連載:クリエイティブの方舟(第三回)
水溜りボンド・カンタ×映画プロデューサー・雨無麻友子対談 “高校&大学の同級生”からみた「クリエイターとしての変化」
400万人超えのYouTube登録者を抱えるチャンネルのブレーン的役割を担い、「佐藤寛太」名義でミュージックビデオなどの映像作家としても目覚ましく活躍する水溜りボンド・カンタと様々な業界のクリエイターが、クリエイティブの源流を含む創作論について語り合う連載企画「クリエイティブの方舟」。
第3回は、映画プロデューサーの雨無麻友子が登場。経済誌『Forbes』が選ぶ世界を変える30歳未満の日本人「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」の受賞歴もある雨無とカンタは、高校&大学の同級生。学生時代の思い出を振り返りながら、お互いのことをどう見ているのかを語ってもらった。(編集部)
「初めてこのレベルのストイックな人間を見た」(雨無)
ーーお二人は高校から同じとのことですが、実際にファーストコンタクトはいつなのでしょう?
雨無麻友子(以下、雨無):高校2年生のグリーンキャンプです。
カンタ:グリーンキャンプだ! そうだ!
雨無:“グリーンキャンプ”っていう言葉がもう懐かしい(笑)。
カンタ:春休みとか秋休みとか、長期休みの期間に学校が持っている施設に行くんだよね。強制ではなく、行きたいメンバーが行く感じで。
雨無:自然教室みたいなものですよね。わたしたちの高校は10クラスくらいあったんで、みんなが知り合い! っていうわけではなかったんですけど、そこでたまたま会って……。
カンタ:あのときは、お互いこういう仕事に就くって思ってなかったから、本当に普通の高校生だったよね(笑)。
雨無:水鉄砲で遊んだりしてた。
カンタ:僕は女の子の友達のなかだったら、トップクラスに仲良かったんじゃないかな? と思ってるんだけど。
雨無:え? 本当? でも確かに……(笑)。相当女子と仲良くなかったんでしょうね(笑)。
カンタ:本当に喋んなかったのよ。だから、珍しいケースだったの!
ーー何かしらのグルーヴが合ったんですかね?
カンタ:映像の話なんかも当時はしてないはずだけど……。
雨無:そうですね……あ、でも文化祭で委員長をお互いにやったりしてましたね。そういう「ふざけてるけど、真面目な部分もある」のは共通点だったかも。
ーー雨無さんは、高校時代からカンタさんにクリエイティブの才能を感じていましたか?
雨無:高校時代は……ないですね。坊主だったし(笑)。
カンタ:バスケ部は、全員坊主で。バスケをせずに走らされてましたから(笑)。クリエイティブと言えるようなところはゼロだったかも。
ーーそこから、大学の学部も同じで。
カンタ:僕たちがいた総文(=総合文化政策学部)は、ちょっとクリエイティブな部分がある学部だったから。雨無さんは、そのころから映像の仕事に就きたいなと思った?
雨無:うん。高校のときから、映像を使った授業とかも多かったよね。
カンタ:多かったね。
雨無:プレゼンで喋るのが苦手だったから、映像を作ってそれを流したりしてたの。そのあたりから、映像を作る楽しさに気づいた感じかな。カンタはどうして総文に?
カンタ:僕は、お笑いが好きで、みんなを驚かせたいみたいなのはあったけど、雨無さんみたいな明確な目標があったわけではないんだよね。ただ、学部を選ばなければいけないってなったときに、映像がいちばん興味があるかなぁって。
雨無:じゃあ、本格的にクリエイティブな世界に興味を持ったのは、大学に入ってからなんだ。
カンタ:よく編集スタジオで会ってたよね。
雨無:会ってたというより、スタジオに行ったら、絶対にパソコンの前にいた(笑)。
カンタ:妖怪みたいに言うなよ!(笑)
雨無:地縛霊みたいだったよ。
カンタ:たしかに、朝から晩までパソコンの前に座ってはいたけども。だから、雨無さんが来ると、「人と会えた!」って感じだったもん。地縛霊からしたら、嬉しいんですよ。人間が来ると(笑)。
ーー大学生時代にお二人でMV(ミュージックビデオ)を撮っていると思うのですが、ここに至るまでにはどういったコミュニケーションがあったのでしょうか。
カンタ:右も左も分からない状態のなか、雨無さんに「MVを撮りたいんだけど!」とか言ったりしてましたね。高校時代から、勝手に友達だと思っていたんで、「分からないことがあったら、雨無さんに聞けばいいや」って感じの雑な頼り方をしちゃってた(笑)。
雨無:それで、一緒にMVを撮るようになったんだよね。
カンタ:俺が、YouTubeを始めたとき、どう思ってた?
雨無:なんか、職人みたいになったなと思いましたね。あまりにもやりすぎてたから。だって、毎日投稿とかしてたでしょ?
カンタ:うん。始めたときに「毎日投稿します」って言っちゃったから。俺、そういうのすごく守っちゃうタイプじゃん。
雨無:本当にストイックだよね。部室の下とかでも撮影しててさ。
カンタ:そうそう。あの狭い場所でね。親がある程度厳しかったから、大学のうちに結果を出さなきゃって気持ちが強かったんだよなぁ。じゃないと、普通に就職しなきゃいけなくなると思ってたから。
雨無:カンタはストイックすぎる。あの時、人生で初めてこのレベルのストイックな人間を見たと思う。パソコンから離れる瞬間なんて、ほとんどなかったでしょ?
カンタ:移動もパソコンをいじりながらだったからね。大学でも、みんなが血眼になってスマホを充電する場所を探しているなか、俺は「MacBookの充電が切れたらやばい!」って思ってた。
雨無:それでいうとその時は大分様子がおかしかったよ(笑)。
カンタ:でも、雨無さんはその狂気に引いてなかったよね? ここまでやばい人いるんだ! って感じで話しかけてくれた記憶がある。雨無さんは、ヤバい人がいたときに、ドン引きするんじゃなくて、“ヤバい人ボックス”に入れた上で、普通に接することができるじゃん? そういうところも、プロデューサーに向いてるよね。あの時期の俺って、人を頼ろうとしないというか。自分しか信じられない時期だったんだよ。
雨無:そんな感じはしてた。
カンタ:だけど、雨無さんには「誰か頼れる人いないかな?」って聞くことができた。そういう関係性の人がなかなかいなかったから、特殊だったなぁ。結構、無茶苦茶な質問もしちゃってたよね?
雨無:「YouTubeのテロップ打ってくれる人いない?」とか、「MV撮りたいんだけど、どうしたらいいんだろう?」とか、色々相談されたのを覚えています。
カンタ:「明確な知識はないけど、やってみたい!」と言う人に対して、「こうしたらいけんじゃない?」とアドバイスをくれる人って、なかなかいないのよ。何も分かってない俺を見捨てず、丁寧にいろいろ教えてくれて。本当に感謝してる。
YouTubeクリエイターと映像プロデューサーの「相違点」とは?
ーー大学卒業前後、映像というジャンルにそれぞれ違ったアプローチで向かい合っていたお二人ですが、それぞれの活動をどう見ていたのか、というのも気になります。
カンタ:YouTubeクリエイターは、企画はじっくり考えるけど、撮影はどかっと3時間くらいで撮るのね。そこから、カットして短くして。たとえるなら、石を彫刻刀で削って形を出していく感じ。でも、雨無さんがやるのは、理想的なかたちを最初に作った上で、実際にものにしていく作業じゃん? そこが、真逆だなと思ってて。
雨無:カンタはよく「とりあえず撮影してみようよ!」って言ってたよね。
カンタ:そうそう。同じ映像だけど、まったく違うんだなって刺激をもらった。
雨無:あのころのカンタは、「他人軸に寄りすぎちゃって、自分軸がなくなってる」って悩んでいた時期でもあったから。YouTubeをやっていると、分析とかも必要になってくるし、どうしても他人軸に寄りすぎちゃうのは分かるんだけど。当時はかなり苦しんでたよね?
カンタ:他人に共感されるものとかをすごく重視していたから「自分が何が好きなのか分からん!」という状態になってました。それこそ、1日中パソコンと向き合ってたら「息抜きに映画でも観るか〜」となっても、バズってるもののなかから選ぶ……みたいになっちゃうのよ。
雨無:なるほどね。
カンタ:だから、雨無さんに「わたしがMV監督をやるなら、あなたが何を表現したいのかまず教えてください」って言われたときに、怖すぎて(笑)。
雨無:あはは(笑)。それを分かってたから、聞いた部分もある。ちゃんと、自分の意思で選択をさせていかなきゃダメだなって。たしかに、めっちゃ嫌がってたね。
カンタ:めっちゃ嫌だった! だってさ、「ヒロインは君で」のMVで、「女優さんに何の服を着てほしい?」って聞かれたとき、「その人が着たい服でいいよ〜」ってなったもん。
雨無:もちろん、それでいいときもあるんだけどね。意図があるなら。
カンタ:俺さ、映像で伝えたいことはあるのね。たとえば、サビでジェットコースターに乗せたら、普段見られない表情が見られるかな? とか。そういうアプローチはできるんだけど、「後ろに乗ってる人は男性がいい? 女性がいい? それとも、カップル?」って言われても、「いや、知らん!」って(笑)。あのころはなんでも聞いてくるお母さんみたいだなと思ってた。「もういいよ! よろしくやっといてよ!」みたいな。
雨無:めっちゃ伝わってたよ(笑)。
カンタ:でも、多くの人の心に残り続ける作品って、そういうふうに作り手が細部までこだわって作ったものなんだろうなって。いまになって、ようやく分かってきた。当時はさ、数字至上主義だったから。
雨無:それも、悪いことではないんだけどね。
カンタ:たとえば、「青と赤、どっちがいい?」って聞かれた時、「赤の方がサムネイルで映えるな」とかいう選び方はできるの。でも、「この人は、こういう人だから赤色の服を着てると思う!」みたいな選び方はできなかった。いま、こういう感覚になることができたのも、あのころ、雨無さんが“どうする攻撃”をいっぱいしてくれたおかげなんだよね。
雨無:もちろん、映画もそういうマーケティング要素がまったくないわけじゃないし、分析も大事だと思うよ。
カンタ:映像関係の人で、「数字って意味ないじゃん」って言ってくる人とかいるじゃん。
雨無:いるね。
カンタ:そういうとき、やってきたことを全否定された感じがして、怖くなるんだよね。「作ったって売れなければ意味ないだろ!」と言い返したくなる自分もいるんだけど。雨無さんは、大学時代から「どっちも大切だよね」というマインドを持っていた気がする。
雨無:うん。わたしは、塩梅が大事だと思ってる。
カンタ:だから、話しかけやすかったのかもしれない。アートとか造詣が深い人って「話しても分かんないだろオーラ」が出てたりするんだよ。だから、憧れてても近づけなかったりする。でも、僕はそういう話も聞いてみたかったから。
雨無:カンタはいろいろなことに興味を持って、それを吸収する力があるよね。
カンタ:YouTubeをやってると、消費をされていく感覚があるから。自分のインプットって、数字しかないかもって思った時にすごく焦ってた。限界を感じたというか。
雨無:だから、写真を始めたりしたのか。
カンタ:そうそう。大衆的になるのが嫌だったり、「俺がなんなのか、俺も分かんねえよ!」と自暴自棄になりかけた時期もあったけど、いまはこんなにたくさんの人に動画を見てもらえるって、幸せでしかないじゃん! って感謝できるようになった。