい。
すべては、スタンミが『VRChat』のワールド「NAGiSA」で配信を行っていた時に始まった。5分間で話し相手がランダムに変わるこのワールドで、スタンミは奇妙でどこか愛嬌のあるエイリアンのアバターをまとった所場と出会う。
そこで意気投合した二人は、その後もたびたび交流を重ねていく。二人の間に特別な約束があったわけではない。しかし、彼らはまるで夏休みを過ごす学生のように純粋に遊びを楽しみ、その計算のないドラマは多くの人を魅了した。アイスを片手に夏らしいワールドを巡り、笑い合う姿はジュブナイル映画をリアルタイムで見ているようだった。
そして2024年8月27日、その物語は一つの結末を迎える。夏の思い出を巡る配信の最後として、『VRChat』の名作ワールド「PROJECT: SUMMER FLARE」を舞台に繰り広げられた感動的な別れのシーンは、多くの視聴者の心を打つこととなる。
スタンミと所場の「お別れ」は、単なる配信の台本ではない「ひと夏の思い出」としてファンの記憶に深く刻まれた。この「一度完結した」という事実が、後の復活劇への期待とファンの熱意を高める、重要な「溜め」になったのである。
このひと夏の冒険は視聴者の心を強く打ち、ファンアートという形で熱狂が広がっていった。その中で、所場が使うアバター『Wormiesock』も大きな注目を浴びる。このエイリアンアバターは元々海外ユーザー向けに販売されていたモデルだったが、日本での爆発的な注目を受け、ピクシブ社が運営する『BOOTH』にて国内ユーザー向けの販売が開始された。
所場の登場によって発見された宇宙人アバター『Wormiesock』は、その後順調にユーザー数を増やし、やがてコミュニティを形成していくこととなる。そして、スタンミと所場の再会の舞台は、この『Wormiesock』たちが集う母星「Wormie Planet」であった。配信で出会った仲間たちの力も借り、母星へと向かう新たな冒険が始まったのだ。
「Wormie Planet」は二人の再会後、「地球との航路が開いた」という設定で一般公開されたワールド。今では『Wormiesock』たちのコミュニティ拠点となり、スタンミの配信を皆で見るパブリックビューイングや、コミュニティイベントの開催、さらには『バーチャルマーケット』へのコミュニティ出展など、独自で活発な文化が育まれている。1年の年月は、コミュニティが熟成するのに充分な時間であったといえよう。
話を戻して、物語の登場人物だった所場は、やがて自らの物語を紡ぐ「主体」へと歩みを進める。元々イラストなどを描く創作者であることは明かしていたが、2025年2月には自身のYouTubeチャンネルを開設。「人気ストリーマーの配信に登場した一般ユーザー」から「コンテンツ発信者」へと移行した、キャリアの重要な転換点であった。
クリエイターとしての最初の大きな仕事は、スタンミと共に出演した『オーバーウォッチ2』のプロモーション配信だった。過去に同作へ熱中していると語っていた所場の「好き」が、直接仕事へと繋がった瞬間だ。しかし、この時点ではまだスタンミと共に配信をおこなっており、彼の助けを得ての出演であった。
本当の意味での独り立ちは、その次に訪れる。『オーバーウォッチ2』に新規キャラクターが実装された際、所場はイラストレーターとして公式ファンアートの制作を依頼されたのだ。所場にとっては、ひとりのクリエイターとして認められた瞬間だ。
◥◣新ヒーロー『フレイヤ』がついに登場!◢◤
新ダメージ・ヒーロー『フレイヤ』の正式リリースを記念して、公式ファンアートを公開!
🎨所場さん/@105ro8
射撃とポジショニングをマスターして、究極のハンターの称号をその手でつかみ取りましょう!🏹#オーバーウォッチ2 pic.twitter.com/Ygju47RzG8
— オーバーウォッチ (@jpPlayOverwatch) April 23, 2025
その後も所場は、『META TAXI』への出演など、着実にひとりのクリエイターとしての露出を増やしていった。
そして2025年8月、所場のクリエイターとしての歩みは、初の個展『自分展』という形で一つの集大成を迎える。個展は大阪でのリアル開催と、『VRChat』でのバーチャル開催の二軸で展開される。ファンミーティングのチケットが完売し、追加枠が設けられるほどの盛況ぶりは、所場がコミュニティとの繋がりを何よりも大切にしてきたことの証でもある。
🐶初個展、開催ほぼ決定!🍣
ってことで、自分のサイト作ってみた!!
今後もここに情報載せていくっすよん~オフラインイベントの日程アンケートも実施中、要チェックっす🫵https://t.co/EBM2mdG1cM
— 所場 (@105ro8) June 22, 2025
宇宙人との偶然の出会いから始まった冒険の夏は、さまざまな出来事を経て、一人のクリエイターの誕生、そして初の個展開催という、新たな冒険の夏へと繋がった。
所場の歩みを振り返ると、重要なターニングポイントが二つ見えてくる。一つは、多くのファンを熱狂させた「夏の冒険」を、一度きちんと完結させたこと。そしてもう一つは、配信に登場する宇宙人に留まらず、自らの手綱を握り、一人のクリエイターとして歩み始めたことだ。そんな所場が今後、クリエイターとしてどんなことを表現していくのか。『自分展』と銘打った個展は、その答えを知るための絶好の機会となるに違いない。






















