オーディション企画を取り入れて成長を遂げた「めるぷち」。VAZのキーパーソンが語るコンテンツ制作の今とこれから

「人に依存しない仕組み」を目指したオーディション企画

ーー「めるぷち」はメディアとしても、芸能タレントを目指す場所としても機能しているのがすごいなと感じていました。そこでお聞きしたいのですが、最初に「めるぷち」を立ち上げたクリエイターの4人だけで完結するのではなく、いずれ卒業して次へ進み、新しいメンバーを加えていくような“入れ替わり”の構想は当初から描いていたのでしょうか?

岡田:正直なところ、最初は明確に構想があったわけではないのですが、「中学生で影響力の強い4人を固めたら絶対伸びる」という確信はありました。当時の「MelTV」もそうでしたが、メディアというよりはクリエイター個々の影響力に依存していて、どうしても"人"に依存するかたちになりがちでした。

 「めるぷち」も初めは中学校の卒業をタイミングにメンバーが抜けていくという前提で始めたのですが、初期メンバーの影響力に依存していたこともあって数字も徐々に下がり、苦しい時期を迎えていました。YouTubeは芸能人の参入などもあってレッドオーシャン化し、TikTokもライバルとなるTikTokerが増加し、初期メンバーの頃のように爆発的にフォロワーが増える環境ではなくなっていたのです。

 私はマネジメント中心に動いていましたが、その状況を打破したいと思い、本腰を入れて「めるぷち」を立て直そうと決意しました。まず取り組んだのが、新規メンバーを募集するオーディション企画と、加入後にグループを代表するメンバーをかけて戦う「選抜決定戦」です。世のなかではサバイバル番組や恋愛リアリティーショーが流行っていたので、この流れをどのように取り入れられるかというアプローチを考えました。

 とくに意識したのは、「出演者の影響力に依存しない仕組み」を作ることでした。そのため、「誰が出てるか」ではなくターゲットとする視聴者が「何を見たいか」分析し、「めるぷち」を通して出演メンバーが新たなファンを獲得できるようなキラーコンテンツを生み出すことに注力しました。その中で、小中学生たちがYouTuberを目指して競い合うオーディション番組というのは新しいコンセプトだと思いました。さらに、K-POPなどのアイドル系オーディションは1回限りで終わることが多いなかで、「毎年やる」「加入後もポジションをかけて戦う」というのも当時あまりなかったので、マーケットのなかでもポジションを取りに行けるのではと思ってスタートしたんです。

ーー実際のところ、反響やデータ面ではどうだったんでしょうか?

岡田:YouTubeのトレンドとしても、TikTokなどのショート動画に対抗し、かつて主流だった8分程度の「すきま視聴」動画から、30〜60分規模の「ながら視聴」「コネクテッドTV視聴」動画へとニーズがシフトしていたので、新しい視聴者を取り込むには効果的だろうという見立てはありました。そういう意味では、想定通りの反響があったという感覚でしたが、それ以上に収穫だったのは、オーディションや選抜決定戦をきっかけにユニーク視聴者数が爆発的に増えたことです。

 これまでの視聴者とは別に新しいファン層が流入し、さらにはもともと応援してくれていた人たちも引き続き視聴してくれていたこともあり、月間150万〜180万人くらいのユニーク視聴者が育ったのはすごく大きかったですね。今では、コアターゲットである女子中学生が約70〜80万人見てくれるようになりました。この数は全国の女子中学生約150万人のうち半数にあたります。また、公開オーディションというスタイル自体が、“推し”を作りやすい構造を持っていたこともポイントだったと感じています。

批判を見越した運営に注力

ーー近年だと、オーディション番組を“個々の出演者目当て”ではなく“コンテンツやチャンネル自体を追いかける”ようなファンが増えていく流れが顕著になっていますよね。結果として、大人の視聴者層も増えている印象もありますが、その辺りのデモグラフィックの変化についてはどう感じていますか?

岡田:デモグラフィックに関しては、確実に変化が出ていますね。とくにオーディションや選抜決定戦の期間中、YouTubeでは18歳から24歳の女性の視聴者が普段より多く見てくれている印象です。アイドルの“推し活”をしているような方々がオーディション番組に惹かれて見てくれていて、そのなかで「めるぷち」を選んでくれることが多かったです。

 いまでもボリューム層は小中学生ですが、最近では女子大生がイベントに参加するようになり、グッズを購入してくれる現象も増えてきました。これも、オーディションを通じて知ってもらい、応援しようと思ってくれた結果だと思っています。

ーーオーディションを毎年続けていくなかで、マンネリ化しないために意識していることはありますか?

岡田:毎回少しずつ演出の規模感を大きくしたり、審査の内容やルール設計は常に新しいことを取り入れるように意識しています。また、今後は審査員のキャスティングにも注力していきたいと考えています。実はオーディションや選抜決定戦の審査員は私自身やVAZの社員がこれまでメインで担当してきていますが、最近はプロのタレントさんや著名な方にも審査していただくことで、メンバーにとってより成長の機会となり、コンテンツとしても箔をつけていくべきだというのを強く感じています。

ーーなぜご自身自ら審査員をやろうと思われたのですか?

岡田:なぜかというと、このような若年層が視聴するコンテンツで若い子たちに厳しいことを言ったり、オーディションをすることは、必ずしも好意的な反応ばかりではなく、批判もあり、審査員もその標的になると予想していたからです。

 賛否両論はあっても、その分多くの注目を集め、そこでひたむきに努力しているメンバーをこれまで知らなかった方にも見ていただける機会になる、そう確信していたため、最初は自分がしっかり矢面に立って進めていこうと決めました。

 また、選抜決定戦はすでに「めるぷち」メンバーになっている子たちを審査するわけですが、自ら審査員として向き合うことで、表面的な結果だけではなく、メンバー1人1人の気持ちの変化や精神的な成長、新たな個性や隠れた努力にも気づくことができます。それによって、普段は見えてこない魅力を知り、1人のタレントとしてどうプロデュースしていくか、気づきを得ることができるという意味でも審査員をやることにしました。

関連記事